建国祭(騎士行列)
いよいよ建国祭の初日、騎士行列開始前の待機場所となっている王宮前広場に、ディアーナやカインが集まっていた。
ディアーナは、厚底靴を違和感なく履きこなし、肩パットを入れて肩幅を稼ぎ、胸を張って堂々と立つ事で身長の低さと体の華奢さをカバーしていた。
普段のカインと同じように後ろに三つ編みを流した髪型に、普段とは違い前髪をふんわり目に上げることで身長をさらに一センチほど嵩増ししていた。いろいろな工夫が凝らされた騎士制服姿のディアーナは、知っている者たちから見てもちょっと小柄になったカインに見えた。
サッシャ曰く、眉を少し太めに描くなどして男の子っぽく見える化粧を施しているし、前髪を上げることで普段のカイン様と印象が違うのは髪型のせいかなと思われるのでよりごまかしが効くのだそうだ。
ふんわりオールバックにしつつ、おくれ毛を垂らしてアクセントにしているディアーナの凛々しさに、カインは朝から五回ほどノックアウトされていた。その度にイルヴァレーノから活を入れられている。
待機場所について、他にも騎士行列に参加するであろう貴族の令息たちも目に入るようになると、ディアーナのかっこよさ、凛々しさが引き立つようになった。
そんな凛々しいディアーナに涙があふれそうになり、カインはそっと自分できれいなレースのハンカチで涙をぬぐうのだが、その姿は清楚なお嬢様そのものだった。
カリン様の時とは違い、髪型はツインテールを巻いてリボンでとめるという普段のディアーナの髪型にしてある。ジュリアンからもらったドレスとおそろいのリボンが歩くたびに揺れている。
厚底靴や肩パットなどを使ってディアーナの小さな体を大きく見せる事はできても、カインの体を小さく見せることはむずかしい。いつものカインとは違う髪型にすることでカインらしくなくてもカインに見える工夫をしているディアーナとは逆で、いつも通りのディアーナのヘアスタイルにセットすることで、ディアーナらしさを前面に出していく作戦である。
「カインの代わりだからな、ディアーナ嬢はちびっこ騎士行列ではなく、見習い騎士行列に入る。予定通り、私とハッセの間に入って見習いの先頭を歩いてもらう事になる。二人でフォローするから安心するがいい」
カインがディアーナの騎士姿に改めて感動している所に、ジュリアンとハッセ、そしてジャンルーカがやってきた。ジュリアンがディアーナをフォローすると言ってくれているが、カインには心配しかなかった。面白いと思えば無茶もするのがジュリアンである。まじめなハッセに期待するしかない。
「幸い、カイン様の特に親しいご学友たちは騎士行列には不参加のようですから、至近距離で見てわかる者もほとんどおりません。むやみに話しかけようとする輩がいればそれとなく遠ざけます。ご期待に沿えるよう努力しますから、どうかジュリアン様を疑いの目で見るのはおやめください」
「うん。ハッセ、頼んだよ」
カインのジュリアンを見る目が良くなかったらしい。ハッセがディアーナのフォローを改めて買って出てくれたので信じることにした。
カインとジュリアン、ハッセで会話している間に、ジャンルーカはディアーナと少し離れた場所へと行って仲良さそうに会話をしていた。最初は衣装を見せ合い、お互いの儀礼用の模擬剣を見せ合い、打ち合わせるようなまねごとをしているウチにカイン達のそばから離れてしまったようだった。
やがて、何やら真剣な顔をして話をし始めた。何を話しているのか気になったカインがそちらへ近づこうとするが、ジュリアンがそれを止めた。
何事かと振り向いて、ジュリアンを軽くにらみつけると、
「行列後にわかる。心配はいらぬから兄として見守っておけ。あ、今は妹だったな、わはは」
と笑われたので、カインはジュリアンの尻を扇子でひっぱたいた。
エリゼとディアーナ(中身カイン)は王妃の賓客ということで王族と同じ閲覧席に招待されていた。
直前まで内緒にしていたカインとディアーナの入れ替わりを、閲覧席に遅れてやってきたカインが隣に座った事で初めて知ったエリゼである。とっさに固くこぶしを握り締めたものの、王族の前だったので持ち上がりそうになるのをこらえて膝の上に戻した。
「カ…ディアーナ。後でお説教です」
「はい…」
エリゼのその声は底冷えするような低い冷たいものだったが、さすが公爵夫人なだけはあり、顔は朗らかに笑顔を維持していた。
カインはひきつる顔を無理やり笑顔に固定して、何とか一言だけ返事ができただけだった。
エリゼにはバレたものの、王妃や各側妃にはなんとかバレずに済んだ。間に「第一王子の婚約者」という立場でシルリィレーアが座ってくれて、何かと会話の間に入ってフォローしてくれたおかげである。
「ふふふ。花祭り以来ですわね。あの時はカ……ディアーナ様のおかげで殿下とダンスを踊ることができました。今度は私がお助けする番ですものね」
そう言って、小さい子をあやすように頭をなでてくるシルリィレーアの可愛がりっぷりに、カインは恥ずかしくなってうつむくしかなく、その様子がますます小さな女の子がお姉さんに褒められてうれしいという様子に見えたようで、結果的にごまかしは成功したのだった。
行列開始前の挨拶や雑談をシルリィレーアとエリゼの巧みな話術にフォローされつつ、カインなりのディアーナらしさを真似して躱していると、行進開始の鐘が鳴り響いた。
王宮前広場の門が開き、サイリユウム王国の旗を持った騎士が二人ゆったりと歩いていく。
その先触れが通り過ぎると、まず総騎士団長として馬にのった国王陛下が先頭で進み、その後近衛騎士団、王宮騎士団、王都警備騎士団と続いていく。
各辺境領地の騎士団は地方を空にするわけにはいかない為、精鋭一小隊ずつが王都に来ていて、王都警備騎士団の後に続いて行進した。
そして、見習い騎士たちの行列がカイン達の前を通る。隣国からの留学生で公爵家令息という立場のカインは、ジュリアンとハッセに挟まれて先頭の真ん中を歩いていた。きりっとした顔をして、胸を張って堂々と行進するディアーナの姿に感動してカインは号泣し、後ろに侍っていたイルヴァレーノからタオルで顔を拭かれていた。サッシャには化粧が落ちると怒られた。
その後、ジャンルーカを先頭にした貴族令息や庶民の男女子ども達のちびっこ騎士行列がわちゃわちゃと行進していき、見ている人たちを和ませた。
パリッとしたカラフルな騎士制服の騎士たち。たてがみをおしゃれに編んだり華やかな装飾がなされた鞍をつけられた馬。行進中の要所要所で敬礼や抜刀をして練度の高さを見せる騎士たち。
歩き出しは粛々と始まり荘厳なイメージがあったが、庶民たちが見学している区画を通る頃には手を振ったりバク転を披露したりする騎士も居て大賑わいだった。
王妃やシルリィレーアと一緒になって王族席に座っていたカインだが、行進が始まってしまえばみんな騎士行列を見るのに夢中になっており、わざわざカインに注目する者などいなかった。
ぐるりと王都を一周回って王宮前広場に戻ってきた時には、花祭りの時と同じ布で作った花びらが高い所からばらまかれ、華やかな雰囲気で騎士行列は幕を閉じた。
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