エンジェルナンバー
木瓜
①
「おひとりですかな?」
黒いシルクハットに、これまた黒いスーツを身につけた、老紳士が私に尋ねる。
「ええ。」
そんな彼は、この古びた小劇場の世界観に、これ以上ないぐらい溶け込んでいる。
「何をご覧に?」
「これを、お願いしたいのだけれど」
財布から、白縹に染まった、1枚のチケットを取り出す。
「拝見致します」
彼は、チケットを受け取ると、どこからか老眼鏡を取り出し、内容を確認する。
「どうかしら?」
「…こちらで、本当によろしいのですか?」
少し、困ったような表情で彼は尋ねる。
「無理、なの?」
「そんな事は。ただ、あまりおすすめはしません」
紳士は、顎に蓄えた髭を一撫でする。
「皆さん、もっと温かい話を好まれますから」
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