侍従の戦い
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翌日朝。カインは早くから起こされた。
顔を洗われ、化粧水で肌を整えられ、丁寧に丁寧に髪を梳かされた。
そしてサイドの髪を三段に編み込まれ、細い三編みをさらに一本の大きな三編みに編み込まれた。
組紐で結んだ後に、端に鳥の羽が縫い付けられているリボンを結んで飾られる。
「イルヴァレーノ。なんか気合入ってるね……」
「昨日も言いましたが、負けられない戦いがあるんですよ」
その後、キールズのお下がりのドレスシャツとズボンを着せられて身支度が完了した。
歓迎会は昼からだが、朝から身支度バッチリにされてしまったカイン。これから朝食である。
部屋から廊下に出たところで、ディアーナも部屋からちょうど出てきたところだった。
「お兄様!おはようございます」
「おはよう、ディアーナ。今日もかわいいね」
ディアーナも朝から気合十分だった。
夏の空の色をした涼しげな薄手の布を不規則にレイヤードされたスカートにリボンとフリルたっぷりの袖と襟の夏用ドレスを着ていた。
髪もきっちり気合をいれてきっちりマキマキされていた。
ゲームパッケージと同じ髪型になったディアーナに、すこし胸が痛むカインだがそれはそれ。
「マキマキした髪の毛可愛いね、歩くとポンポン跳ねるのが楽しそうだよディアーナ」
「うん、楽しいよ!みてみて!」
そういって、ディアーナがカインの周りをスキップして回る。ディアーナの体が跳ねる度に、クルクルに巻かれた髪の毛がポンポンと背中や肩の上で跳ねる。
ディアーナがくるくる回るのに合わせてカインもディアーナを視界にいれるようにその場でまわった。
「あ!お兄様のおリボン、羽根がついてる!」
「可愛いだろー?イルヴァレーノがやってくれたんだよー」
そう言って今度はカインがディアーナの周りをスキップしてみせた。三編みの先がスキップに合わせてポンポンと跳ねる。リボンの先についている羽根がふわふわと揺れた。
カインのスキップの後に付いて、ディアーナもまたスキップを再開して二人でスキップしてその場をぐるぐる回りだした。
「今日のディアーナ様の巻き髪は会心の出来です。巻きの密度、まとめ髪のボリューム、軽さ、完璧です」
「今日のカイン様の編み込みだって最高の出来だ。形の良い眉と澄んだ青い瞳をしっかり見せるようにサイドを編み込んで顔をスッキリ出している。髪だけじゃない、トータルでカイン様の美しさを引き立てている。完璧だ」
あははうふふとスキップする兄妹のわきで、火花をちらしている侍従と侍女だった。
朝食の席に着けば、エクスマクスとアルディがすでに着席して食事をはじめていた。
「騎士団の朝訓練に出てから、昼の歓迎会に戻ってくる予定だ。アニタとレッグスも来る予定だから、その時に紹介しよう。兄上の視察に付いてきてたが、会ったことはなかっただろう?」
騎士団の朝訓練が有るために先に食事を取っていたようだ。エクスマクスが言うように、毎年春の領地視察に付いてきてはいたが、城の周りでキールズやコーディリアと遊ぶばかりで視察にはついて行っていなかったので土地管理官代理の夫婦とカインは会ったことが無かった。
毎年の領主様歓迎会は夜にやっていたので子どものカインとディアーナが参加していないというのもある。
「カインとディアーナの歓迎会なのに、急遽キールズとスティリッツの婚約発表の場も兼ねちゃって悪いわね、カイン」
と、アルディが軽い感じで謝ってきたが、カインは顔を横にふった。
「夏休みの帰省の途中に寄っただけですし、僕はまだ領主の息子としての何かをしているわけでもないので歓迎会をしてもらうのがそもそも申し訳ないぐらいですし。キールズとスティリッツさんの婚約なんておめでたい事を発表する方がむしろ地元の人達には嬉しいでしょう」
「カインはいい子ねぇ。でも、今年でもう学生なのだものね。少しずつみんなに顔を見せていかないとね」
「はい」
アルディもアニタとレッグスと打ち合わせや歓迎会の手配などがあるということで、先に朝食を取っていた。
カインとディアーナは席について、キールズとコーディリアが来るのを待ってから食事を取ることにした。
少し経って、エクスマクスとアルディが食事を終えて食堂を出ていき、入れ代わりぐらいにキールズとコーディリアが入ってきた。
「やあ、おはよう。キールズ、コーディリア」
「おはよう!キー君、コーディ」
ニコニコと朗らかに挨拶をするカインとディアーナに対して、キールズとコーディリアは寝不足のようだった。だるそうに入ってきて椅子に座るとそろって眉間を指で揉んでいた。
「急遽で婚約発表ってことになって、全然眠れなかった。昨日告白して、今日もう領民に婚約発表って早すぎないか?」
「話を聞くに、すでに周りにはバレバレだったみたいだし、良いんじゃない?」
「他人事だと思って……」
キールズとコーディリアが席に着いたことで、四人の前に朝食が並べられていく。健康的に、野菜たっぷりの朝食だった。キールズは食欲が無いようでお茶ばかり飲んでいる。
「お兄様、これを差し上げます」
「ダメ。ちゃんと豆食べないと筋肉つかないよ。目玉焼きの黄身と合わせて食べてごらん。ボソボソ感が少しへるから」
ディアーナがカインの皿に豆を入れようとして、突き返されていた。渋い顔をしつつも、半熟の卵の黄身と和えて豆を食べたディアーナは急いでお茶を飲んで豆を飲み込んでいた。
「偉いねぇ。ちゃんと食べたディアーナはきっと強い子になれるよ〜」
「お兄様より強くなれる?」
「きっとなれるよ!僕より強くなったら、ディアーナに守ってもらおうかな」
「まかせて!」
カインがディアーナの頭を撫でようとして、サッシャに視線で止められていた。持ち上げた手をほっぺたに移動させて、ディアーナの頬を優しくなでていた。
ディアーナを優しい顔で見つめるカインの、その朗らかな笑顔を見てコーディリアがため息をつく。
「ほんと、顔は良いんだけどな……。顔は良い」
朝食が終わって一休みすれば、カインの歓迎会とキールズの婚約発表を兼ねたガーデンパーティーがいよいよ始まるのだった。
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誤字報告、いつもありがとうございます。助かっております。
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