秘密基地は男の浪漫だ

気がついたら、広い背に背負われていた。

目線の先には房飾りの付いた肩が揺れているのが見える。見覚えのあるソレは近衛騎士団の制服だった。

身を起こして前を見れば、短く刈り上げた藍色の髪があった。


「気が付いたか」


「副団長…」


カインは、近衛騎士団副団長のファビアンに背負われていた。


「アル殿下とイルヴァレーノは?」


「ここにいます」

「いるよ」


足元から返事があった。目をやればファビアンの隣を2人が歩いている。

はぐれないようにか、イルヴァレーノとアルンディラーノは手をつないで歩いていた。

カインは気が付いたのでおろしてもらい、代わりにアルンディラーノがファビアンの背に背負われた。


ファビアンによれば、アルンディラーノが城を抜け出した事にはすぐに気が付いたそうだ。


「カインと合流した時には、また王太子殿下誘拐事件かと思ったんだがな」


とニヤリと笑って見せた。

馬車の上でのカインの取り乱しぶりに、アルンディラーノが勝手について行ったのだという事はすぐに解ったと言う。

循環馬車はさほど速度を出さずに走るので、徒歩であとを追っていたという。しかし、降りた後の細い路地で3人を見失ってしまっていた。


「本当にさらわれたか事故にでも遭ったかと焦ったぞ」


その後、王都の外れにある森の中で爆発音が聞こえたので駆けつけたのだと言う。

到着してみれば、クレーター状に凹んだ広場とその近くで気を失ったカインを引きずるイルヴァレーノとアルンディラーノが見つかった。

街の路地で見失った少年達がなぜこんな所にいるのか、ファビアンは不審に思っている。


「なんであんな所にいたんだ。何をしていた?」


「あそこには、僕とイルヴァレーノが見つけた廃墟がありました。街中の路地裏にある廃屋から隠し通路で繋がっていて、格好良いので僕らの秘密基地にしようと思ってたんです」


「秘密基地だと?いや待て、隠し通路と言ったか?」


「はい。孤児院慰問の時に街を歩いていて偶然見つけたんです。危ないかもしれないとは思いましたけど、隠し通路なんてワクワクするじゃないですか。ちょっとだけって思って潜ってしまったんですよね。そしたら、通路の先にボロボロになった廃墟があったんです」


「それで、秘密基地か?」


「はい。秘密基地。副団長は作りませんでしたか?秘密基地」


カインは過去に何度か孤児院に遊びに行っている。先日アルンディラーノを連れてきた時にはファビアンも一緒だったのでそこを疑う事はないだろうし、調べられても問題はない。

孤児院の子達が街に施しを貰いに行くのについて行ったこともあるので、孤児院の子ども達と街を歩いたと言うのも嘘ではない。

通路を見つけたのではなく、イルヴァレーノが知っていたというだけのこと。


「秘密基地にしようとしたのは良い。いや、良くないな。廃墟だったのならいつ崩れるかわからないのだから、そういったところで遊んではいけない」


「どんな所なら良いんですか」


「木の上に板を渡して昼寝場にするとか、ススキや葦の原に陣地を置いて頭を縛り屋根にするとか…かな」


「なるほど、副団長の秘密基地はそこにあったのですね」


「たとえ話だ。そこに作っていたなんて言ってないだろう。…で、その秘密基地で何があったんだ。あの爆発は何だったんだ」


「あの廃墟に、魔法道具か呪具のような見たことのない不思議な道具があったんです。興味本位で触れたら稼働してしまい、爆発してしまいました。とっさに防御魔法を僕とアルンディラーノ王子殿下で展開して事なきを得ました。…まぁ、魔力切れを起こして倒れてしまいましたが」


カインが、恥じるように眉尻を下げて頭をポリポリと掻く。

話しながら歩いているうちに、森の端まで来ていた。木々の向こうの街道に馬車が見える。ファビアンが手配していたようだ。


「アルンディラーノ王子殿下を巻き込んだんだ。後ほど詳しい話を聞く事になる。が、カインも倒れていたんだからな。今日のところは帰ってゆっくり休め。馬車で送ろう」


「ありがとうございます。正直な話、行きの馬車でアル殿下の分の馬車賃を払ったので帰りのお金が一人分足りなかったんですよ。助かります」


「公爵家の令息なのにか?」


ファビアンが器用に眉を片方だけ上げて皮肉げな顔をしてみせた。

それにカインが眉毛を下げて大げさに肩をすくめてみせる。


「欲しいものはねだれば与えられます。でも、それゆえに僕はお金を持っていないのです。持っているお金の額だけで言えばイルヴァレーノの方がお金を持っていますよ」


祭りなどの時に小遣いを貰うことがあるが、カインはそれをすべてディアーナの為に使っているので手元にはほとんど残っていない。

今回の馬車賃もイルヴァレーノから借りているのだ。


後数歩で馬車というところで、ファビアンが足を止めた。

振り向き、カインの顔をじっとみる。


「あそこは、廃墟だったんだな?他には誰も居なかったんだな?」


真剣な目で問いかけるファビアンに対し、カインはニコリと笑った。


「秘密基地なんですから、僕ら以外に人なんか居ませんでしたよ。

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