ゴロゴロアルンディラーノ
アルンディラーノがころがります
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馬車で移動すること30分程で、孤児院併設の神殿へとたどり着いた。馬車を降りるとカインはみんなを引き連れて裏へと回った。
神殿の裏には孤児院がある。
カインは、孤児院の中庭に通じる木戸の前に立つが戸を開けずに振り向いた。
「アル殿下。服を脱いでください」
「なんで?」
「どうせ、ステテコとランニング着てるんでしょう?そのお坊ちゃんお坊ちゃんしたフリフリのシャツとズボンを脱いでください」
「ステ?なに?」
ズボンの下に穿く薄手の半ズボンの名前を、カインは知らなかったので前世の知識で一致するステテコの名前を出したが、通じなかったようだ。
カインは自分の服を脱いでひざ下の長さの薄いパンツと下着として着ているTシャツの様なシャツだけになると、脱いだ服をくるくると丸めてイルヴァレーノが背負っていたナップザックに突っ込んだ。
ちなみに、このナップサックはカインが作ったものだ。小学生の時に家庭科で作ったのを思い出しながらチクチクと手縫いで作成した。公爵家にある鞄という鞄は、みな豪華で重くてかさばるものばかりだったので、使い勝手が悪かったのだ。
カインが率先して脱ぐので、アルンディラーノもおずおずと服を脱いでいく。ファビアンは目を剥いて怒ったような顔をしているが、グッとこぶしを握って黙っている。一応、顛末を見届けようという気があるようだった。
アルンディラーノが服を脱ぎ終わると、カインはその服もくるくると丸めるとイルヴァレーノのナップサックに突っ込んでしまう。
「殿下、失礼」
そう言ってアルンディラーノの手首をつかむと、足払いを仕掛けて転ばせる。手首をつかんでいるので、そのまま倒れてしまうことは無かったが、つかんでいる手首もゆっくり降ろしていったのでアルンディラーノは地面に横向きに倒れてしまった。
地面に転がっているアルンディラーノをカインはごろごろと転がしていく。
「カ、カイン!?何?何? 目が回るよー」
アルンディラーノを転がすのをやめたと思ったら、その横に自分も寝転がって逆方向に転がっていくカイン。
2人の服はあっという間に土埃だらけになってしまった。
一部始終を見ていたファビアンは、怒るのも忘れて唖然としてしまっている。
そんな副団長の様子をちらりとみて、カインは口を出される前にさっさと中に入ることにした。アルンディラーノの手を握って立たせると、そのまま手を引いて木戸の中に入って行った。
「こんにちはー!みんな元気だったー!」
「カイン様だ!」
「カイン様~!遊びに来たの~」
「遊ぼ~!今日は外で遊ぶの!?」
「イル兄ちゃんだ~!後ろの人だれ~?」
挨拶をしながらカインが孤児院の庭に入っていくと、孤児たちはいっせいに返事をしながら集まってくる。イルヴァレーノとアルンディラーノも居るのを見て、好奇心にみちた顔をしている。
「みんな、こちらの男の子はアル様だ。俺より偉い人だから、ちゃんと『アル様』って呼ぶんだぞ」
「はぁい。 アル様!こんにちは!」
「アル様!初めまして!」
アルンディラーノは、近寄ってくる子たちをみて一歩後ろに下がった。人見知りもせず近寄ってくる事に驚いているのと、孤児たちのみすぼらしい恰好に嫌悪感を持ったからだった。
孤児たちの髪の毛は皮脂で油っこくべたべたしてぺったんこになっていて、服はほつれなどを補修されていて継ぎはぎになっているし、いつ洗濯したかわからない程度に汚れていた。
さらに孤児たちが興味津々で近寄ってくるが、カインが手をつないでいるのでそれ以上アルンディラーノは後ろに下がれなかった。
つないだ手をグッと引き寄せて、カインはアルンディラーノの耳元でささやいた。
