思っていても、口に出してはいけない事もある

カインはお兄ちゃんとしてディアーナが大好き。

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父であるディスマイヤが帰宅し、カインは夕飯の前に執務室へと呼ばれた。


ドアをノックし、執事に開けて貰って中へとはいれば父は執務机ではなくソファに座っていた。

向かいのソファへ座るように手で示されて、言われるままにカインは座ってまっすぐに父の顔を見つめた。


「カイン」

「あれは、サイリユウム王国の貴族学校の制服ですね。どういうことでしょうか?」


父が口を開いたのに被せてカインが質問をする。

目上の人物である父の言葉を遮るなど、貴族としてやってはいけない行為だが、それだけ怒っているという意思表示としてカインはわざとそうした。

ディスマイヤはため息をつくと右手で眉間をもみ、膝の上で手を組むと優しい目でカインを見つめた。


「カインはとても優秀だ。家庭教師たちから聞いた話ではもう学園の六年生と同じところまで勉強が進んでいるそうじゃないか。それならば国内の学校に行く意味はあまりないと考えて、留学させることに決めたんだ」


「学園は勉強だけをする場ではないはずです。同年代の貴族たちと顔を合わせ、交流し、将来のツテや縁を作っていくことが重要なのでは無いですか?」


「お前はとても優秀で、他国の言葉も堪能だ。将来の公爵家当主として隣国の貴族との縁を結んできて欲しい。ネルグランディはサイリユウムと川を挟んで隣の土地だ。将来ネルグランディの領主にもなるのだから有益な学生生活になるだろう」


「ド魔学に入学し、途中の学年で1年ほど留学すれば十分じゃないですか?これまでも交換留学制度などはそうだったはずです」


途中留学では勉強のすすみ具合のズレが……などという言い訳はさせない。

すでに六年生までの学習が済んでいるのは先ほどディスマイヤ自身が認めたことなのだから。

カインはまっすぐにディスマイヤの目を見つめる。

何の表情も乗せない顔で、静かに父が口を開くのを待つ。


「……お前とディアーナを引き離すためだ」


「なぜ、ディアーナと引き離されなければならないのか理解できません」


「理解できない?」


ディスマイヤが、ギロリとカインを睨みつけた。


「令嬢とのお茶会に毎度ディアーナを連れだっていただろう」

「あのプレお見合いみたいなお茶会ですか」


カインとディアーナが紳士淑女として振る舞うようになってしばらくたった頃から、公爵家の庭園で定期的にお茶会が開かれていた。

お茶会とはいえ、呼ばれているのは毎度たった1人の貴族令嬢だけだった。

お見合いとまでは言わないが、まずは顔を合わせて相性などをみてみようといった趣旨だったのは明らかだった。


そのお茶会に、カインは毎度ディアーナを連れて参加していたのだ。


「ディアーナを連れて行った上にディアーナばかり褒めているもんだから、せっかく呼んだお嬢さんたちがみな怒って帰ってしまったんだよ」


「私のお見合い相手選びの前準備としての顔見せだったのなら、ディアーナを連れて行くのは当然でしょう」


「当然な訳があるか。2人の仲を深めるための茶会だぞ。ディアーナは第三者だろう」


「お父様こそお忘れの様だ。私が結婚相手に望む物は『ディアーナを愛し、私がディアーナを優先しても嫉妬しない人』だと以前言ったはずです。そんな相手を探すのにディアーナ抜きで会話するなど有り得ませんよ」


「1万歩譲って、ディアーナ同伴は良いとしよう。令嬢が同席している茶会の席で、令嬢に話しかけずにディアーナとばかり話をするのはいかがな物なんだ?ダメだろう。貴族の紳士としてだめだ」


「失礼ですね。令嬢から話しかけられれば答えていました。無視していたわけではありませんよ」


「つまらなそうにだろ。令嬢の親御さんから苦情が山のように来てたんだぞ」


「ディアーナと関係のない話を振ってくるからです。ディアーナの服装やディアーナの髪飾りやディアーナの髪型を褒めてくれれば、私は喜んでその会話を楽しみましたよ」


「それはお前だ!お前がまず令嬢を褒めねばならなかったんだよ、カイン」


「隣にディアーナがいるのに?」



にこやかに首を傾げて不思議そうな顔をしてみせるカイン。

隣に座るディアーナより劣る娘を何故ディアーナより先に褒めねばならぬのか?と、カインは言っている。


「私がディアーナを褒める言葉や、ディアーナと話している会話に乗っかって来たって良かったんですよ。私がディアーナと餌台にやってくる小鳥の会話をしている時に「私も小鳥が好きなのです。どんな小鳥が来るのですか?」と入ってきても良かったし、花言葉の由来について会話している時に「好きな花があるけれど、花言葉が苛烈過ぎると人に好きな花として紹介しにくくないですか?」と入ってきても良かったのです。でも、どのご令嬢も私とディアーナの話を遮るか、一度は会話を受けるものの自分の話に持ち込もうとするか……そもそも拗ねた顔をして会話をする事を拒絶しているかでしたよ。自分が話題の中心でなければ盛り上がれない人とは深くおつきあいできませんよ」


カインの言い分を聞いていたディスマイヤは、大きくため息をつくとうなだれて自分の手で自分の肩を揉んだ。


「そう言う態度だから、お前とディアーナを一度離すことにしたんだ。結婚相手を見つけるか卒業するまで帰ってくることは許さない。これは、家長命令だ。覆らない。たったの6年だ。なんてことないだろ」


「たったの6年とは何ですか!?6年!?6年もあったらディアーナの身長だって30センチは伸びますし、ディアーナの歯が全部永久歯になってしまうじゃないですか!側にいなければ一緒に屋根の上に投げたり床の下に投げたり出来ないんですよ!?今9歳のディアーナから6年も離れていたらディアーナに初潮だって来てしまうじゃないですか!ディアーナが大人の女性になる瞬間を見逃せっていうんですか!僕には耐えられない!!可愛いディアーナの成長を一瞬だって見逃したくない!」


カインは半泣きである。


「カイン……おまえ気持ち悪い……」



カインの熱い訴えも及ばず、隣国への留学は覆らなかった。

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誤字報告いつも、ありがとうございます。助かっています。

ブックマークもうれしいです。

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