第3話
学校の体育館で、
「……という訳で、みなさん、
校長は壇上で涙ながらに話す。校長の体には蛇がぎゅうぎゅう食いこんでいる。体育館の壁際に控える先生たちの蛇もだ。
「今から鈴木亜紀さんのために三分間もくとうを捧げましょう。全員、黙祷」
体育館中の誰もが同じタイミングで目を閉じた。蛇でさえ目を閉じている。
そこで梓はしゃがみこんだ。頭がぼんやりする。あまりにも気怠く、何も考えられくなりそうだ。だが、昨日の涙をこらえる亜紀の顔を思い出し、梓は血が出るほど強く唇に歯をつきたてた。
亜紀の死は絶対に無駄にはしない。自分がやるしかない。梓はさっき亜紀の机からもぎ取ってきた紙を開き書かれた字を目で追う。
「黙祷、やめ!」
校長が言い切る前に、梓は立ち上がった。
生徒も蛇も全員一斉にカッと目を開いた。
「それでは本日の集会は解散とします」
梓ちゃんへこの手紙を読んでいるということは、私は失敗したのでしょう。
もしも成功したら梓ちゃんに相談するつもりでいましたが、実はこの前たまたまネットで安西教授の仲間と接触しました。こちらの事情を話したら向こうも安西教授を中心に蛇たちと戦っていると教え てくれました。
×月×日に一度安西教授に会って仲間に入らないかとメッセージをもらいました。私の代わりに行ってください。場所は市立図書館の地下二階、時間は夕方七時半ごろです。
今更言う必要もありませんが、この手紙は読んだら残らないように処分してください。梓ちゃんの生活や、梓ちゃんのお母さんが元に戻ることを心から祈っています。
亜紀
P.S. 教授の仲間から解毒剤の作り方教わりました。市販の風邪薬で意外と簡単に作れます。作り方も下に書いておきます。
あと最近蛇を殺すのに薬品を調合しました。あの蛇に本当に効果があるかわかりませんが、もしもの時のために○○駅のコインロッカーにストックを入れておくので、梓ちゃんも必要になったら使ってね。下手に触ると指の皮が溶けるくらい強力だから持ち運ぶ時は気をつけて。
ゆるやかな螺旋を描く階段も、つるりとした灰色の壁も、ひんやりとしたコンクリートで出来ている。梓は薄暗い壁を伝い、一段ずつ階段を下る。階段の脇の床からぼんやりと白いライトが光を放っている。
図書館はよく通うが、地下に行くのは初めてだ。というより、地下が二階まであったことをそもそも知らなかった。梓は手にある小瓶をぎゅっと握った。亜紀の教えてくれた解毒剤がよく効き、体はすっかり良くなった。いざという時の蛇殺し用の毒も作ってきた。安西教授にも早く会いたい。なのに足取りは思うように進まない。心のどこかで何かが引っかかる。
階段を下りきると、奥にコンクリートの壁に不似合いな木のドアがあった。梓はドアの前で深呼吸した。ここまで来たんだ。進むしかない。梓はドアノブに手をかける。ゆっくりと扉を開け、恐る恐る部屋に入る。
扉を開けたとたん、乾いた土の匂いがした。
部屋は今までと一転して鮮やかな赤茶の暖かい光で包まれていた。ごつごつした岩でできた壁も床も天井も、びっしりと壁画が描かれており、先ほどまでとは対照的に有機的だ。
床は細長い四角い箱が敷き詰められ、どの箱にも干からびたミイラのようなものが入っていた。ミイラは人間のものにしては頭部が妙にのっぺりしている。部屋の中央には一番大きい箱が置いてあったが、その箱だけ石の蓋がしてあり中は見えない。ふと、食欲をそそる匂いが、土の匂いに交じって鼻をついた。
匂いは部屋の奥の現代的なデスクからした。
なぜかオムライスの乗った皿が置いてあった。
デスクの前にはこれまた現代的な、大きな背もたれのついた黒い椅子が置いてある。椅子は後ろを向いているが、誰か座っているようだった。梓は革張りの背もたれに向かって話しかける。
「あの、
「
くるりと椅子が回る。梓は小汚い大学ノートを手にしてパラパラめくるその人を見たとたん、恐怖で体が固まった。
「来ると思ってた。ちょうど今は七時二十八分三十秒。夕ご飯よ、食べなさい」
笑って椅子に座っているのは、梓の母だった。
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