「良かっただろ?入る前に汚しておいたから浮いてないぞ。仲間外れにされずに一緒に遊べるぞ」
カインの言葉に、ハッとして自分の体を見たアルンディラーノ。土埃で汚れた薄い7分ズボンと薄い頭からかぶるだけのシャツという心もとない服を着ているだけの姿。
そして、周りを見ると生地はもう少し厚手ではあるものの似たような恰好をしている子供たちだ。
自分は、服を脱いで下着になっている状態だが周りの子供たちはコレが外にでて遊ぶ洋服なのだということに気が付いた。
少し青い顔をしているアルンディラーノに気が付いているが、あえて無視したカインはそのまま繋いだ手を引っ張って庭の真ん中まで歩いていく。
今日は何をして遊ぼうかと孤児たちとタメ口で話している。アルンディラーノが聞いたこともない遊びばかりが挙げられていて、どんな遊びなんだろうという事が気になりだしたら、もう孤児たちが不潔そうである事はあまり気にならなくなっていた。
石はじきやかごめかごめ、手つなぎ鬼やハンカチ落としなどの体は使うけど道具は使わない遊びを一緒に遊んで一人一人の名前を憶えていくと、アルンディラーノは孤児たちの不潔さも全く気にならなくなっていった。体を動かして汗をかいてくると自分もすっかり汗臭くなっていたからというのもある。
体を動かす遊びを一通り遊んだあと、休憩しようということになって孤児院の食堂へと移動する。そこでただの水を出されてまた目を丸くするアルンディラーノだが、周りの子どもたちが美味しそうに水を飲む様子をみておずおずとカップに口を付けた。
体を動かして汗をかいた後の水は、とても美味しかった。孤児たちと打ち解けて、石はじきの強い石について熱く語っているアルンディラーノを見て、カインはホッとした。
連れてきても、なじめず嫌悪感を払拭できない可能性も考えていたのだ。
食堂の様子をぐるりと見渡したカインは、端の方で刺繍をしているセレノスタが居るのに気が付いた。
「イルヴァレーノ。セレノスタは隣町の鍛冶屋に奉公に出たんじゃなかったか?」
セレノスタは少し前に7歳になったので孤児院から出て奉公に出ていたはずだった。ディアーナに渡してくれと、殿堂入りした「最強に強い石」を預かったのは記憶に新しかった。いつか勇者の剣を打つんだと張り切って出ていったとイルヴァレーノから聞いていた。
しかも、体を動かすのが好きで雨でも降らない限りは室内遊びをしなかったようなセレノスタが、刺繍をしているのだ。一体何があったのかとカインはいぶかしむ。
「セレノスタは、奉公先で足をダメにしてしまったんで返されたんだ。怪我をしてしばらくは手先が器用だからと細工物をやっていたらしいんだが…」
「足を…」
説明するイルヴァレーノの顔は鉛を飲み込んだような苦い顔をしている。体を動かすのが好きだったセレノスタが仕事が続けられないような怪我を足にしたという、その事実にカインも渋い顔をした。
イルヴァレーノは、スっとカインのすぐ隣に立つと顔を近づけた。
「邸に帰ったら話がある。夕飯の後でいいから少し時間が欲しい」
耳元でそっと言われた言葉に、カインは静かにうなずいた。
子供の身では出来ることは少ないが、孤児院については何とかしたいとカインはずっと考えていた。異世界転生した身であればこその、何か方法があるんじゃないかとずっと考えていた。
カインとセレノスタで刺繍談義をしたり、アルンディラーノが本の読み聞かせをして「小さいのにすごいな!」と褒められて照れていたり、カインの歌で椅子取りゲームをしたりして過ごした後、時間が来たので帰城する馬車に乗り込んで孤児院を後にした。
アルンディラーノは、見送りに来た孤児たちが見えなくなるまで身を乗り出して手を振っていた。
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