手分けして頑張ってますアピールをする一家

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「王都でも、ネルグランディ産の小麦をつかったパンはおいしいと評判だそうです。とても品質が高いと評判で小麦の中では高級品として取り扱われているんだそうです。王太子殿下からも好評ですし、王家御用達になるのもそう遠い未来ではないと思いますよ」

「私たちの作った小麦が、国王陛下にも召し上がっていただけるんですか……!?」


「皆さんから納めていただいた税金で、こうしてきれいな服を着たり礼儀を学んだりしているのは、皆さんの成果を貴族や王族へと売り込むためでもあるんです。僕らは、小麦や大麦やこの土地の牛や鶏を王都の貴族に紹介してなるべく高いお金で買ってもらう努力をします。そうして農作物が高く売れれば、皆さんへも還元されますから」


自分の作ったものが、王族の口に入るかもしれないという事実に驚いている青年の手を両手で包むように握り、すこし見上げるように上目遣いでみあげながら、カインはそう言って微笑んだ。

農作業着の青年は頬を赤くしながらも、コクコクと首を縦にふっている。


カインは今のところ領地運営についてはほとんどノータッチである。領民へどのように還元されているかについては全く分かっていない。


母エリゼがお茶会などに領地の特産品を使ったお菓子を持って行っていたり、神渡りの振る舞いを食べたり持ち帰ったりしているハウスメイドたちが「領地の材料を使ったお邸のパンやケーキは特に美味しい」と話しているのを聞いていたり、アルンディラーノに「カインちのお菓子おいしいから遊びに行きたい」と言われたりしていたことの積み重ねをカインなりに解釈して、話しているに過ぎない。

それでも、大きく外してはいないとカインは考えている。領地をもっている貴族の王都の屋敷は豪華なアンテナショップである。そういった方向性の話なら、カインでも出来る。



となりで、ディアーナがやはり農作業着を着ている女性に対して話しかけている。


「お姉さんのおうちでは、何を作っているのですか?」

「……わたしのうちでは、季節ごとの野菜を作っています。今の季節だと、ウリやトマトなどが収穫時期です」

「わぁ。今日の朝ごはんでトマトを頂きましたの。とても味が濃くって美味しかったです!」


淑女の微笑みをしたディアーナがそう言いながら、さらに女性に近づいていく。朝の収穫や水撒きをしてからやってきたであろう土がついた作業着の袖を掴んでツンツンとひっぱり、反対の手を口に添えて内緒話があるというジェスチャーをするディアーナ。

困惑した顔をしながらも、身をかがめてディアーナに耳を寄せた女性に、ディアーナがこそこそと小さな声でささやく。


「あのね、王都にいる時はトマトあんまり好きじゃなかったの。でもね、領地でたべるお野菜は味がこくってとっても美味しいから、沢山食べちゃうんだよ。お姉さんのおかげだね」


ディアーナのささやきを聞いて、目を丸くする女性。ディアーナは袖から手を離して口を隠していた手も腰に落とした。

女性が屈んでいた腰を伸ばして改めてディアーナを見る。


「ありがとう! お姉さん」


女性と目が合うと、ディアーナはお礼を言ってニパッと笑った。それまでの貴族のお嬢様といった微笑みでなく、年齢相応の無邪気な笑顔をみせられて、女性の頬がみるみるうちに赤くなる。


(あざといっ。あざ尊いって。ディアーナ。可愛すぎるしアレでは誰もかなわないよ)

流れ弾を食らったカインが目をつぶり、魂を半分体から離脱させて感動に打ち震えていた。




別のテーブルでは、キールズが青年たち数人と会話をしている。


「南地区に、サイスト川から水をひいただろ。そう、五年前から始めて三年前に出来た運河。あれは、皆から集めた税金を使って作ったものだよ。……みんなからも人手を出してもらったのは確かだけど、ちゃんと工賃は払われていたし、長男や家主が参加した場合には農作業を休む分の補償金も出ていたはずだよ。騎士団に所属している騎士の、農作業手伝いの為の帰省も勤務扱いになっていたし。それらの賃金なんかを税金からだしているんだよ」

「オヤジが川を掘りに行ってて俺の分の仕事はきつくなるけど、自分たちの畑のためだしって我慢してたんだが。アレはちゃんと金が出ていたのか」


まだまだ両親が現役で、作業自体は自分がメインになりつつあるものの収穫物の売り渡しや税の支払い等の事務関係に携わっていない青年は、キールズの話を真剣に聞いていた。


「ココ数年は毎年豊作だから多めの率で収めてもらっているが、天候不順なんかで不作の年には税率が下がるって取り決めがされているんだよ。城の裏に倉庫があるのは知っているだろ?あそこは豊作のときには小麦と大麦を保管してあるんだよ。凶作の時には領民に開放するためと、領民に代わって国に税を収める為に二年分ずつ保管してあるんだ。三年目の古くなった物から家畜の餌なんかに安く放出してる」

「あの倉庫って小麦倉庫だったのか。城の美術品や贅沢品を溜め込んでるって聞いたんだよ。オレたちから巻き上げた税金で調度品や贅沢品を買っては、古い贅沢品を倉庫に溜め込んでるって」


キールズの説明を受けて、青年がそんな事を言いだした。キールズは流石に聞き流せず、思わず声が荒くなってしまう。


「はぁ? 誰がそんな事を?」

「い、いや。誰って言うこともないんだが、あそこはなんだろう?って話になった時に誰ともなくそういう話に……」

「なんなら、今から見に行ったって良い! みんなを連れて見に行くか!?」

「いや、そこまでしなくていいよ。 疑ってない、疑ってないよキールズ。な?」


慌てた青年が手を前に出してキールズをなだめるように振りながら、周りで一緒に話を聞いていた青年たちに同意を求めた。周りの青年たちもウンウンと頷いている。

何か、自分たちが聞いていた話と違うようだと思いはじめてくれているようだった。キールズは、大きく息をはいて自分の気持ちを落ち着けると、また彼らに向かって話しはじめた。



