ここに来てまさかの攻略対象者

おまたせしました!

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キールズとコーディリアが席に着いたタイミングで、アルンディラーノも食堂に入ってきた。


「おはよう、カイン、ディアーナ。おはよう、キールズ、コーディリア」


食堂を見渡して、一人ひとりに顔を向けながら挨拶をしてきた。エルグランダーク一家もそれぞれに挨拶を返すと、アルンディラーノもニコリとわらってカインの隣の席へと腰を下ろした。


「アル殿下。王妃殿下は起床されてますか」

「起きてはいるけど、女性の身支度は時間がかかるよ。先に食べてしまおうよ」


アルンディラーノの言葉を受けて、子どもたちの朝食がはじまった。執事のパーシャルと給仕係が順に朝食をテーブルに置いていく。

パーシャルの話では、乳母のノールデン男爵夫人とリベルティは赤ん坊を見ながら部屋で朝食を取るとのことだった。

子どもたちの話題は、もっぱら昨日の夜のことについてだ。あの襲撃は何だったのか? 騎士団が守っているはずの城のあんな奥までなぜ侵入されてしまったのか。

あーでもない、こーでもないとカインやキールズを中心に推測を並べてみるが、いくら並べたところで結論が出るわけでもない。

話はだんだんとズレていき、カインが廊下から飛び降りて花壇の一部をダメにした話から夏の果物だったら何が好きか?という話題へと移っていき、襲撃とは関係のない他愛のない話をしながら食事が進み、食後のお茶の時間となった。


「お父様たち、遅いね」

「昨日、僕らが寝たあとも色々やっていたようだし寝たのが遅かったのかもしれないね」

「おやぁ。公はまだなのかい」


ディアーナとカインの会話に、後ろからティルノーアが混ざってきた。

振り向けば、眠そうな顔であくびをしながら食堂に入ってきたところだった。


「ご一緒しても〜?」

「どうぞ」


カインがどうぞと言うのとほぼ同時に、ティルノーアはもう椅子に座っていた。執事のパーシャルがサッとやってきてティーカップをセットするとお茶を注いでいく。


「パンと野菜はいらないので、果物もらえますか」

「かしこまりました」


猫背気味に座ったまま、お茶を注ぐパーシャルにそう注文するとティルノーアはもう一つあくびをした。


「エルグランダーク公に進言したいことがあったんだけど、まだなんだねぇ。そしたら、先にカイン様に言っておこうかな」

「何をですか?」

「昨日の襲撃者に、見知った顔がいたんで報告しようと思ったんだよね」

「えっ」


ティルノーアの言葉に、カインだけでなく食堂に居た全員が目を見開いた。飲みかけていたカップ、持ち上げかけていたカップをソーサーに戻すと視線をティルノーアに向ける。


「やあ。そんなに見つめられると穴があきそうだなぁ。……いや、もったいぶるわけでもないんだけどね」

「見知った顔って、誰ですか」


カインが問いかければ、ティルノーアはコリコリと顎を指先でかきながら難しい顔をした。


「サージェスタ侯爵家の三男坊だよ。マクシミリアン・サージェスタっていう魔法のセンスが壊滅的に無いお人で、これまでに三回も魔導士団の入団試験に落っこちてる」

「マクシミリアン!?」

「サージェスタ!?」


ガタっと音をたててカインが椅子から立ち上がる。マクシミリアンという名前に反応したのはカイン。それ以外の四人はサージェスタという家名に反応した。


「カイン様、マクシミリアン・サージェスタをご存知でした?」

「……。いいえ。いいえ、ありません。……サージェスタ侯爵家というのは、リベルティ嬢が専属お針子で雇われていたサージェスタ家ということでいいんですか?」


カインは、きゅっと口を引き締めた後でゆっくりと首を横に振ってからそう答えた。カインの反応に片眉を引き上げて疑いの目を向けてみせたティルノーアだが、フッと鼻から息を出すと普段どおりの顔に戻った。


「そうです、そうですよ。リベルティ嬢のお相手の若様のいるサージェスタ家です。アイスティア領を王兄殿下の代わりに運営しちゃってる侯爵家のサージェスタ家です。元老院七家には入りませんけど中々に歴史あるおウチですよぉ。若様は次期当主としてあっちこっちを飛び回り、次男は近衛騎士団の第五部隊の隊長とかやってて騎士爵もらってますねー」


カインが自分の椅子に座りながら、ティルノーアから目を離さずに話を聞いている。


マクシミリアン。

侯爵家の三男。

魔導士団の入団試験に三回も落ちている。


ド魔学の『先生ルート』の攻略対象と条件が一致しすぎている事が気がかりだった。

(いや、マクシミリアン先生は子爵家の次男だか三男だったはず。侯爵家ではなかったと思うんだけど……)

家名が何だったのかは記憶になかった。サージェスタという名前に覚えが無いので、もしかしたらゲーム中には出てこなかったのかもしれない。おそらく攻略本とかには載っていたのだろうけれども、ゲーム実況系YouTuberの矜持として攻略本は全クリアまで絶対に見ないと決めていた。そして、全クリはしたものの攻略本を見る前に前世の生が終わってしまった。


