サディスの街

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シルリィレーアの案内で行った食堂は、窓が大きくて明るい店内の可愛らしいお店だった。テーブルごとに小さな花瓶が置かれていて細やかな花が飾られており、パステルカラーのテーブルクロスがかけられている。

料理も沢山の種類が少しずつ盛られたプレートで提供され、パンはおかわり自由との事だった。

カインとシルリィレーアが別々のプレートを頼み、ジュリアンは肉の塊を焼いたものを頼んだ。


「そんなもので足りるのか?私達は育ち盛りなんだぞ?男なら肉を食わんか、カイン」

「せっかくユウムに来たのですから、色んなものを食べたいのですよ」

「カイン様、よろしかったら種類違いの物を半分こずつにしませんか?倍の種類を食べられますよ?」

「シルリィレーア様、よろしいのですか?お言葉に甘えます」

「うふふ、では、半分食べたらプレートを交換いたしましょう」

「わ、私も肉を一切れずつやるから一番美味しいおかずをそれぞれ分けるが良い!」


リムートブレイク国の料理は全体的に素材の味を大切にした料理が多かった。端的に言えば、茹でただけ、焼いただけ、切っただけ。それか、牛乳を入れて煮込んだクリーミー系。塩と胡椒は存在していたし高価でもなかったのだが、それだけだった。油と酢と塩胡椒でドレッシングを作るという発想もあの国には過去にもなかったようだった。

サイリユウム国の料理は、潰してこねて成形するというのが多いようだった。肉団子や海鮮のシンジョやマッシュポテト団子やマッシュパンプキン団子みたいなものがプレートに多く乗っていた。

ちぎった野菜を乗せたサラダのようなものや、果物を飾り切りしたものなんかも乗っていて、見た目はとてもカラフルだった。


食事が終わると、学校からあまり離れていない範囲で色々と見て回った。そこで、カインは一つのことに思い当たるのだった。


「そういえば、私は自分で買い物をするのは初めてです」

「カイン様?」


カインは、王城の近衛騎士団の訓練所と西の孤児院と家を往復するばかりの生活をしていたし、必要な物はイルヴァレーノかパレパントルに言えば次の日には部屋に用意されていた。

ディアーナ中心の生活をしていたために、自分の趣味の欲しい物というものを父や母にねだったという覚えもない。ディアーナは時々父や母と街に遊びに行くことが有ったようだが、カインはそういった事をした覚えがなかった。


「カイン。お前は箱入り息子だったのだな。王族である私よりよっぽど世間知らずなのではないか?」

「お金はお持ちですの?今日のお買い物はわたくしが立て替えてもよろしいですけれども」


ジュリアンとシルリィレーアが心配そうな顔でカインの顔を覗き込んでくる。

前世の記憶があるので、買い物そのものにはあまり心配はなかった。しかし、貨幣価値や物価については自信がなかった。カインは、買い物する時にボッタクリされても分からない自信がある。


「お金は持ってきました。でも、価値がわからないかもしれません。高すぎるとか、安すぎるとかあればおしえてください。ジュリアン様、シルリィレーア様」


今日はディアーナに出す手紙用の便箋が欲しい。できればこの国の可愛いものを贈りたいとも思っていた。

少し困った顔をして二人をみれば、ジュリアンもシルリィレーアも大きくうなずいてニコリと笑った。


「まかせておくが良い。王族ではあるが私も市井にまぎれて買い物をすることは良くあるのだ。買い物の仕方も値段の相場も教えてやろう」

「ジュリアン様の良く行くお店は、それでも高級店が多いのですわ。女の子達の間で人気のお手頃なお店ならわたくしがご案内できます。今日は色々とご一緒いたしましょう」


ふたりとも、快く今日は買い物に付き合ってくれるという。カインは感謝して二人に頭をさげた。


「では、まずは何処に行くか。カインは何か欲しい物があるのか?」

「便箋が欲しいと思っています。家族に手紙を書きたいので…。あとは、本屋でしょうか。2年生の教科書は本屋に売っていますか?」

「便箋ですね。では文具屋か雑貨屋にまいりましょう。教科書は街の古本屋にはあるかもしれませんが、新品が良ければ寮監室で買えると思いますわ」

「3年生に知り合いがいれば譲ってもらえる可能性もあるが、私は長男であるがゆえ3年生に知り合いがおらぬでなぁ」


ふたりとも、王族と公爵令嬢なのに古本屋だの上級生のお下がりだのという選択肢が普通に出てくるのが不思議だった。カインは素直にそれを聞いてみると、ふたりともなんてこと無い顔で答えたのだった。


「古い物には価値があるのだ。たとえば、3年生のお下がりの教科書には授業を受けた際の書き込みがある。古着屋の革靴はこなされて柔らかくなっておるので靴ずれしない。もちろん、古すぎれば情報も古くなるので使えない場合もある。古い靴では水虫をうつされる可能性もあるしな。だが、それを見極めてこれぞという中古を手に入れるのがセンスというものなのだ」

「数年前に、はるか古代の書物が見つかった事がございますの。そこには、伝承が途切れてしまっていた技術についての記載があったということです。もちろん、技術を磨いた職人たちの最新の技術で作られた新品はかけがえのないものですわ。でも、古くても良いものは良い、というのはまた別にある価値観なのですわ」


サイリユウムの貴族は考え方が柔らかいのかもしれないとカインは思った。二人の言葉にあまえて文具屋と雑貨屋の後に古本屋に寄ってもらうことにした。

最初に入った文具屋は質実剛健なものが多く置いてあり、便箋も白や灰の無地の物ばかりだった。無地だとしてももう少し明るい色の物が欲しかったので、そこでは何も買わずに次の雑貨屋へと向かった。

雑貨屋には花柄の便箋や小鳥やうさぎのイラストが添えられている便箋なども置いてあった。カインが小鳥とうさぎで迷っていると、ジュリアンはクマがいいと勧めてきて、シルリィレーアは花柄のものを勧めてきた。

カインはうさぎの絵がスミに書かれている便箋を購入した。


その後、古本屋に行ったが2年生の教科書はあいにく売っていなかった。

せっかく来たので店内を見て回っていたら、ウサギの耳はなぜながい?というタイトルの絵本が売っていた。ディアーナが幼い頃に大好きだった絵本がサイリユウム語で書かれているものだった。

カインはそれを購入しようと店主のところまで持っていった。会計するのに、小金貨を出したらお釣りがないと言われてしまったので、シルリィレーアに両替してもらって支払った。


「カイン、そんな小さな子向けの本を買ってどうするのだ?」

「実家に送ります。この本が大好きな子がいるんです。こちらの言葉で書かれているので、めずらしいかとおもいまして」

「ふぅん」


飛竜乗り場は学校の近くでは無いらしく、今日のお散歩代わりの買い物では行けないらしかった。

便箋と絵本を買ったカインたちは、その日はそれで寮へと戻ったのだった。

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少女騎士ニーナの絵本はありませんでした。

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