だってみんなにみせたかったんだもん

いつもありがとうございます。

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ガーデンテーブルの席順は、王妃様・エリゼ・ディアーナ・カイン・アルンディラーノとなった。

母親2人は同じ歳のディアーナとアルンディラーノを隣同士にしたかったようだが、カインがそれを阻止した。

そして、意外にも両隣の4歳児を甲斐甲斐しく面倒見るカインに母親2人は驚いたのだった。


「ディアーナ、飲み物は両手で持って。お菓子は一度置いて。そう、お菓子と飲み物を両手に持つのははしたないよ?」

ビスケットを持ったまま、反対の手でコップを取ろうとするディアーナに注意するカイン。



「殿下、口元にクリームがついています。…反対側です。…もう少し上です…。お顔をこちらに寄せてください。」

顔を突き出してきたアルンディラーノの口元をナプキンで拭いてやるカイン。


「ディアーナ、手の届かない物は取ってあげるから無理しないで。お皿をひっくり返してしまうよ。どれが欲しいの?」

テーブルの中程にあるマカロンを取ってディアーナの皿に載せてやるカイン。


「良いですか、ビスケットにクリームを載せるときは欲張ってはいけません。一口分だけ載せるとこぼさずに食べられます。次の一口を食べるときに、またクリームを改めて載せれば良いのです」

また口の回りにクリームをつけたアルンディラーノの口元を拭いながら注意するカイン。


「あらあら。甲斐甲斐しいこと。下の兄弟がいると上の子はしっかりするのかしら?」

「カインはディアーナにベッタリで、乳母や私にディアーナの世話をさせてくれないんですよ。もう少しディアーナを譲ってくれても良いのに…」

「まぁ。ディアーナが大好きなのね。アルンディラーノにも良くしてくれて…アルンディラーノのお兄ちゃんになってくれないかしら?」


「兄になる手段によってはお断りいたします」


突然振られた話にも、きっぱりと断りの返事を返すカイン。

ディアーナとアルンディラーノが結婚することでカインを義理の兄とするのであれば、それは受け入れられない相談である。

本来王家からの要請ならそうそう断ることなんか出来ないものだが、プライベートなお茶会での話ならさほど気にする事でもないだろう。しかもまだ学校にも行っていない子どもの言うことである。


「手段によって?」

「カインは、ディアーナをお嫁に出す気が無いんですの」


王妃が不思議そうな顔をしてエリゼに視線を向け、ため息をつきながらエリゼが答えている。

本当は、『王太子妃にしたくない』なのだがそんな事はさすがに王妃相手に言えないので、嫁にやりたくないということにしたエリゼだが、わざわざそれを訂正するほどカインも愚かではなかった。


「ほほほ。なるほどね。カインはディアーナが可愛くて仕方がないのね」


王妃は朗らかにうんうんと頷いてなにやら納得したようだ。何を納得したのかはカインには解らなかった。


その後、話は逸れて刺繍の会の夫人達がエリゼともっと話がしたいと言っていたので刺繍の会お茶会をしましょうよという話をしたり、子育ては大変よねという話をしたり、詩作に興味はないかと誘われたりと色々な話題で母親二人は話が弾んでいた。


「王妃殿下、お母様。ディアーナと王子殿下と3人でお庭を散策してもよろしいでしょうか?」


ディアーナがマカロンを割ったり戻したりするばかりで食べなくなっているのに気がついたカインは、お茶会を中座する許可を申し出た。

解らない話で盛り上がる女性2人にも、お菓子にもディアーナが飽きてしまっているので、歩いて気を紛らわそうと考えたのだ。

チラリと見れば、アルンディラーノも手の中でコップをくるくると弄んでいたので、やっぱり退屈しているのだろう。


「そうね。少し動かないと昼食が入らなくなってしまうかもしれないわ。カイン、アルンディラーノをよろしくね」

「ありがとうございます」


椅子をおりて一礼すると、ディアーナを抱いて椅子から下ろす。振り向けばアルンディラーノは自分で椅子から飛び降りていた。


「さ、ディアーナ。花を見せて頂こう」


そう言って右手を差し出せば、ディアーナは当然のように手を握ってくる。一緒に歩くときは手をつなぐ、と言うことをディアーナが歩き出した時からずっとやってきた成果が現れている。


