いつでも言葉の選び方を間違える男

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カインは今まで「婚約破棄はせず、書類上で婚姻をしたのちに地方貴族へ下賜する」という王太子ルートのディアーナに対する仕打ちは、家族愛が薄く感情が育ちにくかった事や王太子としての体面を気にするように育てられた結果ではないかと考えていた。


刺繍の会で初めて会ったアルンディラーノはディアーナを突き飛ばした嫌な奴だった。しかし、仲直りお茶会や隔月で開催される刺繍の会、ほぼ毎日の剣術訓練で一緒に過ごすアルンディラーノは素直ですこし甘ったれないい子だった。


アルンディラーノは人前で父上・お母様と呼びそうになって陛下と王妃殿下と言い直す事が多い。おそらく、アルンディラーノの教育係といった人たちはとても体面を気にする人なのだろう。

また、カインは小さい頃に国の偉い人から「アルンディラーノの評判を上げるための公務を選べ」と言われたこともある。

王太子であるアルンディラーノは、つまりそういった教育を受けて育てられているということだ。


そして、報告書だよりのコミュニケーションという一方通行な愛情によってアルンディラーノ自身は他人の感情というのに疎くなってしまったのではないかとカインは思っていた。


だから「僕やゲラントやクリスの前では『父上』『お母様』と呼んでもいいんだよ」と言って聞かせたし、行幸への同行を増やすように手引したり、報告書が当てにならない状況を作って朝食等の親子の時間を持つように仕向けたりもした。

刺繍の会ではアルンディラーノとディアーナはよく喧嘩をしていたが「喧嘩するほど仲がいい」的な内容で、お互いに友情に近いものを持っていたとカインは感じていたし、喧嘩の内容はだいたいカインの取り合いだった。


カインはそれらの事実から、アルンディラーノの情緒は成長しているし人を物のように人に押し付けるようなことはしないのではないかと油断していた。


(まさか、ドンピシャそのまんまな事を親がするとは思わないじゃないか……)


王妃ではない女性が産んだ子どもを王妃の子とするために、邪魔な実母は地方貴族に下賜して嫁がせる。

そして、それは実母にとっても良いことだと言い聞かせる。 

それをアルンディラーノが真に受ければ、自分自身にとって邪魔な存在ができた時に同じことをするかもしれない。そして、その邪魔な存在というのは、ゲーム上ではディアーナなのである。


「アル殿下。そもそも、なんでティアニア様は王妃殿下の子として育てるってことになったんでしょう?」

「わかんない。何をきいてもまずはこちらに着いてから、と言われてしまって何も教えてもらえてないんだよね。もうこのお城に着いたんだし、教えてもらえるかもしれないね」


アルンディラーノはそう答えて、すっかり氷の溶けた薄いお茶をぐびっと飲んだ。カップをテーブルに置いたところでサッシャが部屋へと戻ってきた。

風を通すために部屋のドアは開けっ放しなので、サッシャはノックせずに入り口から声をかけてきた。


「昼食の準備ができました。食堂へ移動をおねがいします」


アルンディラーノとディアーナはぴょいっと椅子から飛び降りて入り口に向かおうとしたが、サッシャに軽く睨まれてディアーナがピタリと立ち止まる。ぴしっと背筋を伸ばしてしずしずとゆっくりあるき出した。

それを見て、アルンディラーノも気まずそうにサッシャの様子を窺いながら背筋をのばし、優雅にあるき出した。

五人の子どもはぞろぞろと部屋を出て食堂へと向かった。


食堂には、ディスマイヤが先に来て席についていた。


「王妃殿下はまだいらしてませんか?」


とアルンディラーノが問いかけると、ディスマイヤはすこし苦い顔をして小さく顔を横に振った。


「王妃殿下は、少しご気分がよろしくないということで、お部屋で召し上がるそうです」

「馬車酔いでしょうか? 食後に様子を見に行っても大丈夫でしょうか?」

「王太子殿下にお会いできないような不調ではありませんので、大丈夫ですよ。王妃殿下もお喜びになるでしょう」


母を気遣うように眉尻をさげるアルンディラーノの様子に、ディスマイヤは優しく笑いかけて言う。苦い顔をしたのは、王妃殿下の体調が悪いことについて心配してのことではなかったようだ。

エクスマクスとアルディはまだ色々な手配に奔走しているということで昼食は欠席だということだった。


「お父様。ティアニア様にはお会いできますか?」


食事中に、カインが雑談のような気軽さでそうディスマイヤに聞く。手に持っていたフォークを取り落しそうになったディスマイヤだが、なんとか握り直して落下を防いでから、静かにナイフレストへとフォークを置いた。


「ティアニア様はまだお小さい。小さいお体での長旅が終わったばかりでもある。もうしばらくは静かにお過ごしいただかないといけないだろうから、また今度、だ」


空咳をして動揺を隠してから、ディスマイヤはカインに顔をむけてそういった。また今度。


カインとしては、ティアニアの実母の下賜を辞めさせたい。もしくは、本当に嫁ぎたい相手に嫁ぐのであれば、そのことを確認したかったし、もしそうであればそれをアルンディラーノに知らせたかった。

その女性が一緒に来ているのであれば、ティアニアのそばにいる確率は高い。ティアニアに会えればティアニアの母にも会えるのではないかとカインは考えている。そうなれば、ティアニアの母の思いを聞くことができるかもしれないし、親子が別れないで済むように何がしかの手伝いだってできるかもしれない。


「お父様」

「なんだい? カイン」


カインも、手に持っていたナイフとフォークを一旦置いて姿勢を正す。真面目な意見表明であることを示さなければならない。王家がやろうとしていることを邪魔しようとしていると悟られてはならない。

カインは至極真面目な顔で父に向かってこう言った。


「僕は、ディアーナのおむつを替えていた男です!」

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