学校行事 2
色々と準備するために休息日をはさみ、いよいよ討伐訓練へと出発することになった。
この日ばかりは皆制服ではなく、それぞれ着慣れた服を着ていた。
「カインは、魔法が封じられていてもそのローブを着るのだな」
「便利なんですよ。いろいろと」
カインは、ティルノーア先生からもらった魔法使いのローブを着ている。藍色で裾が花びらのようにギザギザになっているフード付きのローブである。
防湿保温効果があり、傷みにくい。足首近くまですっぽりと体が包まれるので細かい怪我をしにくいという効果もある。
ジュリアンは革のロングブーツを履き、腰に剣を下げていた。剣でズボンがこすれないように革の腰ベルトを着けている。
アルゥアラットとディンディラナは弓を持ってきていた。アルゥアラットは長弓をたすき掛けのように担ぎ、体の後ろに腰から矢筒をぶらさげていた。
ディンディラナは短弓で、矢筒を背中に担ぎ、弓は腰からぶら下げていた。
「俺とディンは後衛ってことでよろしく。発見が早ければ接敵前にやれるかもしれないけど」
アルゥアラットが弓をポンポンと手でたたきながら笑う。まぁ、弓を装備しているのだからロングレンジプレイヤーなのだろう事は容易にわかる。うんうんとカインは頷いている。
並んで立っていたジェラトーニは腰の左右に短剣を一本ずつ、合わせて二本ベルトに固定されていた。
「僕はあんまり戦闘力に数えないでほしいな」
照れ笑いの表情でそういうジェラトーニは、腕を組んで武器に触れようとはしなかった。
カインとしては、短剣二本を装備している姿を見て『双剣使いか?』とワクワクしていたので「ほとんど戦えないよ。ただの護身用」というジェラトーニの言葉にがっかりしたのを顔に出さないように苦労した。
日本のオンラインゲームの走りであるMORPGのダガー系武器のように、踊るように振り回して攻撃する姿や、オンラインゲームを模したRPGのマルチウェポンという職業の主人公の初期装備の双剣のように扱う事を期待していたのだが、「二本あるのは予備だよ」ということらしかった。
シルリィレーアとユールフィリスもふんわりとしたズボンを膝下まであるブーツに入れ込み、装飾の少ないシンプルなシャツに革のベストを身に着けていた。
いつもは流している長い髪をまとめていて、顔がすっきりと出ている二人を見るのは新鮮な気持ちになった。
「では、私とジェラトーニが前衛、アルゥアラットとディンディラナが後衛。シルリィレーアとユールフィリスとカインはその間で周囲を警戒、いざとなったら逃げるという陣形でいこう」
ジュリアンがそう声をかけると、ジェラトーニがへにょりと眉毛を下げて抗議した。
「僕は戦力に数えないでくださいってば」
「謙遜するでない。この森程度であれば十分通じるから自信をもって前を歩くがよい」
「そんなぁ」
ジェラトーニが泣きまねをしつつもジュリアンと並んで前に立ったので、それぞれ二泊に必要な荷物を背負って森の奥へと歩き出したのだった。
討伐訓練は、二泊三日で行われる。
王都サディスの街から馬車で半日ほどの場所にある森に入り、時々出てくる魔獣などを倒しつつ野営をし、まずは森の奥にある湖を目指す。
湖には学校の先生や王国騎士団の教育係の騎士などが待機しており、名簿のチェックをされた後備品の補充をしてもらって今度は来た道とは別の経路で森の出口を目指す。
森に入るときも、馬車からグループごとに離れた場所に降ろされるので別のグループと協力するというのも難しい。
カインは、森の中を歩きながらも遠くからの視線を感じてすこし居心地の悪さを感じていた。手は貸さないが、いざという時の為に騎士や医師が随伴するとは聞いていた。
前世での修学旅行の先生や保健医みたいなものかと思っていたが、見える範囲にはその気配も感じない。気配はないのに、視線だけはやたらと刺さってくるのだ。
「いざという時の為に騎士と医師が随伴するとは聞いていましたが、忍ぶつもりないんですね」
刺さる視線に寒気を感じ、思わず自分の腕をさすってしまうカインである。ローブの中でやっているので、他のメンバーには気づかれていない。
「次男三男などは、騎士団入団希望者もいるからね。姿が見えると必要以上に頑張ってアピールしようとするヤツもいるらしいよ」
「貴族学校の行事に随伴できる騎士となると将来性のある方だということですから、頑張ってアピールしようとする令嬢もいらっしゃるとか」
ディンディラナとユールフィリスが解説してくれるが、同じ『頑張ってアピール』という言葉にだいぶ違う意味が含まれていて、速攻で言葉をかぶせてくるユールフィリスの頭の良さにカインは目を細めた。
「視線を感じるのは、逆にちゃんと見守ってもらえているのか不安になってしまう人もいるかららしいよ」
「無事に行程を終えた後に、姿が見えなかったからサボっていたとか本当は随行していなかったんではないかってクレーム入ったこともあるらしいね」
アルゥアラットの言葉に、ジェラトーニが後ろを振り向きながら補足する。貴族らしいクレームと言えば貴族らしい。大人の力を借りずに無事にやり遂げたのであれば、それを誇っておけばいいのにとカインは思ってしまうのだが。
まだ背後に森の切れ目、馬車で降ろされた街道が小さく見えるあたりでがさりと前方の下生えの草が音を立てて揺れた。
ジュリアンが手を挙げて一同の歩みを止め、腰の剣に手をかける。並んで立っているジェラトーニも腰の短剣の留め具を外し、中腰になって柄を握った。
この場では守られる位置にいるカインも一応女の子二人の前に立って、前方以外の気配を探る。後ろで弓を構える音がした。
ガサガサ音が大きくなり、ばさりと手前の熊笹に似た草が倒れたと思った瞬間、口から大きな牙をはやした狸が飛び出してきた。
ジュリアンが剣を抜きざま切り上げるように振り上げ、ジェラトーニが逆手に抜いた短剣を腕を突き出すように振りぬきそのまま体を回転させている。
カインの頭上を二本の矢が飛んでいき、狸の体へと吸い込まれるように突き刺さる。勢いよく刺さった矢の勢いで後方へと飛んでいきそうになる狸に、ぐるっと回転したジェラトーニの逆手の短剣が叩き落すように突き刺さった。
「シルリィレーア、ユールフィリス。怪我はないか?」
「あー。当たってよかったぁ。入学してから弓の練習してなかったから不安だったんだよね」
「アルゥは距離近すぎたんじゃない?」
「こここ、怖かったーっ。びっくりしたぁーっ。だから、前衛やだって言ったのにー」
初めての魔獣との遭遇で、みな興奮気味に会話をしている。カインはその輪から抜け出して地面に落ちている魔獣のそばまで歩み寄った。
万が一、まだ生きているようであればとどめを刺さないと危ないと思ったからなのだが
「……オーバーキルすぎるよ」
中型犬ほどの大きさの狸は、二本の矢が腹を貫通し、首はあらぬ方向へ曲がり、手足がかろうじてつながっている程度に切り込まれ、挙句首には深々と短剣が刺さっていた。
明らかに、やりすぎであった。
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