「王子殿下も行きましょう。…手をつなぎますか?」


なんとなく聞いただけで、繋がないと断られると思っていたカインだが、予想に反してアルンディラーノは手を握ってきた。

驚いて目を見張ったが、気を取り直して左手も握り返せばアルンディラーノは嬉しそうに笑った。


「殿下は僕が怖くないのですか?炎で頭を燃やそうとしたんですよ」


「謝って貰ったからそれはもういいんだ。目の前ででっかい炎が出てきたのはびっくりしたけどきれいだった。また、魔法みせてほしい」


「お兄さまの魔法はもっといっぱいあるのよ!お兄さまはすごいのよ!」


「王族は代々魔力が多いと聞いております。殿下も沢山練習すれば自分で出来るようになりますよ」


「ディもね、まほーの練習はじめたのよ。いつかお兄さまぐらいすごいのだすの!」


「できるようになるかな…」


「殿下次第ですね」


花壇に向かって歩きながら、そんな会話をしていた。

ルーフバルコニーに作られた庭園なので、花壇はプランターのような箱に土を入れたもので栽培されていた。

しばらくは、花を眺めて花の名前を教え合い、花言葉クイズなどをやりながら歩いていく。

次の花壇へ行こうと足を進めたときに、カインは左手を引かれた。見やればアルンディラーノが立ち止まっていた。


「殿下?」


「あの日のことを言い訳したい。聞いて欲しい」


ディアーナに怪我をさせたからブチ切れて頭を掴んだ訳だが、何故そうなったのかはカインは知らない。積み木が崩れた音を聞いて振り向いたら、ディアーナの腕が引っ張られている場面だったのでブチ切れたわけで、何故積み木が崩れたのかとかディアーナとアルンディラーノが直前に何をしていたのかは見ていない。

直後に謹慎を命じられてディアーナとも会えなくなっていたのでディアーナから話を聞くことは出来なかったし、そもそもディアーナの腕を引っ張り突き飛ばした時点でカインにとってはギルティなので、経緯や理由に興味はなかった。


しかし、ディアーナを素直で素敵なレディに育て上げて悪役令嬢化させないという使命もあるため、もしディアーナの側にアルンディラーノを害するような発言や行動があったのだとしたらそこは修正しなければならないと思い直した。


「お伺いします」

とアルンディラーノに頷いて見せた後、ディアーナに向き直り


「ディアーナ、一緒に聞いて、お話が違うなと思ったら殿下の後でディアーナもお話を聞かせてね」

と話しかける。ディアーナはハイ!と元気良く返事をして、カインと手をつないだままアルンディラーノの顔が見える位置に移動した。


「あの日、積み木でお城を作ったんだ。とても高く積んでカッコ良く出来たから完成した!って言ったらみんながこっちを見てすごいすごいってほめてくれたんだ。でも、お話にむちゅうでこっちを見てない女の子のグループがいて、こんなにすごいのを見ないなんてもったいないって思って、こっちみて!って言ったのにこっちみないから、つみきのそばまでつれてきてあげようとしたんだ」


「ちがうよ。うさぎの耳はなんでながいのかってなぞなぞをしてて、まだケーちゃんが答えをかんがえてるところだったから、あとでっていったのにいまみて!ってひっぱったんだよ」


「あとでって言ってなかったよ!」


「いったもん!でんか自分の声おっきーからきこえなかったんだよ!」


「おっきくない!そっちの声がちいさすぎたんだ!」


だんだんと2人の声が大きくなってくる。カインとつないでない方の手でお互いにつかみ掛かりそうだ。

カインは両腕を持ち上げて繋いだままの2人を半分ぶら下がったような状態で引き離すと、空を見上げて2人に聞こえないようにそっとため息をついた。

  ―――――――――――――――  

お淑やかで朗らかで凛としているエルグランダーク公爵夫人が、椅子を倒す勢いで立ち上がりスカート翻して駆け、片手で息子を襟首掴んで持ち上げて、勢いある拳骨を振り下ろす。

そんな様をみたご婦人方は、やはり公爵夫人といえども子を持つ親なのだなぁと安心し、親近感を覚え、仲良くなって子育て苦労話などで盛り上がりたいわ。

という会話が刺繍の会の日、エルグランダーク家3人が帰った後にされたのだそうです。

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