仲直り

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朝食後、歯を磨いたらガツっと父に抱えられて門前に待機していた馬車に放り込まれたカイン。

母エリゼがディスマイヤのエスコートで乗り込み、ディアーナを渡され、最後にディスマイヤが乗り込んでくる。

コンコンとディスマイヤが御者席側の小窓を叩いて「出してくれ」と言うと、馬車はゆっくりと動き出した。


ディスマイヤはお茶会には招待されていないと言う。

「家同士の問題にしないため」という配慮らしい。あくまで子どものケンカとその仲直りであり、夫人同士が子ども連れでお茶会をするだけの社交の場である…と言うことにするらしい。

当初はディアーナはマナーを理由に留守番させる予定だったが、王太子もまだマナーが不完全だから構わないと言われ、王妃から是非ディアーナも、と重ねて誘われてしまったので連れて来ざるをえなかった。カインが暴走しないのを祈るしかない。


「では、お茶会楽しんできて。カインはうまくやりなさいね」


そういって、父ディスマイヤは法務棟の前で馬車を降りていった。

馬車はそのまま3人を乗せて王宮の王妃棟まで進み、それでは終わるまで待機しておりますと、馬車溜まりまで去っていった。

案内係の従僕に連れて行かれたのはルーフバルコニーに作られた庭園だった。


「いらっしゃい、エリゼ。良く来てくれたわ」

「お招きありがとうございます、王妃殿下。気持ちの良い天気ですわね」

「ええ、本当に。風が気持ちよいので外でお迎えすることにしたのよ」

「素敵なお心遣い、感謝いたします」


母たちの社交辞令が一通り済むと、では改めましてと母たちが子どもたちを前へと押しやる。


「まずはあなたからよ、アルンディラーノ」


王太子が、バシンと王妃に背中を強く叩かれて勢いで2歩3歩と前によろけ出てくる。

そのまま、もう3歩歩いてディアーナの前に立つともじもじとしながら「えーと」とか「うーんと」とか言っている。

カインは若干イラッとしたが、コレは待つ所なんだろうなぁと思ってディアーナのすぐ後ろに立って様子見している。


「おなか痛いの?」


あまりに言葉が出てこないアルンディラーノに、ディアーナが心配げに声をかけた。4歳でまだ男女で身長差もない2人。コテンと首を倒して顔を覗き込む姿はとてもとても可愛らしくて、後ろからみていたカインはうっとりとした顔でその仕草を見つめていた。


「カイン、顔!」


母エリゼから注意され、カインは背筋を伸ばしてまじめな顔を作る。

だって、腰を少し曲げて頭の位置を低くしつつ、顔を傾けてのぞき込み、その時の手はペンギンの様にぴょこんと後ろにのばしているその姿たるや!可愛さの極み。

王太子に対して取っているポーズというのが気にくわないが、後ろからという視点ならではの「パニエたっぷりでふわふわのスカートの裾がプリンっと持ち上がる」というディアーナの可愛さを彩る動きが見られたのだ。

動画で残したい。俺のかわいい妹を見てくれというタイトルで動画配信サイトへアップして自慢したい。全世界で10億再生間違い無しだよやったぜ!

と言うことを頭の中で考えつつ、真顔でアルンディラーノの言葉を待っていた。

一度は顔を崩したものの、しつけ担当のサイラス先生の教えの賜である。


「この間は、突き飛ばしてごめんなさい」


ようやく、アルンディラーノからディアーナへ謝罪の言葉が出てきた。もはやそんな事があったのもすっかり忘れていたディアーナは良くわからないけど「どういたしまして!」とにっこり微笑んだ。

アルンディラーノの頬が淡くピンク色に染まるのをカインは見逃さなかった。舌打ちしなかった事を自分でえらいと心の中でほめたたえた。


「手、痛かったよね?もう大丈夫?」


と言いながらディアーナの手を取ろうとするのを、ペイっと後ろから手刀ではねつけ、カインは一歩前に出てディアーナとアルンディラーノの間に立った。


「今度は僕の番です。王太子殿下、先日は怖い思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」


そう言って、深々と頭を下げるカイン。

視線の先に、アルンディラーノの靴が見える。なかなか、謝罪を受けるとの言葉が出てこないため、カインは顔を上げられない。


(そろそろ頭に血が上ってきてツラいんだけどなぁ)


アルンディラーノのそばに人が来て、ボソボソと何か言っている気配がある。まだかなぁとカインが思っているとようやく声が掛かった。


「許す。顔を上げよ」


言葉を受けてカインが頭を上げると、アルンディラーノのすぐ後ろに王妃様が立っていた。


(あぁ、これ。謝罪を受けたときの言葉を知らなかったか、聞いてたけど忘れてたやつだ)


恐らく、許すと言いなさいとか王妃様が助言したんだろう。アルンディラーノは一生懸命威厳のある顔を作ろうと口をギュッと引き締めて眉間を寄せていた。

その表情が、父ディスマイヤがカインを叱る時に横に立って真似して叱ろうとするディアーナの顔にそっくりだった。


「ぷっ」


思わず吹き出してしまうカインに、アルンディラーノは怪訝そうな顔をする。


「謝罪を受けてくださり、感謝いたします」


にこりと笑顔を作って見つめると、アルンディラーノの頬がまたピンク色に染まった。


(綺麗な顔が好きなのかもしれない。ディアーナも俺も綺麗な顔してるからな…)


アラサーサラリーマンだった前世の自分の顔を覚えているので、カインは自分の容姿を自画自賛するのに躊躇しない。

「※ただしイケメンに限る」という注意書きがありとあらゆる所に適用されていた世界を知っているので、ディアーナを守るために自分の容姿を利用することにも戸惑いはない。


「是非、これから仲良くして頂けると嬉しいです」

「あ、えっと、うん。よろしくおねがいします…」


花が開くような優しい微笑みを顔に貼り付けながら、アルンディラーノに声をかけるカイン。アルンディラーノは顔を真っ赤にして、声を詰まらせながらやっと返事をするので精一杯だった。


「さ、仲直り出来たところでお茶を頂きましょう」


王妃様の合図を受けて、用意されているガーデンテーブルへと移動する。

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