お別れ会
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「お別れ会をしよう」
そう言い出したのは、ジュリアンだった。
神渡りも終わって年が明け、最初の休息日にエリゼとディアーナが帰国することになった。
父であるディスマイヤから泣き言が綴られた手紙が届いたのだ。さらに、王妃殿下からも帰ってきて欲しいという手紙が届いたので、母エリゼは満足したように「帰るわ」と宣言したのである。
ディアーナの幸せな未来を考えれば、家庭教師による勉強をこれ以上中断すべきでは無い。そんな事はきちんとわかっているカインは、泣きながらも引き留める事はせず、きちんと見送る事にした。
年が明けて学校が始まり、次の休息日には二人が帰国するということを学友たちに伝えたところで、ジュリアンが送別会を提案してきたのだ。
「ジャンルーカも大分世話になったことであるしな。学校を休むわけには行かぬゆえ、放課後からのささやかな物になるが」
「帰国の荷造りなどもありますから、あまりお邪魔するわけにも行きませんわよ?」
「どこかにご招待するには準備する時間が心許ないですわね」
「カイン様のウチ、使用人の半分は残るんだよな?」
そんな会話を昼食の場で交わし、その日の夕方にカインが邸に戻って母とディアーナに確認した結果、お別れ会は帰国の前日にエルグランダーク公爵邸で行われることになった。
エリゼとディアーナの「来ちゃった」事件での「遊びに来てね」というエリゼの言葉をあえて真に受けて、カインの学友たちは良く遊びに行っていた。
シルリィレーアとユールフィリスはエリゼやディアーナとお茶をしながら令嬢的な会話を楽しんでいたし、ジュリアンはジャンルーカの魔法の練習を楽しそうに見ていた。
アルゥアラットとジェラトーニとディンディラナは、中庭のブランコやシーソーで遊んだり、ジュリアンと一緒にジャンルーカの魔法の練習を見学したりしていた。
ジャンルーカの魔法の練習にはカインやディアーナも一緒になって魔法を使っていたので、全員で魔法を使って中庭で遊び、制服を焦がしたり濡らしたりして一まとめに執事のダレンに叱られたりしたのも良い思い出だった。
「短い間だったけど、結構一緒に遊んだから名残惜しいね」
「ディアーナ嬢をお嫁さんにもらいたい」
「それ、カイン様の前で言うなよ」
お別れ会は、エルグランダーク邸のティールームで行われた。普段は椅子に腰掛けて夕方にお茶を楽しむ部屋なのだが、今日はそれぞれ会話を楽しむために立食形式に適切な家具の配置になっていた。壁よりに置かれたテーブルの上に、持ち寄ったおやつやお別れのプレゼントを置きつつ、アルゥアラットとディンディラナ、ジェラトーニが入り口付近で皆を出迎えているエリゼとディアーナを見ながら雑談をしている。
カインと学友たちは学校が終わってから来ているので皆制服である。
カインとその友人の他、ジャンルーカも邸に来ており、なぜかそれについてくる形で二人の王女もやってきていた。
「どうりで、玄関からやたら近衛がおるなと思ったわ」
ティールームに入ったところで、すでに茶菓子を頬張っていた王女二人を目にしたジュリアンは、そう言ってため息を吐いた。
「私のライバルが帰るのですものね! 見送ってさしあげようと思ったのですわ!」
「お兄様もジャンルーカも、こんな催しがある事をだまってるなんてずるいですわ!」
目一杯のおしゃれをした二人の王女が胸をはってジュリアンに抗議している。
「このお別れ会の事をどこで知ったのだ」
ジュリアンは二人の王女にこの会の事を話したつもりは無かった。初回のお茶会のイメージがあったので、王女とディアーナの相性が良くないと思っていたのだ。
「お兄様とジャンルーカがお話しているのを盗み聞きしたのですわ!」
「こそこそお話しているから、怪しいと思って聞き耳を立てたのですわ!」
胸を張ってそう答える二人の王女に対し、ジュリアンと並んで立っていたシルリィレーアが困ったような顔を作った。
「まぁ。フィールリドル様、ファルーティア様。実際にそうだったとしても、盗み聞きをしたなどと口にしてはいけませんわ。はしたない女の子だと思われましてよ?」
「シルリィレーアお姉さま! はぁい。気を付けます」
「私はいってませんわ! シルリィレーアお姉さま!」
「ファルーティア様。聞き耳を立てるというのも同じことですわよ」
