学校行事 3
誤字報告いつもありがとうございます。助かってます。
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その後も、牙たぬきや角ウサギが時々飛び出して来たのだが毎回一、二匹で現れるので、危なげなく始末して先へと進んでいった。
草むらから飛び出してくるものはジュリアンとジェラトーニがサクッと切り付けて倒し、鋭い爪をもった巨大なリス(とはいってもポメラニアンぐらい)は木の上から飛んでくるが、そちらはアルゥアラットとディンディラナが弓で撃ち落として仕留めて行った。
「今夜って、これが夕飯になるんでしょう? 誰かさばける人いるんですか」
「カインができるであろう?」
「なんで名指しですか。できるわけないでしょう」
「あれ? だって、カイン様って料理できるんでしょ?」
「さっきまで生きていた生き物をさばくのは、猟師や肉屋の仕事であって、料理ではないです」
ざくざくと森の下草を踏み固めながら、一応周りを警戒しつつ前へと進んでいく。
時折、木の枝に結ばれている青いリボンをチェックしながら地図を確認して歩いていく。
「この青いリボンをたどっていくと、湖につくんですよね」
「グループごとに、リボンの色は違うんだっけ?」
「帰りは他のグループと入れ違いで、別の色をたどって街道まで戻るのですわね」
オリエンテーリングのようだな、とカインは思った。木の枝に結ばれている青いリボンを見上げて、その布の新しさに毎年結びなおしているんだろうなと教師の苦労を心の中でねぎらった。
毎年行事を行う時期が変わるらしいし、一年もたてば森の状況も変わるだろう。この討伐訓練直前に道の安全を確かめながらリボンを結びなおしているに違いない。
さすが、貴族の子息令嬢を預かる貴族学校である。
「万が一にも何かあったら大問題だもんな」
「何か言うたか? カイン」
「至れり尽くせりだなぁって思ったんですよ」
「あ、少し開けた所がございますわ。お時間的にも、ここが野営の場所でございましょう」
リボンを眺め、大人たちの準備に思いを寄せているところにユールフィリスが声をかけてきた。
指さす方をみれば、確かに木の間隔が広くなっていて夕焼けに赤くなりはじめている空が見えた。下草も刈ってありテントを張ってもそこそこ快適そうだった。
「夏の終わりでよかったですよね。冬だったらテントも厚手にしたり毛布とか防寒着とか、荷物が多くなるところでした」
「その代わり、魔獣はそのほとんどが冬眠するから討伐対象が少なくて済むらしいよ」
軽口を叩きながら、皆で手分けして持っていたテントの材料をカバンから出していく。
ジュリアンの指示でテント係と火起こし係に分かれて作業をやっていくのだが、ここにきて皆がもたもたとし始めた。
貴族のたしなみとして、弓だの剣だのの訓練はしていたものの火をおこすだのテントを張るだのはやったことがないからだ。
討伐訓練前にテントの張り方や火のおこし方など、必要な技術については授業でやっているのだが、習うのと実践するのとではやはり勝手が違うようだった。
前世の記憶があるカインではあるが、とにかくインドア派だったのでキャンプやらバーベキューやらの知識は皆無である。
遠い記憶にかすかに残っている学生時代の林間学校についても、至れり尽くせりで後は肉を焼くだけ状態のバーベキューだったので全く役に立つ情報は持ちえなかった。
そうはいっても、なんだかんだとテントが張られ、マッチを使って火をおこした。マッチと言っても前世でよく見た小さくて細いものではなく、お箸ぐらいの大きさの鉄の棒にマッチの先のような固形物が塗布されたものだった。
使い終わった物は業者が回収して再利用するらしく、この学校行事では後に教師に回収されることになっている。
肝心の魔獣の解体だが、ジェラトーニができるという。
「僕の領地は牧畜業が主な産業だからね。家畜を狙って山を下りてくる魔獣を退治した後に、さばいて番犬や番鳥の餌にしたりするよ」
「魔獣退治してるんじゃん。何が戦闘できないだよ」
「魔獣退治はだいたい罠だよ。鐘を鳴らして追い払ったり、落とし穴に落としたり、獣ばさみを設置したり、色々ね。基本的には戦闘なんかしないよ」
「その割には、短剣の扱いは見事であったぞ」
「お褒めにあずかり、恐悦至極ぅ。ジュリアン様、そっち引っ張ってください」
「うむ、こうであるか?」
