えいが

資料の一環として映画を見ることが多い。固めて同じ種類の作品を視聴しがちで、2017年か2018年かの春にはひと月で西部劇ばかり50本ほど(日2本以上ペースだったので60本かもしれない。瑣末事だが)を見ていた。もっとも、この後に出来上がったのがロボット×部活ものの『アガートラム』だから、結果的にすぐ資料として使ったわけではないのだけれど。


当たり前のことだが、歴史物・時代ものを書くにあたっては文字の資料だけでなく写真や映像があると奥行きが増す。そこに生きている肌感覚が立ち上がる。画面外を意識できるとなお良い。止まった汽車に隠れた向かい側のホームや、スシマスターの店で隣に座っている男にこそ世界が現れている。文字で書くか書かないかは別にして。


昨日は『パブリック・エネミーズ』『愉楽への手ほどき』『華麗なるギャツビー(2013)』と見た。パブリック・エネミーズはジョニー・デップ、クリスチャン・ベールのダブル主演という感じで、アメリカン・ニューシネマ的なスタイルに比較的序盤から仄暗さを強く意識させる雰囲気があった。車や服装、当時のBOI(FBIの前身。すでにフーヴァーは捜査局長である)の装備といったアタリをつけるには有意義。一方で芝居としてはやや尻すぼみ――史実をなぞる以上仕方ないが――という面もあり、モチーフとして用いられる“Bye Bye black bird ”については表層上の意味しかなく、メタファーが含まれていればもっと強度が増すのになと思わせられた。この点同時期を描いた『J・エドガー』は同性愛の別ラインを引いてあることで重厚度が増している(正確に言えば、もっと丁寧な掘り下げをしてもよかったかもしれないが、サブプロットの妙、ということである)。あるいはライン取りとして似ている『ジェシー・ジェームズの暗殺(2007)』と比較すると、デリンジャーの人間的魅力・パーソナリティへの踏み込み方が足りなかったように思う。デップの格好良さで持たせている感じが強い。緩としての軽妙なやり取りが少なかったせいだろうか。

余談だがこの事件から“the lady in red”とは破滅をもたらす女のスラングになっているらしい。学び。


『愉楽への手ほどき』。12/13までプライムにあったので軽く見たが、飛ばし飛ばしになってしまった。フランス映画は日本人だと好みが分かれる印象だが、僕は『ヒロシマ・モナムール』『浴室』あたりが面白かったので見られるかなと思ったが難しかった。主人公の女性が拾った携帯にえっちな自撮りや写真があり、その携帯を取りに来た女性とつながっていき……という感じだが、僕はもう拾った携帯でという導入にうーんとなっていた。画面上の動きがないのを自然主義的なアプローチと捉えるにしても陳腐ではないか。またR18なので女性同士の絡みや裸体もあるが、そこまで映像的な美しさは覚えない。基本カメラ/見せ方は自然主義に即そうとしている割に作劇のストラクチャは不在で、久しぶりに苦しいなと思う映画だった。愛情の形式・価値観についてどこの誰に対して、どの思いでも等価値というテーマでやりたかったのかな、と粗々で受け取ったが、もう少しやり方があったのではないかという所感。


『華麗なるギャツビー(2013)』。ディカプリオ&トビー・マグワイア。

原作についてはご存知フィッツジェラルドで、そういう意味でシナリオとして安定感はあった(そもそも1974年版の映画もあるので)。ちょうど半分で転がりだすのもお手本のようで、観客側の呼吸に優しい尺で作ってある。もっともこれに関してはどうこう言うよりディカプリオの芝居に尽きる。この前年にディカプリオは『ジャンゴ 繋がれざる者』でカルビン・キャンディというまあ畜生な悪役をやっており、順調に芝居の実在感や奥行きが増している。トムに掴みかかるところも印象的かもしれないが、デイジーと再会を果たすシーンの前後は素晴らしい。また床屋でウルフシャインやトムに見せる表情は絶妙である。またディカプリオの話ばかり書いてしまったが、トビー・マグアイアの見せる抑えの利いた芝居も丁寧で、だからこそ“Get out !”が効果的になっている。集約されるある台詞に対して組み立てる意識も――シーンとしてはあるが、それをもっと一点へ絞り込む意識として――強く持たなければいけないなと思わせられた。ちなみに原文のラストシーンを軽くさらったが、台詞の省き方と見せ方で印象は逆に思える。それはそれで面白いのだけれど。


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