「そう…」

やはり、あまり好まれるものではないのか。

何だか、1人取り残されたようで、少し寂しくなる。

「それでも、私はこれがいいの。

この物語には、誰かを愛した痛みがある。

他の物語では、それを味わう事は出来ないわ」


「左様ですか…」

一瞬、我が子に向けるような、慈しみに似た笑顔を、彼が見せた様な気がした。

「かしこまりました。それでは、5577番シアターにお進みください。

どうかごゆっくり。

生憎、今日は、貴方以外には誰もいらっしゃらないものですから…」


「ありがとう」

そのまま、足を進めようとして、ふと、私は疑問を覚える。

「ちょっと、待って。

ここって、確か、3番シアターまでしかないんじゃ…」


振り返るが、そこには誰も居なかった。

受付けごと、老紳士は、その姿を消し、確かに彼が存在したその場所には、ただの空間が広がっているだけだった。


ー夢…ではないわよね。

試しに頬をつねってみたが、当たり前のように痛みが襲う。

これが明晰夢なら、この程度の効果は意味を為さないのだが、今は、これ以上の確認のしようがない。

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