11/6 良い話と悪い話がある
という時には悪い話からする、と相場が決まっているので、今日は悪い話をつらつら語っていこうと思う。(良い話は次回。舞台のまとめをしようかなと)
先日大阪へでかけたのだが、パスケースを失くしたらしい。中崎町あたりを歩いているときに落としたらしい。この土日はひどく暑くて、ジャケットを腕に抱えていたものだから、内ポケットから滑り落ちたとみえる。もっとも、同じようなところに入っていたイヤホンは無事で、なぜだろうなあと首を捻った。
パスケースには1000円ばかりチャージしたと思われるPASMOと、あとはしょうのない会員カードが入っていたはずだ。居酒屋だとか、何年も行っていない、もう使うことのない電気屋のそれだとか。なので煙草二箱を我慢するか、仕方ないと思えるのだが、パスケース本体のほうに思い入れがある。
黒の、薄っぺらいゴムで出来たパスケースで、非売品である。つまり金銭的な価値は、少なくとも法的には認められないだろう。
僕がそれを手に入れたのは2009年のSHIBUYA-AXだった。ライブ会場である。
初めてのライブだった。KOTOKOさんの『イプシロンの箱舟』というアルバムツアーで、大学の先輩が誘ってくれたのだった。
その先輩が開場前に物販に並ぶというから僕もついていって、そのくせTシャツもパンフレットも買う気はなく、しかるに列へ並んでいるというのは邪魔だから、先頭まで来てどうしたものか、ということになる。
目に入ったのはいわゆるガチャガチャだった。500円1回(だったと思う。なにせ14年前のことだ)で、缶バッジや何やらが当たるということで、僕も何とはなしに引いた。そこで当たったのが、パスケースだったのだ。
実のところ、僕はそのあたりまでPASMOや何やらを持っていなかった。大学までは徒歩か自転車だし、せいぜい一駅だから切符を買って済ませていたのだ。けれどもさすがにケースを手に入れたら使うほかあるまい。こうしてやっと電子マネー(定義大丈夫か? おおよそそんなものだと思って欲しい)を使うことになったのである。
……という長い付き合いのものを失くしたわけだ。記憶を失ってホテルにいた時にも、引っ越しや遠征でも失くさなかったケースを、こんなにポン、と落としてしまうとはずいぶん因果なものである。得てして物事とは思いがけないものだ。
ただ、あいつは大阪のどこか路上に転がっているだろうな、と思いながらも、ひょっこりと机や鞄の中から出てきそうな気もしている。
電車へ乗る時には、きっとまた、やつのことを思い出すのだろう。
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