四面楚歌

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朝目が覚めると、イルヴァレーノではなく執事が立っていてカインは驚いた。

執事に謹慎は終わりですよと告げられたかと思ったら、あれよあれよと言う間によそ行きの服を着せられた。

王太子殿下との仲直りの場としてセッティングされたお茶会。ついにエリゼとディスマイヤは当日の朝までカインにそれを伝えなかった。


「お茶会!?しかも今日!?まだ何も作戦を考えてない!」

「それが狙いでございましょう」


カインはカインで、手紙か贈り物を贈って謝罪をするか、王太子が参加する催しに自分も参加して機会を得て謝罪をするか、親に頼んで場をセッティングして貰うか。その場合の自分の立ち回りなどを色々と考えてはいたのだ。

イルヴァレーノに王太子の好みを探らせたり、今後の王族のスケジュールなんかを探らせたりもして準備を進めていたのに。


「お茶会とはいえ、昼食会を兼ねているそうですので朝食後すぐに出立いたします。さぁ、食堂へ移動しましょう」


カインが「知ってたのか?」という視線を投げると、イルヴァレーノが知るわけ無いだろという渋い顔をして顔を横に振った。


「イルヴァレーノ。そういうときは表情を変えずに、主人にだけ解る程度に首を振るのですよ」


執事が、イルヴァレーノに向かってにこやかに注意を促す。そしてカインに向き直りやはりにこやかな顔のまま注意する。


「カイン様も。そう言った事実確認はその場に居合わせた者に解らないようになさいませ。侮られます」


執事に促されて部屋を出る。カインが先に歩き、執事とイルヴァレーノが後に続く。


「カイン様は、どのような作戦をお考えでしたか?」


執事の問いかけは、とても穏やかな声で発せられた。特に侮っているとか、作戦潰してやったぜ!といった感情は見られない。

それでも、カインは顔が渋くなるのを止められなかった。中身はアラサーだし、ある程度は出し抜けると思っていたのを覆されたのだ。


「間もなく開催される『王妃様主催の詩集の会』に王太子殿下が参加するらしいので、謹慎を解いて貰って僕も参加させて貰おうと思ってた」


刺繍の会もそうだったが、そこに王太子が参加するというのは一般には伏せられており、既存の参加メンバーにのみ告げられた情報であるはずなのだが。

侯爵家以上ばっかりずるい!と伯爵家以下から反発があると面倒くさいというのが主な理由だと言われている。

おそらく、それだけでは無いのだろうけど、カインには知ったことではなかった。


「部屋からお出にならなかったのに良くご存じでしたね」


執事は、イルヴァレーノを視線だけ動かして覗き見る。執事の隣を歩くイルヴァレーノは無表情だ。

カインは、詩集の会に参加するために謹慎中の時間を使って詩の本を読み、いくつか作詩もしていた。全てディアーナを称える内容だった。そして当然のようにイルヴァレーノも巻き込まれていたが、作った詩はカイン以外の者の目に触れる前に処分されていた。


「後は、明後日の昼にある陛下の騎士団訓練所の視察について行くって話もあったから、偶然を装って馬車の前に飛び出して轢かれそうになることでお互い様って事にしようと思ってた」


王族の視察や慰問などのスケジュールは公開されており、誰でも知ることが出来る情報だが、そこへ向かうルートは極秘事項である。

もちろん、王族の安全の為、警備のしやすさの為だ。


「今回は、この邸の裏の2本向こうの道を通るようだったからね」


カインは、極秘であるはずの移動ルートを把握している…と言っている。執事は顔はあいかわらずにこやかに微笑んでいたが、心の内で驚いていた。

この一週間、部屋から出ずに過ごしていたのにどうやってその情報を掴んだのか。そもそも、本当に明後日の視察へ向かうルートが邸の側を通るのか執事には判断出来ないので、カインが適当なことを言ってる可能性はある。

今日のお茶会を今日告げられた意趣返しに適当なことを言ってる可能性も無いわけではないのだ。カインは普段、手の掛からない良い子だが、ディアーナが絡んだ時と計画通りに事が運ばなかった時にはひどく手の込んだ事をする事があるのを執事は承知していたのだ。


「やはり、前もってお知らせしなくてようございました。旦那様と奥様はやはりカイン様のご両親ですね。カイン様を良くわかっていらっしゃる」

「どうだろうね。僕の勉強の進捗にもあまり興味なかったみたいだけどね」

「カイン様のことを信頼しておいでだからこそですよ。順調だという報告を信じておられたのです。そして、それは間違いではございませんでしょう?」


順調すぎただけ、といえばソレはそう。けして間違いではないが、カインはわざと親から適度に距離を取っていたので、良くわかってると言われるのは複雑だった。

あまり干渉されて、やり過ぎだと勉強や鍛錬の時間を減らされるのは避けたいとカインは思っている。

やればやるほど身に付いていく、この『攻略対象者』の体を追い込んで、どんな事があってもディアーナを守れる力を手に入れたいからだ。


「それにしても、家の中の事が全く掴めていないのは我ながら不甲斐ないよ」


詩集の会での「王太子のお友達候補集合再び」についてだとか、極秘の王様視察ルートだとかは掴めたのに。

よそ行きの服を用意されていたことを考えれば、今日お茶会があることは使用人たちも知っていたに違いない。


「イルヴァレーノの主人はカイン様ですが、私どもの主人は旦那様と奥様だと言うことですよ」


ただ、それだけのことです。と執事が事も無げに言う。

口が堅く、結束力が強いのは公爵家の息子としてはとても心強い事であるが、両親を敵に回せば味方は1人しか居ないと言うことだ。



「さ、今朝はクロックムッシュですよ」


そう言って執事が食堂のドアを開けた。すでに家族は揃っていて、ディアーナはエプロンを着けられていた。

せめてもの抗議として、カインはブスッとした顔で父と母に朝の挨拶をするのであった。

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