二次元と三次元という概念
誤字報告いつもありがとうございます。助かります!
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食堂の皆の動きがピタリと止まった。室内の温度も一度ぐらい下がったかのような錯覚をその場にいるみなが感じたのだった。
ディスマイヤが、大きく息を吸って、そしてゆっくりと吐き出した。
「カイン。ディアーナももう九歳で立派なレディなんだよ? それにこの場には王太子殿下もいらっしゃる。言葉には気をつけなさい」
ディスマイヤの言葉に、ハッとしたカインは隣に座るディアーナを見て眉尻を下げた。
「ごめんねディアーナ。ディアーナを恥ずかしめるつもりは何もないんだ」
「わかっていますわ。お兄様が私を貶めるような事は言わないってわかっております。でも、お兄様が不名誉な印象を持たれてしまうかもしれませんから、発言にはお気をつけになってね」
「ありがとう、ディアーナ。気をつけるよ」
カインがディアーナに小さく頭をさげると、ディアーナはニコリと笑ってポンポンとカインの手を軽く叩いた。
「えーと。つまり、僕は赤ちゃんのお世話をお手伝いできるということを言いたかったのです。王妃殿下もお世話係や乳母など連れてきているのかも知れませんが、今この城は機密保持の為に人手が薄くなっていますよね? 手は足りてますか?」
カインがディアーナからディスマイヤへと視線を移動する。カインに見つめられたディスマイヤは「むぅ」と口を引き締めると眉間にシワを寄せてスープへと視線を落とした。
悩んでいるという事は、実際に人手は足りていないのだろう。
キールズとコーディリアの侍従は戻って来ていないし、一応のゲストであるカインとディアーナの侍従に関してはサッシャがようやく夕飯の呼び出しで戻ってきたがイルヴァレーノはまだ戻ってきていない。
王妃殿下が連れてきた人たちと連携が取れるようになれば、もうすこし手が回るようになるのかもしれないが、もう少し時間が掛かりそうだった。
「長旅の後ですし、住み慣れない場所ですし、もう少し落ち着いてからと言うお父様の思いもわかるのですが、尚更交代要員を増やしてティアニア様のお母様や乳母の体調をおもんぱかった方がいいと思うんです」
なおも、カインが言い募ればディスマイヤは大きなため息を吐いた。
「カインの言い分もわかった。だが、まずは王妃殿下に許可をいただかなければならない。食事が終わったら伺ってくるので、まずは食事を済ませてしまいなさい」
「はい。よろしくおねがいします」
なんとか、ティアニアの世話をする糸口ができそうになりホッとしたカイン。
ティアニアに接触できれば、ティアニアの実母に接触できる。そうすれば、この「なぜティアニアを王妃の子として育てるのか」という謎についてわかるかも知れない。それがわかれば、ティアニアの実母を遠い地の貴族に嫁がせるということを阻止するための方法が探せるかも知れない。
置いておいたナイフとフォークを再び手にとって食事を再開した。様子を見守っていた他の子どもたちも緊張を解いて改めて食事と向き合った。
「伯父様。私も、赤ちゃんそのもののお世話は難しくてもかんたんな事ならできると思います。農繁期の村の子たちの面倒を見たりもしていたんです」
「伯父様。俺も、昼寝の時に見張っておくぐらいはできます。コーディリアと一緒で村の子達の面倒を見てたんで、『あ、そろそろ起きそう』とか『泣きそう』みたいなの結構気配でわかるんで」
コーディリアとキールズも、カインと一緒に子守をすると言い出した。二人は、小さい子に対して「目を離さない」という事が重要な仕事だと知っていたからこその提案だった。
「それならば、僕も一緒にティアニアの世話に参加するべきだろう。僕の妹なのだからね」
「わたくしも。仲間はずれにしないでくださいませ。お兄様が私にしてくださったことを、ティアニア様にして差し上げればよろしいのでしょう?」
「いや、それはどうだろう」
アルンディラーノとディアーナも子守に手を上げた。ディアーナの発言に対してキールズがツッコミをいれたがそれは華麗に流された。
「……。王妃殿下に、子どもたちがみなティアニア様のお世話を申し出ているとお伝えするから明朝まで待ちなさい。王太子殿下も、明朝まではお待ちいただくようお願いいたします」
「わかりました」
その後は、キールズとコーディリアが城の近くの子どもたちの子守をしていた時の話だとか、アルンディラーノが魚釣りをしたことがないからしてみたいという話だとか、そんな他愛のない話をして昼食の時間は終わった。
「王太子殿下。この度のご滞在は少々事情がございます。そのため、おもてなしが行き届かないことがあるかもしれません。不備や至らないところがございましたら、カインにお申し付けください」
食事を済ませ、食堂から出ていこうという所でディスマイヤがアルンディラーノに声を掛けた。アルンディラーノは優雅に微笑んで、小さく頷いた。
「僕もまだ色々聞いていない事は多いですが、大事にできない旅程であることは承知しています。カインをつけてくれるのなら、僕はそれで十分満足ですよ、エルグランダーク公」
「ご配慮、ありがとうございます」
一礼して、ディスマイヤが先に食堂から出ていくと、アルンディラーノはスススとカインにすり寄ってその腕にしがみついた。
「カイン。話したいことも沢山あるし、聞きたいこともいっぱいあるよ! 半年で上達した剣の腕も見てもらいたいし、さっき聞いた魚釣りもやってみたい! 公もああ言っていたし、いっしょに遊んでくれるよね!」
腕にぶら下がるようにしながらカインを見上げて、アルンディラーノがそんな事を言っていると、同じようにスススと近寄ってきたディアーナが反対側の腕に巻き付いた。
「お兄様と半年ぶりにお会いしたのは私だって一緒だもん! ひとりじめさせないからね! お兄様、お土産に買っていただいた本を一緒に読みましょう! お父様は、アル殿下の言うことを聞くのは『至らないことがあったら』って言っていたもん。 まだ、至らない事なんてないでしょ?」
カインを挟んで、ディアーナとアルンディラーノがバチバチ視線をぶつけ合っている。カインたちの後から食堂を出ようとしていたキールズとコーディリアは部屋を出そこねてしまっていた。
「王子様ってさぁ……」
「アル殿下は、まだ九歳だしこれから王子様らしくなるって……たぶん」
「玉の輿狙ってるとか、王妃になりたいなんて思っていないけど、理想と現実ってあるんだなって思うわ……」
「コーディ……」
キールズは、半眼になって両腕に九歳児をぶらさげているカインを見つめるコーディリアの背中をゆっくりなでてやった。
コーディリアは、理想の王子様はやはり物語の中にしかいないのだなと世の無情を噛み締めていた。
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書籍化に関して、記念に短編を書こうかと思います。
内容リクエストなどについて活動報告に記載しておりますので、よろしければご覧ください。
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