お父様の本当の訪領理由
おまたせしました。
―――――――――――――――
ネルグランディ城には、大人数を招いての晩餐会を開ける食堂が二つあり、舞踏会を開けるホールが大小一つずつある。そしてホールの近くには招待客が休憩するためのサロンがいくつかある。
エルグランダーク一家は家族用の小規模な食堂での食事のあと、そのいくつかあるサロンのうちの一つに移動していた。
部屋の真ん中に大きな楕円のローテーブルが置かれ、その回りに二人がけソファと一人がけソファが交互に配置されている。部屋の壁際には小さめの丸いローテーブルと四人分のソファのセットがいくつか散らすように配置されていた。
「私とエクシィに酒を、子どもたちには茶を出してくれ」
「寝る前ですよ。私にはお茶を。子どもたちには果実茶をお願いするわ」
それぞれがソファに腰を下ろしたところでディスマイヤが待機していたメイドに声をかけ、アルディがそれを訂正した。
メイドは一礼すると準備のためにサロンから退室していった。
「明後日、王妃殿下とアルンディラーノ王太子殿下がこの城にやってくる。アルディには迎える準備をしてもらいたい」
「えええええ!?」
サロンの扉が閉まり、家族だけになったところでディスマイヤが爆弾発言をした。エクスマクスとアルディがソファーを揺らしながら立ち上がり、驚いて声をあげているところを見ると先触れの手紙などもなく、急に言われたことのようだった。
「先に早馬で誰か寄越すか手紙を出しておいてくれよ兄上!」
「僕がその先駆けだよ。まったく人使いが荒い」
エクスマクスが非難の声をあげるが、ディスマイヤも眉間にしわを寄せて渋い顔をしている。
「お父様は、領民の反乱を収めるためにきたんじゃないんですか?」
「ん? あぁ、子爵一味のことか。違うよ。もともと僕がわざわざ来る程のことでもないよ。エクシィに任せておけば問題ない。カインの帰省とかち合ってしまったのは少し不運だったね」
タイミング的に、領民からの反発を押さえにきたのかとカインは思っていたのだが、違ったようだ。
「ウチの領地は豊かだからね。元子爵が煽ったほど領民の暮らしは悪くないはずだよ。そして領民たちは穏やかで善良だ。唆されて
そう言うディスマイヤの顔は穏やかだった。
確かに、よそから来た人達は別として、アニタの顔見知りたちはカインやキールズの説得にあっさり納得して鉾を収めてくれていた。
「お父様は、領民を信頼しているんですね」
カインが父を褒めていい話として締めようとしたが、そうはいかない人がいた。
「今は、一応解決したその話はいいでしょう! 明後日に王妃殿下と王太子殿下がこの城にくるってどういうことですか!? 何をしにいらっしゃるんですか? 何日ほど滞在なさるんですか? 護衛はどれほど連れてこられるのですか? それから」
「落ち着け、エクシィ。いいから座れ」
エクスマクスが身を乗り出してディスマイヤに矢継ぎ早に問いかけまくる。ディスマイヤは、身を引きながらもエクスマクスを落ち着けようと手を前に出して押し戻すようなジェスチャーをした。
「王妃殿下は我が領へ療養するためにいらっしゃる」
「どこか、お体を悪くされたのですか?」
「いや、いたって健康でいらっしゃる。なので、食事は特に注意点もないし、寝具やその他も普通に来客としてお迎えして問題ない」
「では、アル殿下が体調を崩されたのですか?」
ディスマイヤとエクスマクスの会話に、カインが少し腰を浮かせながら割り込んだ。その顔は心配そうに眉間に眉を寄せている。
「アルンディラーノ王太子殿下もお体に問題はない。もちろん、心にもだ。心配ない」
ディスマイヤが落ち着いた声でそう答える。では、療養とは何事なのか。今度は心配ではなく疑問によってカインの眉間のシワが深まった。
「療養ということにして王都を離れる必要があったとか? まさかお命を狙われているとか、何かスキャンダルに巻き込まれたとか」
王都で何事かがあったとして、ディスマイヤがすぐに出てきたのだとすればスキャンダル等の情報は領地にはまだ届いていない。そもそも領地にいては王都の情報は取り寄せようとしなければ得られるものでもない。
「そういった事ではないから安心しろ」
「もう! 結局なんなんだよ! きちんと説明してくれ兄上!」
「説明しようとしているのに、お前がどんどん質問してくるんじゃないか」
エクスマクスが堪えられなくなって訴えるが、ディスマイヤは困ったような顔で苦笑いしながらたしなめる。
エクスマクスが「むぅ」といいながら不満そうな顔をして、それでも一歩さがって自分のソファへと腰を下ろした。
「明後日来るのは、王妃殿下と王太子殿下。そして、産まれたばかりの王女殿下だ」
なん……だと……っ。 カインは目を見開いて、心の中でそうつぶやいた。
王女殿下ってなんだ。アルンディラーノの妹ってことか? は? そんなキャラクター、ゲームに出てこなかったぞ!
カインの心は大混乱の渦におっこちた。
―――――――――――――――
いつもありがとうございます。
読んでくださって本当にありがとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます