パスタの茹で具合はアルデンテ

いつもありがとうございます。

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次の日、カインはいつも通りに朝から父と一緒に馬車に乗り、午前中は騎士団訓練場で剣術の訓練をこなした。

アルンディラーノと道具を使わずに一度に沢山の人数で遊べる遊びについて話しながら昼食を食べ、帰宅するために王城を出た。

いつもなら、アルノルディアかセレスィニアが迎えにくるのだが、今日はイルヴァレーノが待っていた。

カインが夕方まで城に残って父と一緒に帰ると伝えていたためだ。アルンディラーノに城の図書館を見せて貰う事になっていると嘘をついた。

王太子殿下と順調に仲良くなっている(様に見える)カインに、両親は疑いもせずに承諾したのだった。


「循環馬車に乗りましょう。まもなく、北区方面行きが巡ってくる時間です」

「わかった。行こう」


2人連れ立って大通りに向かって歩いていく。

今日の午前中のディアーナの様子をイルヴァレーノから聞きつつ、カインはやってきた馬車に乗り込む。

循環馬車は王都内を決まったルートでグルグル回る馬車で、王都内均一料金となっている。乗車賃は降りるときに払う。

ロングシートのベンチを背中合わせに並べた様な形で、乗客は並んで馬車の外側を向いて座る形だ。乗り降りに時間を掛けない為の合理的な形だった。

イルヴァレーノとカインで並んで座ると、他に数人の乗客を乗せて馬車は動き出した。馬車がいくつかの曲がり角を曲がり、王都の真ん中をまっすぐ抜ける一番の大通りを走り始めた頃に、イルヴァレーノが口を開いた。


「ところでカイン様。城から尾行されていた事には気が付いていましたか?」

「へ?」


カインは目を丸くしてイルヴァレーノの顔を凝視する。

イルヴァレーノは表情を変える事なく、カインを挟んで反対側に座る乗客を視線で示す。


「隣に座っています」

「へ?」


カインがグリンと首を回すと、頭からすっぽりとフード付きのマントを被った小さな子供が座っていた。


「あんまりにも気配も足音も気を付けてない尾行だったので、わかってて放置しているのかと思っていたんですが…」

「イルヴァレーノが居るのに気を張るわけないじゃん…」


そういいながらカインが隣の子どものフードをめくると、そこにはいたずらがバレて気まずいというアルンディラーノの顔があった。


「ア、アルでっ……アルデンテ!」

「パスタの茹で具合ですか」

「えへへへへ」


アル殿下と言いそうになって、ごまかすカイン。殿下なんて言ったらどうなるかわからない。突っ込むイルヴァレーノ。ごまかし笑いをするアルンディラーノ。


「言えよ!気づいてたんなら言えよ!もうこんなところまで来て1人で追い返せないじゃないか」

「戻っても良いんですよ。僕はカイン様だって連れて行きたくないんです」

「助けてー!って言ったくせに何を言っているんだ」

「助けてー!なんて言ってません。ただ、話を聞いてほしかっただけで」

「ふふふふっ。仲良しだね!」


眉間を右手の親指と人差し指で揉むカイン。目をつむってムーンとうなっている。一応、フードをかぶり直したアルンディラーノは二人にだけ聞こえる程度の小声で話しかけて来た。


「どこかに遊びに行くんでしょう?今日の午後はお勉強の予定がないから抜けてきちゃった。一緒につれていってよ」

「どうやって抜けて来たんですか?」

「カインに教えてもらった抜け道だよ?」

「ア”ー!」


カインはついに頭を抱えて額を膝に付けてしまった。

完全に自業自得である。先日使った抜け道は結局使う必要がなかったことが分かり、そして使ってしまったことでアルンディラーノが城を抜け出してしまった。

こんなことを大人の誰かに知られたら、ゲンコツでは済まされないだろう。

大きくため息をついて、髪の毛をガッシャガッシャとかき混ぜたカインはヨシッと気合を入れて背筋を伸ばした。


「正体がバレちゃまずいんで、これからは『アル』って呼びます。タメ口をききます。不敬とかいわないでくださいね」

「うん。カインと、イルヴァレーノはそのままでいいの?」

「カイとイルと呼んでください」

「分かったよ!カイ!イル!」


イルヴァレーノは、カインに助けてもらいたかった。自分が助けられたように、弟分のセレノスタが闇の組織に引き込まれるのを助けて欲しかった。

でも、カインにケガやつらい目にあって欲しくなかった。万が一、何か良い方法があればいいなと思って話してみただけなのだ。

まさか、乗り込むと言い出すとは思わなかった。アルンディラーノを巻き込むことで、やっぱり戻ろうということになるんではないかと思って引き返せなくなるまで黙っていた。


カインは、やめなかった。

カインは王太子が嫌いなので、これを機に始末する気かもしれないとイルヴァレーノは思った。そうであれば、イルヴァレーノの作戦は失敗だったということだ。


馬車は王都の北区に入り、3人は目的地で降りた。アルンディラーノは馬車代を持っていなかったのでカインが立て替えた。アルンディラーノは、コインを払って馬車に乗るということに驚いていた。


