焼き肉も三食続けば飽きてくる

カインが目を覚ますと、テントの中だった。体のあちこちが痛む。

風と火の複合魔法である爆裂魔法を使った時に、防御系の魔法を使わずにすべてを攻撃に突っ込んだ。それで自分の魔法で起こした爆風に自分もふっとばされた。それは覚えていた。


「目が覚めたか。もう夕飯だ。起きられるのなら出てきて食べるが良い」


カインが身を起こした気配に気がついたのか、ジュリアンがテントの入り口から覗き込んでそう声をかけてきた。

カインはもそもそと起き上がると、かるく前髪を手で整えてテントを出た。

焚き火がたかれ、また肉が焼かれていた。三食肉では流石にあきる。しかも全部焼き肉だ。


「王都をここに建てるのならば、最初に料理屋を開くのが良いんじゃないでしょうか」

「良い案だな。魔獣も狩れて、料理もできる。自給自足が出来る料理人がいれば良いのだがな」


カインはジュリアンの隣に折りたたみ椅子を置いて座り、カップに果物のはちみつ漬けを入れるとそばに置かれているヤカンからお湯を注いだ。

今日は、焚き火をいくつかに分けているようで、肉を焼きながらお湯も沸かしていたようだ。


「カインが寝ていたので、お湯用に小さく焚き火を起こしてくれたんですよ」

「カインの魔法は便利だが、袖口が濡れるしそこら中ビショビショになるでなぁ…」

「練習すればいつかきっとこぼさずにカップに入れられる日が来ます」


ふぅふぅと冷ましながら、コクリコクリと果物茶を飲んでいく。甘くて温かい物が胃に流れていくと、急激に空腹を感じるようになってきた。

そんなカインにちょうどよく、肉が盛られた皿がにゅっと後ろから差し出された。


「カイン君。今日の功労賞は君だ。沢山食べてくれよ」


皿を持つ手からさかのぼって見上げると、センシュールがニカッと笑っていた。カインは礼を言って皿を受け取ると、テーブルの上のフォークを手に取って肉を食べ始めた。


「もしかして、私の魔法で倒した魔獣でしょうか?」


口に入れた分を飲み込んでからカインがそう聞くと、センシュールはいいやと首を横に振った。


「カイン君の魔法で倒された魔獣はその殆どが形も残らないほど吹っ飛んでしまったからな。これは、俺たちで残党狩りをした分の肉だ」

「そうでしたか…。残党がいましたか」


カインががっかりと肩を落とすと、もう一切れ肉を口に放り込んだ。

目の前の敵を全滅させる気でやったから、うち漏らしがあったのは単純に悔しかった。そして、一発撃ったあとにすぐ気絶しているので、味方の居ない場所ではやはり全力で魔法を使うわけにはいかないなと思った。


「カイン。地面をごろごろ転がって行ったかと思ったら、意識がなくなっていてびっくりしました。無事に起きてくれてよかったです」


ジャンルーカが心配そうな顔で声をかけてくれるが、カインとしては今回はそれが狙いでもあったのでむしろ大成功である。


「ジャンルーカ様。覚えておいてくださいね。魔法使いが全力で魔力を使い切るような魔法を使うと、今日の私みたいにプツンと意識が途切れてしまいます。信頼のおける仲間がいたり、絶対に安全な場所から離れた場所に向かって使う場合などで無いかぎり、全力で魔法を使ってはいけませんよ」

「はい。カインが死んじゃったのかと思ってすごく心配したんです。僕も、周りの人を心配させないように気をつけます」

「命がけの反面教師だなぁ。カインよ」


カインは、肉を食べながら気を失っている間のことについて二人から話を聞いた。

今はすでに暗くなっているので見えなくなっているが、カインが魔法を打ち込んだあたりは木々が倒れ地面がえぐれているらしい。

だいぶ見晴らしが良くなっているそうなので、森を開拓する足がかりにしようかと相談中らしい。

魔獣が大量に発生した原因はわかっていないらしいが、時間によって魔獣の数の多い場所少ない場所が移動するのではないかと推測しているらしい。

魔獣の遭遇場所と数と種類を地図に書き込む時に、今後は時刻も書いて行くことになったそうだ。


けが人も出たが、皆軽傷といえる程度らしいが、明日は朝から撤収作業をしてさっさと王都へ帰る事になったらしい。


「後六年でここを王都にするのであれば、調査ばかりではなく都市開発を始めないといけませんよね」

「うむ。そのとおりなのだが、計画書を書いて予算委員に提出しているのだがなかなか通らぬのだ。予算はきちんと組んでいるので、通りさえすれば人足を雇って開墾を始められるし飛竜を荷運びに使う許可も下りるはずなのだ」

「何故通らないのかとか、こうすれば良いとかアドバイスを貰えそうな方に相談してはいかがですか」


ジュリアンは渋い顔をする。


「みな、旧王都への引っ越しが最善と思っておるのだろうな。今の上位貴族達は今の王都にも旧王都にもいい場所に屋敷を持っておる者が多い。今更競争して土地の取り合いや新居の建築など面倒なのかもしれぬな」

「それなら、最初から遷都の責任者を兄上にしなければ良かったのです。遷都後は兄上が治めるのだから指揮をとれと任命しておいて、大人たちはあまり協力してくれないのです」


ジャンルーカが悔しそうな顔をしてそう言った。


もしかして。


ジャンルーカがリムートブレイク王国の筆頭公爵家令嬢を兄の側妃に、と推薦したのは純粋に兄の為だったのではないだろうか。

カインは果物茶をすすりながら、二人の王子の顔をみてそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る