みんなで食べるご飯はおいしい

誤字報告ありがとうございます。

いつも助かってます。頼りにしてます。

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国王陛下と王妃殿下との謁見を終えると、王宮からまた剣術訓練に来るようにと通達が来たのでカインの謹慎は終了となった。


午前中の王城での剣術訓練と、午後から家での家庭教師による授業が再開された。

カインの謹慎中、アルンディラーノ1人では大人に交じって訓練するのにも限界があるということで、副団長の息子であるゲラント・ヴェルファディアとクリス・ヴェルファディアが剣術訓練に参加するようになっていた。


「はじめまして。ファビアン・ヴェルファディアの長男のゲラント・ヴェルファディアです」

「はじめまして。弟のクリス・ヴェルファディアです」


2人とも、副団長と同じ藍色の髪を短く刈り上げていて、6歳と4歳なのに精悍な顔つきと言って良い凛々しい顔をしていた。


「初めまして。カイン・エルグランダークです。よろしくお願いします」

(コイツが聖騎士ルートの攻略対象者か…)


カインは顔はにこやかに挨拶を返しながらも、弟の方を横目で観察していた。

確かに、ゲームに出てきた12歳~18歳の立ち絵のクリスと似ている。藍色の髪に水色の瞳。少したれ目の甘めの顔。

今は幼いので、ただの甘えん坊風に見える。


年の差や体格差から、自然と組み合わせはカインとゲラント、アルンディラーノとクリスとなった。

ゲラントとは体格が近いので訓練しやすかった。大人相手だと打ち込んで行ったところで腰や腹にしか当てられないし、アルンディラーノ相手だと胴を払うつもりで頭に当たってしまうのだ。


アルンディラーノも、今まで誰とやっても手加減されていたのを感じていた様だが、クリスが相手だとお互いに遠慮なくやり合ってる様だった。


「僕らの祖母が、アルンディラーノ様の子守役だったんですよ。それで、僕らも小さい頃から一緒に遊んだりしていたので仲がよいのです」


カインがアルンディラーノとクリスの組み手を見ていたら、ゲラントがそう解説してきた。


「乳兄弟?」

「まぁ、近いでしょうか…母が乳母だったわけではありませんので、正確には乳兄弟では無いのですけどね」


ゲラントは、6歳にしては落ち着いた話し方をする。奉公にでる前のセレノスタが「最強の石だ!」と石マウントしてガハガハ笑ってたのに比べると随分としっかりしている。


「アル殿下に同じ年頃の友人がいて良かったです」


カインがそう言うと「カイン様だってそうでしょう」といってゲラントは笑った。


その日の訓練が終わり、ファビアンと共に去ろうとしている2人を捕まえるとカインは昼食に誘った。

カインがアルンディラーノに「良いですよね?」と聞くとアルンディラーノも嬉しそうに「いいよ!」と答えた。


昼食の場では、ゲラントも年相応の表情を見せた。

嫌いな食べものをクリスの皿に放り込んだり、クリスの苦手な食べ物を皿から取り上げたりしていた。

どうも兄弟で好き嫌いが被らないようで、皿間の野菜の交換がスムーズになされていた。


「ゲラント、クリス。好き嫌いしてはいけないんだぞ」


アルンディラーノが偉そうに胸を張ってそう指摘すると、ヴェルファディア兄弟はばつの悪そうな顔をした。しかし、クリスがキッと顔を強くしかめると反撃してきた。


「アルンディラーノ様だって、トマト食べられないくせに!」


さすが幼なじみ。好き嫌いを把握しているようだが、それはもうアルンディラーノには効かない攻撃なのだ。カインはちらりとアルンディラーノの顔を伺うと、思った通りに勝ち誇ったような顔をしていた。


「ふふーんだ!僕はもうトマト食べられるんだもんね!」


そう言ってフォークで野菜が盛られている皿のトマトを刺すと、口の中に放り込んだ。

直後にギュッと目をつぶり、眉を寄せた渋い顔をしながら3回だけ噛むとゴクリと飲み込んだ。

その後にゴクゴクとカップから水を勢いよく飲んでいる。


「ほらね!」


胸を張ってドヤ顔しているが、明らかに克服はしていない。


「食べられるっていうか…」

「好き嫌いは治ってないじゃん…」

「困難に立ち向かってそれを乗り越える事が出来る。アル殿下は偉いですね」


嫌いな食べ物を好きになるのは困難である。食べなくて済むなら食べたくない。当たり前だ。


「好き嫌いは治る物でも無いしね。嫌いだけど、食べる。それが偉いんだよ」


カインは兄弟にそう言うと、隣に座っているアルンディラーノの頭を撫でた。無意識だった。

アルンディラーノは褒められて、頭を撫でられている事を誇るようにさらにドヤ顔していたが、兄弟の方を見ていたカインは気が付かなかった。


「嫌いなものの交換を、半分だけにする所からはじめてみない?」


カインの提案に兄弟は顔を見合わせた。「無理にとは言わないけど」と付け加えたが、兄弟はその後お互いの皿から半分ずつ嫌いなものを元に戻した。

ゲラントは普通に口に入れてから苦そうな顔をして、クリスは鼻をつまんでギュッと目をつむった状態で口に入れて、飲み込んだ後にグエーと呻いていた。


その様子にカインは顔を綻ばせる。

素直な良い子たちだ。聖騎士ルートについては、魔の森に魔物退治に行くときに一緒にいって気をつけるか、先回りして魔王をどうにかしてしまう作戦で良さそうだ、とカインは考えた。


「アル殿下。次は、嫌いなものを食べていても平気なフリができるようになりましょう」


さらっとカインはアルンディラーノに課題を課す。

嫌いなものを好きになるのは難しいが、嫌いな物を平気なフリをするのは貴族にとっては重要な事だった。

そんな機会があるかは解らないが、アルンディラーノが王族としてトマト農家へ視察に行ったときに嫌そうな顔でトマトを食べたら拙いだろう。


「カインには嫌いなものはないの?」


隣からアルンディラーノがカインに問いかける。

嫌いなものを平気な顔をして食べるなんて信じられないのかもしれない。


「ありますよ。今日の昼食にも出てます。ちゃんと、平気な顔をして食べてるでしょう?」


ニコリと笑いで返してやりながら、玉ねぎのスライスを口に入れて食べてみせる。アルンディラーノとゲラントとクリスは、カインの食事をジッと見ながらカインの嫌いなもの当てに夢中になっていった。


「キャベツでしょ!?少しまじめな顔になった気がする!」

「そうかなぁ。ルクルクじゃない?ルクルクとトマトと一緒に食べたよ」

「じゃあ、トマトかも!トマト苦手だからルクルクと一緒に食べたんでしょ!」


カインはわざと澄まし顔で食べたり、にんまり笑いながら食べたりして子どもたち3人を惑わせた。

いつもより賑やかなその昼食は、次の日からも訓練後の習慣として定着したのだった。





ちなみに、その日の昼食にニンジンは出ていなかった。

カインは簡単に弱点を晒す気は毛先ほども無かったのだ。

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