細い道を何度か曲がり、放棄された朽ちた物置小屋の中の空き樽に飛び込むと地下通路につながっていて、そこをグネグネと歩いて行った所に組織の根城があった。

カーブや曲がり角が何度もあり、地下通路で光もなかったのでここがどの辺にあるのか分からなかった。


組織の見張りが一人多いことをいぶかしんだが、孤児院の小さい子が付いてきてしまって追い返すと泣くのでこっそり出てくるために連れてこざるを得なかったと説明したら通してくれた。ガバガバである。大丈夫なのかこの闇の組織は。


「組織の隠れ家は他にもあるのか?」

「僕が知っているのはここだけ。上位組織があるみたいな話をしているのを聞いたことはあるけど、そこから来たという人も行ったという人も見たことは無いね」

「じゃあ、ここをつぶしておけばお前の顔を知っているやつはいなくなるってことだな?」


イルヴァレーノが静かに頷く。

カインは、少し考えるような仕草をしてからイルヴァレーノの顔を覗き込んだ。


「この組織で、世話になった人とか親切にしてくれた人なんかは居るか?」


カインの質問にイルヴァレーノは間を開けずに首を横に振った。悩むそぶりもない。

そうかとカインも頷くと、今度はアルンディラーノの方を向いた。


「アル。何か使える魔法はあるか?」

「風魔法を習ってるところだよ。風の刃と、守りの風ができるよ!」


胸を張るアルンディラーノのふわふわの髪の毛を撫でながら、えらいなとカインが褒めた。


「上出来だ。後で魔法を頼むから心の準備をしておいて」

「うん!」


「イルヴァレーノ。この後、顔見せなんだろ?組織の人間が集まってそうな部屋はどこだ?」

「ちょうどこの真上だよ。二つ先の部屋の階段から上がって行くことになる。そろそろ行かないと、遅刻で罰を受ける」

「そりゃちょうどいいや」


カインは、一つ先の部屋まで歩いていくとイルヴァレーノとアルンディラーノを抱え込んだ。


「イルヴァレーノはアルを腕の中に抱えこめ。なるべく俺たちがコンパクトになる様にギュッとな」


アルンディラーノを抱え込んだイルヴァレーノをカインが肩を抱くようにくっついてくる。

ドア越しに先ほど居た部屋…組織の人間が集まっている部屋の真下の部屋に向けて右手を伸ばした。


「極滅の業火」


カインが魔法を唱えると、右手の先から圧縮された熱の塊が飛び出し隣の部屋で広がった。部屋の中は一気に炎に包まれ、その高熱で石でできた壁や床が溶け始めた。

真上の部屋から、床が熱を持つという異常に気が付いた怒声が聞こえて来た。


「アル。俺が次の魔法を放ったらすかさず守りの風を使って俺たちを守ってくれ。なるべく小さく厚くだ。できるね?」

「やる。できる」

「上出来。良い子だね」


カインはふわふわのアルンディラーノの頭を撫でると、もう一度隣の燃える部屋に向かって右手を伸ばす。


「氾濫の激流」


カインの右手の先から水が流れ出し、隣の部屋へと飛び込んでいく。着地を見る前に右手を引っ込め、さらに呪文を唱える。


「堅牢なる風壁」

「守りの風!」


アルンディラーノの小さな風の壁と、その壁ごと覆うように厚い風の壁が現れる。

放たれた水流が灼熱に溶けている石床や壁に着地した時、ドっという大きな音とも振動ともわからない衝撃が3人を襲ったのだった。


風の壁が熱も爆風も大多数は防いでくれたが、防ぎきれなかった熱やビリビリとした振動が三人の肌に伝わって来た。

カインはアルンディラーノを抱えるイルヴァレーノの上からかぶさり、衝撃が去るのをじっと待った。




気が付けば、子ども3人の足元の床が丸く残されてその周りは土がむき出しになっていた。石壁のがれきや瓦のかけらなどが遠くに散らばっているのが見える。


「イルヴァレーノ。…ごめん。ちょっと寝…るか…ら、アル殿下を頼む…」


カインは、最大レベルの魔法を3連続で使って魔力切れを起こしてその場で意識を失ってしまった。

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ようやく、転生知識チート技が出てきました。

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