軽口を叩いている間にも、ウサギやタヌキやリスがどんどん解体されていく。
意外にも生き物が解体される様をみてもジュリアンは平気なようだった。シルリィレーアとユールフィリス、アルゥアラットは一匹目の皮をはがし始めた所で「水を汲んできます」といってその場を離れていった。
三人はちょっと顔が青くなっていた。
カインは、手ごろな石を集めて平らになるように置き、その上にまな板を置いた。自分の荷物から布にくるんだ包丁と色々な調味料を取り出して並べている。
ここまで、退治した魔獣を麻袋につめて運ぶという荷物係しかしていなかったカインであるが、ようやく活躍の場がやってきた。
「マディ先輩から色々聞いてきましたからね! 張り切っておいしい夕飯にしますよ~」
「ほい、まず一個目!」
まな板をカンカンと包丁でたたいてカインがあおると、ジェラトーニから肉の塊がほいっとまな板の上に投げられた。
手足も頭も取られ、内臓も抜かれた状態なのでカインにとってもあまり違和感もグロテスク感も感じることがない。ありがたいとカインは心のなかでジェラトーニを拝んだ。
「結構小さいね」
「こんな小型の魔獣じゃあ、さほど食べるところはないよね。骨までよけるとだいぶ嵩がへるよ」
「狩り過ぎかと思ったが、そうでもなかったのだな」
校内アルバイトで良く一緒になる上級生のマディは料理がうまい。将来は貴族を抜けて町で食堂をやるのが夢だという変わり者である。
カインは、そのマディから香草や香辛料をつかって臭みをごまかせとアドバイスされている。
遷都予定地への視察の際に食べた魔獣はちゃんとおいしかった記憶のあるカインだが、あれはあれで調理のノウハウがある騎士が随伴していたのかもしれないと思いなおした。
塩コショウで肉を揉んだあと、余分な塩を払い落とし、クミンをまぶして横に置く。
一口大に切り分けた分も、塩コショウで揉んだあとに今度は小麦粉を振りかけてなじませておく。
さらに骨からもそぎ落とし、包丁で細かく刻んで叩いてミンチにした肉にも、各種調味料を入れてこねて丸く形を整える。
ジュリアンとディンディラナとジェラトーニが離れた場所に穴を掘って内臓や皮などの不要な部分を埋めている間に、水を汲みに行っていたメンバーも戻ってきた。
クミンをまぶした肉は適当な大きさに切って串刺しにして火のそばに立てて焼いた。適時目の前の肉が焼けてきたら手にとって食べるのだが、女子二人は持参したらしい皿に串からはずしてフォークで食べていた。さすが女子と心の中で感心するカインである。
小麦粉を振りかけていた肉には薄く油を振り、火の上につるした浅鍋で焼く。なんちゃってから揚げである。
から揚げを引き上げた後に鍋にハンバーグを入れ、表面が焦げた所で肉汁にトマトソースを入れて少し煮込み、持参した調味料で味を調えた。
野草の知識が誰も無かったので、肉オンリーの食事である。パンは持ち込んでいたので、肉とパンの食事となった。
「魔法が使えないからと言って、カインを入れなかったのは他チームの失敗であるな」
から揚げもどきをかじりながら、ジュリアンがにんまりと笑う。
カインが食堂で料理を作ってみせたのは花祭り休暇の時だけなので、領地帰省組はカインが料理できることを知らないのだ。
「ジュリアン様がカインは料理ができるって言ってましたけど、ここまでとは思いませんでした」
「マディ先輩ほどではありませんし、大雑把なもんですけどね」
「マディ先輩は、料理人を目指しているのですもの。貴族令息として、これだけできる人なんておりませんわ」
「そうそう。多分、他のチームは皮はいで焼いてるだけとかじゃないか」
これは後々に他グループに聞いた話ではあるが、あまりにもできなさすぎると魔獣の解体だけ騎士が現れてやってくれたりはするらしい。
中には、最初から地産地消する気がなくて色々と食べ物を持ち込む者もいるとか。それはそれで、知恵ではある。
調理器具を持ち込まない代わりに食料を持ち込むので、荷物の重さ的にはトントンかもしれない。
火を焚いておけば、小型の魔獣は近寄ってこない。
夜間の焚火番の順番をじゃんけんで決めて、その日は就寝となった。
ディンディラナのいびきがひどくて、男子組はディンディラナが焚火番の時ぐらいしか眠れなかった。
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