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 啄木の、「ふるさとの」という句を思い出しながら、いくつかのことが想起された。

 それほど生まれ育ったところの言葉に愛着を抱いていないということ、むしろぼくが獲得したことばの源流は関西だということ。振り返ってみれば、平準化する日本語の影響を受けているのか、と思う。そこの差異には面白さがあったかもしれない、と悔やむように、背中へ重さがへばりつく。


 停車場。人混みがあまり好きではない。人いきれに嫌悪を抱く――もっとも、好きな人が多数とも思われないが、しかし、ぼくのそれは強めの嫌悪だ。喫茶店の距離感で、隅のほう、男女がこそこそと、やましい話でもするように囁き交わすのには、いっそ面白みを覚える。ことによると反復の、あまりの凡庸さを嫌っているのか。

 時折雑音を好む人もいる。わざわざ飛んで入って、大きな火傷を負いながら、それでもなお戻ってくるのを目にすると、まったく蓼食う某もすきずきだな、と、呆れと、感心とを覚えて溜息が出る。興味を活かすことも重要なれど、やはり自分の仕事へ集中しなければならない。防衛だとか、都合よく目を塞ぐだとかではなく、いま一時に打ち込むことだ。その時には必然、孤独だ。

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