エンジェルナンバー

木瓜


「おひとりですかな?」

黒いシルクハットに、これまた黒いスーツを身につけた、老紳士が私に尋ねる。


「ええ。」

そんな彼は、この古びた小劇場の世界観に、これ以上ないぐらい溶け込んでいる。


「何をご覧に?」


「これを、お願いしたいのだけれど」

財布から、白縹に染まった、1枚のチケットを取り出す。


「拝見致します」

彼は、チケットを受け取ると、どこからか老眼鏡を取り出し、内容を確認する。


「どうかしら?」


「…こちらで、本当によろしいのですか?」

少し、困ったような表情で彼は尋ねる。


「無理、なの?」


「そんな事は。ただ、あまりおすすめはしません」

紳士は、顎に蓄えた髭を一撫でする。

「皆さん、もっと温かい話を好まれますから」

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