コーディリアは、アニタとアルディと一緒に小さな子どもを抱いた女性たちと向き合って会話をしている。


「確かに、貴族という立場を笠に着て私腹を肥やすタイプの人もいるわよね。でも、うちの領主である公爵様はそういう人をきちんと裁いてくださる方ですもの。私達は労働力を提供し、お貴族さまはその権力で私達を守ってくださる。そういう関係なのだわ」


アルディが、目の前の女性の腕に抱かれている子どもの手をニギニギしながらそういって笑った。子どもはキャハーと言いながらアルディの親指を握り返すので、アルディは握られた手を小さく上下に振って楽しそうにあやしている。


「でも、公爵様は一年のうちに春しかいらっしゃらないでしょう。あまり領内の様子をご存知ないのではないかって」

「領地内の土地管理官の男爵たちをあつめてパーティをして、そうして帰っていってしまうじゃないですか」


アルディにあやされて、ごきげんな赤ちゃんを優しく腕で揺らしつつ、若い母親は不安そうな顔をする。ソレに対して、アニタが頬に手を添えながら答えた。


「お義兄さまは、一月ほどかけて領内をぐるりと巡っているわよ。うちの旦那様と何人かの騎士を連れてねぇ。聞いてないかしら、今年の春は最南のグリスグール地区の土地管理官を罷免して新しい方を任命しているのよ。前任の管理官が不正を行っていたって言うことで爵位の剥奪と土地の没収をしているわよ」


春先にやってきて、パーティをして帰っていく領主。公爵に対してそんなイメージが領民にあったのだとしたら、ソレは自分たちのアピール不足ということも有るのかも知れないとアニタは苦笑した。夜会ではなく、カイン達の紹介を兼ねた昼の歓迎会だからこそ出来る話かもしれないと、ココぞとばかりに会話をすすめる。


「グリスグールの土地管理官は、領民を召し上げた一代男爵じゃなくて元々は領地持ちの子爵様だったのよね。そのせいでグリスグールの人たちにも色々と遠慮があったみたいで中々報告が上がってこなかったらしいの。でも、お義兄さまは、ウチの人から上がってくる報告書を見ておかしいって気づいたんですって」


ココだけの話よ、というふうに身を乗り出して悪い顔をしてコソコソと話すふりをするアニタ。世の奥様というものは、内緒話が好きなものである。

アルディもコーディリアも含めて額を突き合わせるように身を寄せて話の続きを聞こうとする。


「土地管理官が提出する報告書としては、ちゃんとしていて何も問題が無かったらしいのね。でも、お義兄様は、近隣地区の報告書と比べたのですって。いくらこの領地が広くて、領地の端っこと端っこでは気候も違うとは言え、隣同士の地域で大きく差がでるなんてそうそう無いはずだって」

「え、じゃあ。グリスグールの報告書と、近くの地域の報告書でなにか違いがあったということ?」

「そう。グリスグールだけ、凶作の年が多い事がわかったの」

「まぁ! じゃあ、本当は豊作なのに凶作として報告していたということ?」


アニタの真に迫った喋り方に、集まった人たちが巻き込まれていくように会話に混ざっていく。


「そう! そうなのよ! グリスグールの前土地管理官は領民からは豊作時の税率で回収して、領地には凶作時の税率分だけ収めていたのよ。 報告書だけではわからないことは、視察に行った時に領民から丁寧にお話を聞いて回ったってウチの人が言っていたわ」

「まぁ。それで、グリスグールの前土地管理官はどうなったのですか?」


そう聞かれて、アニタはニヤリと悪い顔をした。


「土地の没収。子爵から男爵への降爵。土地管理官からの罷免。そして、横領していた分の私財の没収をされたらしいわよ。そのうえ、お義兄様は没収した私財は元々領民のものだから土地のために使うようにって言ったそうよ」


悪漢がきちんと成敗された結末を聞いて、ほっとしたような顔をする女性たち。身を寄せ合っていたのをすこし離し、隣に立つ者同士でサワサワと雑談をはじめていく。


「思ったよりも、ちゃんと私達の話を聞いてくださるかたなのかしら」

「貴族ばかりで集まって、パーティだけして帰っていく人だって聞いていたのに」

「でも、実際に私達の所にはお話を聞きに来てくれたことはないじゃない?」

「そういえば」


サワサワと。噂話を確認しあう領民たち。


「母さん。その領民の為に使いなさいって言われたお金ってどうなったの?」


一連の話を聞いて、コーディリアが気になったのはそこだった。伯父であるディスマイヤが領民のために使うようにと言った金は今どこにあるんだろうか。


「追い出された子爵の邸に、そのまま置いてあるんじゃないかしら。おそらく、新しい土地管理官がその家に住んで、領民たちで使いみちを話し合っているんだと思うわ」


ふーん、とコーディリアが頷こうとしたその時。コーディリアの後ろで大きな音が鳴った。

食器が派手に割れる音と、何か大きな物が壊れる音。そして、誰かの悲鳴が庭に響いた。

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誤字報告、いつもありがとうございます。

予測変換が悪さをしまして……(言い訳)

いつも、半分ほどはスマホで書いているんですよ だから、予測変換が……(くるしい言い訳)

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