いやな予感しかしない
誤字報告ありがとうございます!助かってます!
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カイン・エルグランダークは今年12歳になる。
つまり、学園入学の歳である。
神渡りのお祭りも終わり、年のはじめのバタバタとした空気感も抜けてきた頃、カインの学生服がエルグランダーク家に届いたのだった。
「これは……どういうことだ?」
届いた箱をイルヴァレーノが部屋まで運んできたので、カインは早速箱を開けて中を改めた訳なのだが。
中に入っていたのは初めてみるデザインの制服であった。
兄のいない長男であるカインが制服を見たことがないのは当たり前であるが、そこはそこ。カインには前世の記憶があり、ここは前世でプレイしていたゲームの世界なのである。
制服に見覚えが無いのはおかしいのだ。
「ド魔学の制服じゃない?」
そんなわけはない。
アンリミテッド魔法学園はこの国の最高峰の学校で貴族がここに通わないなんてことは無いのだ。
一応他にも学校が無いわけではないが、普通科だがランクが落ちるか、専門学校的な目的別の学校となるので筆頭公爵家の長男であるカインがそっちに入学するなんてことはあり得なかった。
「知らないうちに制服のデザインが変わったとか?もしくはコレから変わるとか……?」
ゲーム本編は妹のディアーナの同級生がヒロインなので、始まるのは三年後だ。
カインの手元にある制服は旧デザインで、これから三年の間にデザイン変更があるとすれば、それはカインも知らない事である。
しかし、そんな事あるだろうか?とカインは首をひねる。
そう言えば、制服も届いたのだし入学案内などの書類も届いているのではないかと思いつき、イルヴァレーノに問いただせば「そういえばそうですね。ウェインズさんに聞いてきます」と言って部屋を出て行った。
イルヴァレーノもここまでに学校に関する話を聞いていなかったらしい。
しばらくして戻ってきたイルヴァレーノは、首を傾げながら執事の伝言をカインに伝えた。
「ウェインズさんからは言えないそうで、今夜旦那様がお戻りになられたら直接説明をお伺いするように、とのことでした」
「お父様から直接……」
いやな予感しかしなかった。
普通にアンリミテッド魔法学園に入学するだけならわざわざ
次男や三男などが騎士養成学校に入ったり爵位の低い家の令嬢が侍女や高級メイドを目指すための淑女学校に通う事はあるが、カインは長男である。
まさかカインに何の話もなく騎士学校や魔導師学校への入学を決められてしまうとも思えないが、どういうことだろうかとカインは答えのでない疑問をぐるぐると頭の中で回していた。
午後のお茶の時間に、母エリゼに質問してみるが「お父様から聞きなさい」としか言われなかった。
届いた制服をハンガーで壁にぶら下げて眺めている。詰め襟でダブルボタンになっているそれは騎士の礼服にも似たデザインで胸にはエンブレムが縫いつけられている。
ポケットをひっくり返したり、エリをめくってみたり、裏地を見てみたりしたが、内ポケット部分にカインの名前が刺繍してあるだけでヒントになるような物は何もなかった。
ただ、胸のエンブレムは明らかにド魔学の校章ではないのだ。だからといってゲーム内で見た覚えもない。
ボタンも、エンブレムのデザインを簡易化したデザインになっている。
ド魔学に入学出来なければ、三年後にディアーナと同じ学校にならない。ディアーナの先輩になれないのだ。
ここまで出会いがないままの同級生ルートや下級生ルート、先生ルートの邪魔が出来ない。
何より、ディアーナが不幸どころか命を失ってしまう可能性のある聖騎士ルートに付いていくことが出来ない。
せっかく、剣術訓練でゲラントとクリス兄弟と親交を深めたので、魔の森に行くのについて行くと言っても不審がられない状況だと言うのにだ。
壁にぶら下げた制服を眺めていたら、部屋の戸がノックされた。
イルヴァレーノがドアの前まで行って誰何を行い、カインの許可を取ってドアを開けた。
