バケモノ兄妹
感想、誤字報告、いつもどうもありがとうございます。
お読みいただき感謝します。
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ひとしきり感動のハグをしたところで、それぞれの椅子に戻って座り直した。
母からほぼ初めてといっても良いほどに甘やかされ、さらに兄と(呼ばせてもらえないけど)慕うカインに抱きしめられてアルンディラーノはほっぺたをバラ色にしてニコニコ顔になっている。
「リベルティ嬢を下賜させず、ティアニア様のおそばにいられるようにするには、やはりティアニア様が何者なのかを探る必要があると思うんです」
ズリズリと椅子を移動させてカインの隣にぴったりくっついて座ったディアーナは、カインの横顔を見上げた。
「ティアニア様を王女にしなくても良くなる、代替案を考えるためだよね?」
「代替案とか難しい言葉を知ってるね、ディアーナ。そう、替わりの提案をするためには、今の状態になってる理由を知らないとなんだけど」
結局そこで行き詰まるのだ。
最後の手段として、虫嫌いの母を連れてきて王妃殿下を懐柔してもらうという案もあるのだが、かなり難易度は高い。それで母の機嫌を損ねると、カインだけでなくディスマイヤもディアーナもダメージを受けてしまう。主に心の。
母エリゼは怒ると怖いのだ。
「どうしたもんかね…」
カインが腕を組んで首を傾げて悩ましい顔をすると、アルンディラーノとディアーナも真似して腕を組み、首を傾げた。
三人でコテンコテンと首を左右に倒しながら、なにか良いアイディアは無いもんかと頭をひねっているその時だった。
ドカンっ
廊下の向こう、城の外から爆発音が聞こえてきた。少しだけ遅れて僅かに家具がビリビリと音を立てて揺れる。
カインがとっさに立ち上がり、廊下へと飛び出した。
「何!? 今の音はどこから?」
「カイン様、あそこ!」
ドアのそばに控えており、先に飛び出していたイルヴァレーノが廊下の窓から外を指さしている。窓に駆け寄り指先へと視線を投げると、中庭を挟んで向こう、離れの屋敷から白い煙が上がっていた。
カインはとっさに振り向くと、アルンディラーノについて来ていた騎士に「殿下を!」と叫ぶとひらりと窓を飛び越えた。
「カイン!」
「カイン様!?」
同じ様に隣の部屋から廊下へと飛び出したキールズが駆け寄ってきているのを横目に、カインは空中で呪文を唱える。
「風よ! 我が足元より大地に向かい吹きすさべ!」
ブワッとカインの下に風が巻き起こり、壁沿いに植えられていた花が風に倒されて地面に沿ってバタバタとゆれている。地面を叩きつける風を受けて落下速度を落としたカインはみつあみをなびかせながら花壇の真ん中に着地するとすぐに離れの屋敷に向かって駆け出した。
「何してんだアイツ!」
キールズが叫んだ横の窓から、さらにひらりと外に飛び出す姿があった。赤い髪をなびかせてイルヴァレーノが窓から飛び降りたのだ。
驚きに声を失っているキールズの目の前で、下の階の窓枠のわずかな出っ張りに足を掛けて落下の勢いを殺しながら、更に下の階の窓枠へ飛び移り、最後は前転の要領で受け身をとりながら地面を二回転ほどして勢いを落として立ち上がり、カインの後を追って駆け出した。
「なんなんだあの主従は!」
キールズは頭をかきむしりながらも、気持ちを切り替えて廊下を振り向いた。
「コーディリアとカディナ、サッシャとディアーナはアル殿下と一緒に王妃殿下の元へ! 騎士の人、頼んます! アルガは俺の部屋行って剣取ってきてそのまま離れだ!」
そう指示をだすと、キールズは自分も離れの屋敷へ向かうべく廊下を走り出そうとして……窓枠によじ登っているディアーナが目に入った。
「バッ! 何やってんだディアーナ!」
「ディも行く!」
キールズは窓枠に飛びつき、咄嗟にディアーナの腰に腕を回して抱え上げた。持ち上げて、窓枠から離そうとするがディアーナが枠をしっかり掴んで離さない。
「キールズ、私も離れの方へ!」
王妃殿下の部屋の方へと誘導しようとする騎士を手で制して、アルンディラーノが一歩前にでてキールズに声をかけた。窓から出そうになっているディアーナを引っ剥がして脇に抱えたままキールズが振り返って頭を振る。
「優先順位を間違えちゃだめだ。殿下は王妃殿下のそばへ行ってください」
おそらく、城の中で今一番安全なのは王妃殿下の部屋である。城の部屋の下、廊下のドアの外に複数人の騎士が立ち、直ぐに駆けつけられる場所に待機している騎士も多い。侍女も護身術等を身に着けている者がそばに侍っているはずである。
それらを踏まえての、安全な場所へ、という意味と。母親を守れ、という意味で。
キールズが言った意味を理解したのだろう、アルンディラーノは頷くと騎士を促して廊下を走り出した。
「ディの! 優先順位は! お兄様だから!」
「わかった! わかったから腹を叩くな! 一緒に行くけど、窓からはダメだ! 裏口から出るぞ」
ディアーナが小脇に抱えられた状態のまま、抗議するようにキールズの腹をバシバシと叩いていた。キールズの侍従、乳兄弟のアルガが剣を持って駆け寄って来たので、ディアーナを廊下におろしてそれを受け取った。剣を腰に下げるとバシンとディアーナの背中を強く叩いた。
「ほら行くぞ、あのバカ主従みたいな意味分かんない事真似すんな」
裏口へと続く階段へと向かってキールズとディアーナが走り出した。
窓の外から、先程よりは小さい音で「ドカン」となにかが破裂するような音がまた聞こえてきた。
ディアーナを先に走らせつつ、キールズはすぐ後ろを走るアルガに指で顔を寄せるようにジェスチャーをする。足を早めて並んで走るアルガへ、キールズは頭を寄せるとその耳元へ口をよせた。
「いざとなったらディアーナを抱えて逃げろ。大暴れするだろうが軽いから無理やり王妃殿下のとこまで連れてけ」
「最初からあちらに行かせれば良かったじゃないか。騎士に運ばせればよかっただろ」
「王太子殿下を引き止めて置くわけにいかないだろ。行く行かないでディアーナがわがまま言ってる時間が惜しい、一旦連れて行くことにしたほうが早い」
「わかった。キールズも無茶すんな」
「しないさ。父上や巡回してる騎士がくるまでの時間稼ぎができれば上等だ」
階段を二段飛ばしで駆け下り、一階の廊下を駆け抜けながら裏口を目指す。ディアーナに聞こえないように内緒話をしながらだったとは言え、ディアーナがいつの間にか随分と前を走っていた。
「ディアーナのやつイヤに足が早いな……カインといい、バケモン兄妹かよ」
キールズは苦笑いをすると、口を閉じて走る足を早めた。
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おかげさまで、書籍1巻発売まであと5日になりました。
どうぞ、よろしくおねがいします。
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