「侯爵家のご子息だけあって、魔力の量は大したものなんだけどねぇ。とにかく魔法を使うセンスが無い。魔導士団はいつだって人手不足で、ボクもカイン様やディアーナ様を勧誘したりしているけどさぁ。誰でもいいってわけじゃないからねぇ」

「そんな人がなぜ、公爵家の領地の城に襲撃なんかかけたんですか」


カインが黙り込んで考えをめぐらせているうちにも、ティルノーアは果物を口に放り込みながらマクシミリアンを酷評し、キールズが疑問を口にしている。


「さぁねぇ。兄君のお嫁さん候補を取り戻しに来たのか、奪いに来たのか……。覆面の頃から、見覚えのある下手な魔法だなぁって思ってたんだよね。騎士に連れて行かれるのに覆面取られたのみてアッて思ったんだよね〜」

「なんでその場で言わなかったんですか?」

「眠かったしねぇ。列をなして連れて行かれるのを声かけて止めて、それで列が乱れて逃した〜なんてことになってもヤだしねぇ。ちゃんと牢屋に入れてもらってからでも良いかなぁって」

「まぁ、あの時の伯父様怖かったしね」

「ねぇ。エルグランダーク公おっかなかったねぇ」


コーディリアと、ティルノーアでディスマイヤ怖かったね談義を始めてしまった。ティルノーアが、あの時玄関ホールに居た人たちはディスマイヤに炎系魔法でやられたんじゃないかという話をしている。確かになんか焦げてたねぇとディアーナも混ざってワイワイと楽しそうだ。


カインは、考えている。

貴族として生まれたが跡継ぎではなかった為、平民になりたくなくて魔導士団を受け、しかし試験に落ちて仕方なく学園の先生をやっていた『先生ルートの攻略対象』。名前は確かにゲームでもマクシミリアンだった。

子爵と侯爵という爵位の違いがあるが、それ以外はゲームの設定と同じである。しかし、こんな公爵家の領地に乗り込んでその城に襲撃をかけるなんてことをしただなんてゲームには出てこなかった。

そもそも、こんな事をしでかしてただで済むわけがないのだ。のうのうと学園の先生なんて出来るわけがない。


「どうなってるんだ……」


そして、どうしたらいいのか。このまま襲撃犯の仲間もしくは首謀者として断罪し、牢に幽閉するなりどこぞで強制労働させるなり国外追放するなりすれば、ディアーナとは関わりがなくなるわけだ。それはそれでディアーナの破滅フラグを一つ回避できたことになるだろう。

でも、本当にそれで良いのか? 貴族から外れ、魔道士団にも入れず、貴族家出身の一教師として過ごしつつ、兄が当主になって家から出され平民になる日に怯えて鬱屈としているというキャラクターだった先生。

犯罪者として今後を過ごすとなれば、平民の教師という立場以上に落ち込むだろうし心の闇は深まるのではないだろうか。


「ティルノーア先生。マクシミリアン氏とその一派は今どうなっているんですか?」


カインは、思考を一旦とめてティルノーアの方へ顔を向けた。グダグダ悩んでも仕方がない。先生ルートの攻略対象者なのかどうかは、顔をみればわかるはずである。イルヴァレーノもアルンディラーノもゲーム登場時点より遥かに幼い頃から面影があってひと目でわかったぐらいなのだ。

すでに大人であるマクシミリアンがもし攻略対象キャラクターなのだとしたら顔はゲームとほぼ同じはずだ。


「牢屋に入れられたんじゃないかなぁ? この城には牢獄棟があるんだってね。貴人を入れておく塔の上の方と、その他の犯罪者を入れておく地下牢があるらしいじゃない。興味深いよね。上下の差を付けているとはいえ、同じ建物に貴族の犯罪者と一般の犯罪者を入れちゃうなんて他にはないよぉ」

「そうなんですね。牢屋かぁ」

「魔法阻害系に何を使ってるのか興味あるんだけど、あとで見学させてもらえないかなぁ」


ティルノーアの言葉に、カインが身を乗り出した。


「そうですね、そうですよね!? ただの石牢なんて魔法つかって破られますもんね? 何か工夫があるんですよね、僕も興味あります! どうやってるんですかね?」

「お? カイン様も気になる? 公が起きてきたら見学させてもらえないか頼んでみようねぇ」


カインだけで、牢屋に行きたいと言っても無理だろう。尋問に参加させてくれと頼んでも見学させてくれといってもおそらく却下される事は想像に難くなかった。

でも、ティルノーアという大人が同伴で、しかも目的はあくまで『牢屋の作りに興味があります』という事にしておけば牢屋に行くことは出来るかもしれない。あわよくばマクシミリアンの顔をみて、攻略対象者なのかどうなのかを確認できるかもしれない。


「そう言えばそうだよね……。昔カインも小屋を……」

「アル殿下!」


マクシミリアンの顔を確認出来る、と意気込んでいた所にアルンディラーノがボソリと言ってはいけないことをいいそうになったので、カインは唇に立てた人差し指を当てると「シー!」とアルンディラーノに向けて内緒のポーズを取ってみせたのだった。

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沢山の感想、そして誤字報告ありがとうございます。

二巻の書籍化作業と体調不良と仕事の繁忙期で遅くなりました。申しわけないです。


書籍化記念で短編も何本かアップしてますから、そちらも是非どうぞ。

これからもよろしくおねがいします。

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