「ご機嫌よう、お兄様。音楽の授業ぶりにお会いできてうれしゅうございます」
「ようこそ、我が私室へおいでくださいました。歓迎いたします、ディアーナ嬢」
ディアーナは淑女礼をし、カインも紳士の礼で答える。
もう、ドアをノックすると同時に勢い良く開けて入ってくるお転婆娘は居ないのだ。
ディアーナはカインの隣まで歩いてくると、一緒になって壁に掛かっている制服を眺めた。
後ろで手を組んで肩をゆらゆら揺らしながら、制服を右から左から下から眺めていた。
「お兄様は、コレを着て来月から学校に行くのですね」
「たぶん、僕の行きたい学校の制服じゃないんだよね。これ」
ディアーナの肩の揺れが段々と大きくなってきて、カインの二の腕に肩が当たっている。
カインはびくともしない。
「どういうことですの?コレは、アンリミテッド魔法学園の制服では無いのですか?」
「違うと思うんだよね……。胸のエンブレムが違う気がするんだ」
「学生のお友達がいないので、見たことありませんから判断できませんわ」
さすがにカインも「前世の記憶と違う」とは言えない。気がする…で誤魔化すしかない。
ディアーナはさらに体の揺れを大きくして、というかもう揺れてるとかではなく、肩でカインに体当たりをしていた。体当たりをして跳ね返されては、またひざを曲げて肩で体当たりをする。と言うことを繰り返していた。
カインはびくともしない。
「図書室に、王都内の学校目録などはありませんかしら?」ドンっ
「ああ、そうか。校章の一覧などあれば、胸のエンブレムと比べればどの学校の制服かわかるかもしれないね」ドンっ
「制服を持って図書室に行きますか?」ドンっ
「いや、エンブレムを紙に描き写していこう」ドンっ
会話する度にディアーナが肩で体当たりしてくる。
黙って体当たりされていたカインだが、途中からタイミングを合わせてカインも小さくディアーナ側に身体を傾けて体当たりを受けて立っていた。
「紙とペンをとってきます」
兄妹の戯れをいつものことと無視していたイルヴァレーノが、勉強机へ向かって道具を取りに行き、戻ろうと振り向いたらカインとディアーナが紳士と淑女とは思えない格好をしていた。
おじぎをした様に腰から上を折り曲げたカインの背中に、背中合わせでディアーナが乗っかっているのだ。お互いの腕を組んでディアーナが落ちないように支えている。
ディアーナのスカートがめくれてペチコートまで見えてしまっている。
「ディアーナ様!」
「おっと。お兄様、交代交代」
はしたないので声をかけて注意をするが、イルヴァレーノは慣れっこなのでディアーナのペチコートくらいでは赤面もしない。
カインが姿勢を戻してディアーナが足を床に着けると、今度はディアーナがお辞儀をするように腰を曲げて、今度はその背にカインを乗せた。
「お兄様重くなりましたね!」
「成長期だからね!」
カインはそのまま足をあげて、ディアーナが前屈するように頭を下げるとくるりとカインの体が逆側の床に移動して足が付いた。
二人とも体が柔らかい。
「何やってるんですか……」
「背伸びの運動」
組んでいた腕をはなすと、カインとディアーナは姿勢を戻してニカッと笑った。
相変わらず似た兄妹だとイルヴァレーノはため息をついた。
カインがイルヴァレーノから受け取った紙とペンで制服のエンブレムを簡単に書き写している間に、イルヴァレーノはブラシで髪を整えていく。
ディアーナとカインの髪を整えてブラシを片付けたイルヴァレーノが戻ってきたところで、じゃあ図書室に行こうかとカインとディアーナは腕を組んだ。
紳士が淑女をエスコートする姿である。
部屋を一歩出た所から、カインとディアーナは穏やかな微笑みを顔に貼り付けて歩き出した。
その後ろを、イルヴァレーノが侍従としてついて行くのである。
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ド魔学の制服はブレザーです。
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