助っ人登場

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イルヴァレーノによって傷口のふさがった騎士は、結界から飛び出して廊下側からやってきた敵のナイフを剣で払い落とした。

先程、カインとイルヴァレーノが来る途中で庭に落っこちていた人が意識を取り戻して戻ってきたのだろう。短剣をだすと騎士に切りかかってきた。鍔迫り合いをしつつ、騎士を結界に押し付けるようにジリジリと体重を掛けてきていた。


「棒振り! 役立たず! せめてベランダ側に転がさないかー!」

「うるさい魔導士! 変な形の短剣使いやがってっ……!」


騎士の声にカインが振り向いてみれば、ドアからやってきた黒尽くめは前世で言うところの十手のような枝分かれしている短刀で騎士の剣を挟むようにして押し込んでいた。あれでは騎士は受け流したり弾き返したりするのも難しい。

あまり騎士が結界に押し付けられれば騎士の背中が削れてしまう。かといって結界を解けば女性陣に敵の手が伸びてしまう。

先程カインがやったようにティルノーアが一回り大きい結界を張ってからカインが結界を解くという方法をするにしても、騎士と黒尽くめがくっつき過ぎていて難しい。


「カイン様。廊下からさらに足音が近づいてきています」

「どっちだろ?」


騎士の治療をおえたイルヴァレーノはしばらくリベルティの背中をさすっていたが、カインのそばにやってきて足音について耳打ちした。

騒ぎに気がついたか、キールズかアルンディラーノに呼ばれた騎士が応援に来てくれたのか、それともベランダから外に落とした黒尽くめが更に何人か戻ってきたのか。


ティルノーアも目の前の黒尽くめを転ばせたり足を氷漬けにしたりしながらも、ドアの方をチラチラと気にしている。


「棒振り! 早く振り払えよー! 棒振り程度でも相手の前髪焼くぐらいの魔法は使えるだろぅ!?」


珍しくも、ティルノーアが苛ついたように声を荒げて騎士に叫んでいる。確かに、騎士といえど貴族家の出身であれば魔法学園を卒業している可能性は高く、基本的な魔法ぐらいは使えるはずだった。


「無茶言うな! こんな集中できない状態で魔法がつかえるわけないだろ! 魔法馬鹿どもと一緒にするな!」

「はぁ!? 棒ばっかり振ってるから馬鹿になるんだヨぉ!」


騎士が、ティルノーアの声に返事をしてほんの一瞬気を散らしたその時に、黒尽くめが体当たりをするようにぐっと騎士を押し込んできた。


「があああ!」


結界に背中を押し付けられ、魔法の反発力により背中が強く押し返され、風の勢いによってわずかずつ騎士服が削れていく。痛みに騎士が歯を食いしばった。

黒尽くめの、わずかに見えている口元がニヤリと笑ったように見えた。


その時。


「とああああ!!!」


廊下側のドアから、ディアーナが飛び込んできた。

大股で三歩踏み出したところで、右足で踏み込み、左足を突き出すポーズで黒尽くめの膝裏に飛び蹴りをくらわせた。

騎士に体重をかけるために、後ろ側の足をピンと伸ばしていた黒尽くめは、思い切り膝カックンをされた形だ。伸び切っていた膝裏の筋に、九歳の少女の軽い体とはいえ、体重を掛けた飛び蹴りをお見舞いされてはたまらなかった。足ががくりとまがり、のけぞるように後ろへと倒れ込んできた。


「ばっか! ディアーナ飛び出すなって言っただろうが! アルガ!」

「お嬢様なにしてんすか!」


飛び蹴りをしてそのまま床に落っこちたディアーナの上に、黒尽くめが倒れ込みそうになったところを間一髪でアルガが首根っこ掴んで引っ張り上げた。

勢いよく引っ張られたディアーナをしっかり掴んだアルガをみて、キールズは腰の剣を抜くと倒れ込んだ黒尽くめの胸を足で踏みつけると喉元に剣を突きつけた。


「父上がもう来る、カイン、ティル先生、アイツらを逃がすな!」

「捕縛系の魔法はもってないんだってばぁ」

「凍らせましょう」

「どっちにしても、安全第一! カイン様は結界維持そのままでねぇ」


キールズの声に、カインとティルノーアで簡単に声を交わす。カインはそのまま結界維持。ティルノーアが部屋に残っている黒尽くめの足元へと氷魔法を打ち込むが、氷が薄いせいか一瞬の足止めができるだけで直ぐに足を抜かれてしまっていた。


ディアーナが鍔迫り合いをしていた黒尽くめを転ばせたことで自由になった不寝番の騎士がとびだし、剣を思い切り振って面の部分を相手の腰に打ち付けて壁にふっとばした。

剣を横にして振ったせいか、風の抵抗で剣が重かったようで片手をぷらぷらと振っている。


「カイン様。残り少ないのでいけます」

「怪我しないようにね」


一人をキールズが、一人を騎士が押さえたことで部屋に残っている黒尽くめは後三人になった。キールズが押さえている黒尽くめも、アルガが足を縛り上げているのでソレがおわればキールズの手も空く。

カインに一声かけたイルヴァレーノが結界から素早く飛び出し、騎士とふっとばされた仲間に気を取られていた黒尽くめへと駆け寄った。

くるりと背中側へと入り込むと相手の腰のベルトをつかみ、持ち上げつつ後ろからかかとを蹴りつけた。少し浮いた足を思い切り蹴り出されたことでバランスを崩した黒尽くめは後ろに倒れそうになり、その勢いを迎えるようにイルヴァレーノは足を持ち上げて相手の後頭部に膝蹴りを叩き込んだ。倒れ込んだ黒尽くめの肩に足をのせると、腕を引き上げてからその足に思い切り体重をのせた。ゴキリという鈍い黒尽くめの肩が脱臼する音がした。


肩を押さえて床でのたうつ黒尽くめを放置し、ナイフを振りかぶって襲いかかってきていた相手にイルヴァレーノは掌底を出してナイフを握っている手を外側にはじき出した。そのまま床に手をついて腰を回転させるように床に沿って足を回転させ、相手の足を払う。転びかけた黒尽くめに、後ろから駆け寄ってきたキールズがすくい上げるような振りで剣のひらを叩き込むと、相手はそのまま床に倒れ込んでしまった。


自分の担当だと認識していた分が片付いて、イルヴァレーノが残った一人に目をやれば、最後の一人も不寝番に剣の柄で後頭部をぶん殴られて倒れ込むところだった。

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いつもありがとうございます。

ついに、書籍版「悪役令嬢の兄に転生しました」が発売されました。

これも、いつも読んでくださる皆さんのおかげです。

感謝の気持ちをこめた短編をアップしていますので、目次ページの一番上「あにてんシリーズ」というリンクをクリックしてください。

そこから短編集に飛べます。

本当に、今まで読んでくださってありがとうございます。

これからも、ぜひよろしくおねがいいたします。

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