「……はぁい。きをつけます」
シルリィレーアにたしなめられて、二人の王女は素直に頷いた。
「あの二人、なんでシルリィレーア様にはあんな素直なの」
ジャンルーカと二人、苦労してわがまま王女を褒めて癇癪を起こさないように勉強の邪魔をさせないようにと行動していたカインは、素直な王女たちに眉をしかめた。
「デリ母上……。あの二人の母がシルリィレーアに好意的な態度をとっているからであろうな」
答えるジュリアンの顔も苦笑いである。
ジュリアンとシルリィレーアに一礼した二人の王女は、ディアーナのそばへと駆け寄って声を掛けている。
「お母さまからお預かりしたとっっっても美味しいお菓子を持ってきてあげたわ! きっとリムートブレイクでは食べられないだろから、感謝して食べると良いわよ!」
「まぁ、フィールリドル王女殿下、有難うございます。味わっていただきますわね」
「お母さまからお預かりしたとっっってもかわいらしいレースのリボンを持ってきてあげたわ! リムートブレイクに帰ってもこれを付けると良いわ!」
「ありがとうございます、ファルーティア王女殿下。頂いたリボンを付けて、お二人の事を思い出しますわね」
贈り物置き場のテーブルを指差しながら自慢げに話す二人の王女に、ディアーナはあくまで令嬢らしく受け答えをしていた。
「そうよ! 国に帰ってもちゃんと私たちの事を思い出すのよ!」
「私とお姉さまの事を、忘れてはだめよ!」
二人の王女の眉毛が下がり始める。
「お二人とも印象強いもの、忘れたりはしませんわ」
にこりと笑って、ディアーナが返す。
「きっとまた遊びに来るのよ!」
「ちゃんとまた遊びにくるのよ!」
「よろしければ、お二人もぜひリムートブレイクに遊びにいらしてくださいね」
「私たちが遊びに行くまで、さみしがってはダメよ!」
「お手紙を書いてもいいのよ! お返事を書いてあげるわ!」
「まあ。さみしがってはダメですか? 私、きっとリムートブレイクに帰ったらさみしくなってしまいますわ」
「……さみしくなんか」
「……さみしくなんか」
素直にさみしいと告げるディアーナの言葉に、二人の王女の顔がくしゃりとゆがんだ。
「うわぁああーん。帰らないでぇ~」
「うわぁああーん。帰っちゃやだぁあ」
とうとう泣き出してしまった二人の王女に、ディアーナはそっと近づいてそれぞれの肩に手を載せた。
「来年も再来年も、お兄様はこちらに留学中ですもの。きっとまた遊びに来ますわ。ですから、そんなにお泣きにならないで。かわいい顔が台無しですわよ」
「わぁああーん」
「ああーぁん」
ディアーナの一つ年上のフィールリドルと、一つ年下のファルーティア。その二人の肩を優しくさすりながら、ディアーナは小首をかしげつつ慰めていた。
「うわ。さすがカインの妹であるな……たらしだ」
「なんであんなになつかれてるの、ディアーナ」
一歩下がった所からその様子を眺めていたジュリアンがこぼした言葉をカインは無視した。
「エルグランダーク公爵夫人は、滞在期間中に何度か王妃や側妃からお茶会に誘われておったようだからな。その時に一緒に参加しておったのではないか?」
「僕が魔法を教わりにこちらにお邪魔したのと入れ違いで帰って行くのを何度か見ましたよ」
「今まで箱入りでしたのよ。第一側妃さまが過保護なものですから、お城の中の大人たちとしか関わりが無かったのですわ。年が近くて同性となると、今までは私ぐらいしか身近におりませんでしたから」
「初めてできた、同年代のお友だちってことでなついちゃったのであろうなぁ」
ジュリアンとジャンルーカ、そしてシルリィレーアが大泣きする二人の王女を見ながらそんなことを言う。
「さすがディアーナは人格者だなぁ。泣いている子にあんなに優しく慰められる子なんて他にいる? いやいないよね」
一人満足そうに深くうなずくカインである。
その後も、エリゼやディアーナとこの二ヶ月ほどの思い出話を語り合ったり、持ち寄った贈り物を開けて見せたりしつつ、エルグランダーク邸でのお別れ会は終始和やかな雰囲気で行われたのであった。
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お待たせしちゃってすみません。
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