結論を出すだけが議論ではない
誤字報告ありがとうございます。気を付けていても見逃してしまうところがあり、大変助かっています。
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帰りの馬車の中で、カインは以前ディアーナにしたのと同じ説明をアルンディラーノにした。
「貴族や王族は庶民の税金で生活している。その代わりに、貴族や王族は庶民の生活を守らなくてはならない。親が居ないというだけで食べる物にも着る服にも不自由する子どもが居るのは、貴族と王族の力が足りていないせいに他ならない」
「カイン。それは言い過ぎだ。孤児院があり、屋根のあるところで生活し飢えていないのは王の威光が届いているおかげだ」
ディアーナより難しい言い方で直接的に説明したが、反応して反論してきたのはファビアンの方だった。
雨風をしのげて飢えることが無い生活をしているのだから貴族の義務は果たされていると、ファビアンは言う。アルンディラーノを
「
カインは強く反論はせず、認識の相違だとして議論するのを避けた。
「アルンディラーノ王子殿下。今日は楽しかったですか?」
にこりと笑いかけながら、カインはアルンディラーノに問いかけた。沢山体を動かして、頬が赤くなっているアルンディラーノもにこにこしながら頷いた。
「楽しかった。椅子取りゲームで勝てなくて悔しかったから、もっと体を鍛えて勝てるようになりたい!強い石が欲しい!」
「それは良かった。今度、エルグランダーク家に遊びに来た時にはディアーナも入れて4人で椅子取りゲームしましょうか。練習をして強くなって再挑戦しましょう」
「うん!」
椅子取りゲームで、アルンディラーノは何度か椅子に座れそうだったのに体の大きな子に弾き飛ばされて座れなかった回があった。4歳と6歳の年の差があるので仕方がないことだったが、アルンディラーノは悔しかったようだ。
「再来週、王妃殿下と行くのは別の孤児院ですが、今日遊んだ彼らと同じように仲良く遊んであげてください。是非アル殿下が椅子取りゲームやハンカチ落としなどの遊びを教えてあげてください。きっと喜びますよ」
「僕が教えるの?」
「あれらは、庶民の子が良くする遊びではないのか?」
「石はじきはもともと彼らがやっていた遊びですが、椅子取りゲームとハンカチ落とし、かごめかごめは僕が教えた遊びですから、他の孤児院の子は知らないと思いますよ。大勢でいっぺんに遊べるので仲良くなるのに便利ですよ」
ファビアンとアルンディラーノの質問に、カインが答える。アルンディラーノは尊敬するような顔をして、ファビアンは胡散臭そうな顔をした。
カインとイルヴァレーノを家まで送ってから、ファビアンとアルンディラーノは王宮へ帰って行った。
アルンディラーノは、孤児院の子どもたちの生活や運営について慰問までに勉強しておくんだとやる気になっていた。
帰宅したのは、お茶の時間が終わった頃合いだった。
ディアーナとイルヴァレーノとカインで魔法の授業を受けた後、日課のランニングをするカインとイルヴァレーノ。
「セレノスタは、手先が器用です。奉公先の鍛冶屋でも雑用の傍ら、柄や鞘の彫刻や房飾りや根付なんかの細工物を教わっていたようです」
「今日も刺繍していたな」
「鍛冶屋に、鍵をなくして開かない先々代が使っていた道具箱というのがあったらしいんですが、それをセレノスタが開けて見せたんですよ」
「すごいな」
「なぜか、鍛冶屋に『鍵を無くして開かなくなった金庫や道具箱』が持ち込まれることが数回あって、セレノスタはその全部を開けてしまったんですよ」
「あ、もうなんか嫌な予感しかしないんだけど」
「セレノスタは、馬車に足を轢かれて真っ当に歩けなくなりました。雑用をこなせなくなったので孤児院に戻されました」
「……」
「セレノスタに、新しい奉公先からスカウトが来ました。…僕が、連れていくことになっています」
イルヴァレーノは、
イルヴァレーノは、カインに助けを求めている。イルヴァレーノ自身がカインに救われたからだ。
エルグランダーク家の使用人として雇われてからも、引き続き裏の仕事の為に休みを貰って出かけていることはあったが、その頻度は孤児院に居たときよりも格段に減っていた。
それは筆頭公爵家に入り込んだ事で情報源としての価値の方が高くなったからで、頻繁に抜けだせば怪しまれるために仕事をあまり振られなくなったというだけの事だった。
「僕の権限でもう一人雇って欲しいというのは難しい。イルヴァレーノの時は運も良かったんだ。お母さまに気に入られたというのがでかい。お前は最初から礼儀作法がある程度できていたのもある」
イルヴァレーノは見た目も良い。攻略対象だから当たり前だが、綺麗な顔をしているのだ。それはディスマイヤにとってもエリゼにとっても印象が良く、身近に置く許可を得るのに有利だった。
しかし、セレノスタは普通の子どもといった容姿でガキ大将といった感じの性格だった。手先が器用な割には性格は大雑把で声がでかかった。
あまり、貴族の大人に好かれるタイプの子どもではなかった。
「そうか…」
気落ちした声でイルヴァレーノが返事をした。
正門の前を通り抜けるので、会話は一度中断して騎士たちに手を振りながら走りぬける。
「俺、イルヴァレーノをいつまでも他人に使われているのは気にくわないと思っていたんだよね」
「は?」
「イルヴァレーノのせっかくの休みを、
「何をいっているんだ」
「続けても良いとは言ったけど、やっぱり気にくわないな。……そろそろ、返してもらう事にしようか」
ランニングしながら、隣で走るイルヴァレーノの顔をみてにやりと笑う。
「イルヴァレーノ、俺をセレノスタだと言って連れていけ」
「はああ?」
「よし、じゃあラストラン!ダッシュ!!」
カインは、イルヴァレーノを置いて全力疾走で最後の一周を走り抜けた。
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