6/27 猥雑な街で飲む

上野で飲むのは二度目だった。一泊二日で東京に行っていた、その2日めである。

漫画家のおざきさんと広小路口で待ち合わせ、昼からどこで飲もうかとぶらついた。


一軒目はソーセージを肴にビールを飲ませてくれるという、キリンビールの直営店だったのだが、まずはご馳走ビールなるクラフトビールを頂戴した。三度注ぎと称してクリームソーダほどの泡がグラスの上に乗っている。鼻に泡をつけながら呷ってみれば、なるほど喉越しは日本ビールらしい爽やかさで、しかしクラフトビールを名乗るだけあってコクと苦味の中に漂うほのかな旨味は立派な腸詰めによく合う。粗挽きのソーセージは肉肉しさを損なわず、噛むほどに脂を覚え、それをさっと濃いビールで流し込む。前菜も興味深かった。ポテトサラダはややクリーミーでもう少し塩気が強くてもよかったかと思うが、なめこのマリネは悪くない。滑らかさと弾力のある歯ごたえで、普通の一番搾りがもっとも合いそうである。このあたりでまずまず暖気が完了して、ゆったりと次の店を探す。


キリンシティはアメヤ横丁のアーケードからしばらく行ったところにあるのだが、そこから路地をいくつか抜けると「アメ横」の看板が見えてくる。

もとよりアメヤ横丁の名は字句のごとく飴屋が多かったというところから来ているそうだが、「アメ横」と略されるようになったのはどちらかと言えばアメリカ軍の払い下げ物資を扱ったところから来ている。それもあって駅前や上野恩賜公園の整備された街並みと違い、ガード下で雑然としている。その猥雑さが、次に何が出てくるのだろうとワクワクさせるのだ。実際、魚や、飲み屋、アメカジにアクセサリーと並ぶ店構えには法則というものがない。店頭からの大げさな呼び込みには活気があり、その中には「ケバブ! ケバブ食べるデショ!」とカタコトの日本語に混じって中国語やスペイン語も飛び交う。東南アジア的な雰囲気を感じられる一角だ。


僕らはビールを主軸として戦う作戦に出ていたので、並んだ青島とアサビの瓶ビール に心を奪われた。妙に人懐っこい顔を作ってみせる中国人の女性の誘いに乗ってみることにして、ほとんど道路上に置かれた丸椅子に腰を落ち着けた。

以前はその斜め向かいほどにある牡蠣と海鮮の店で飲んだのだが、生牡蠣が6~7つとビールで1000円となんとも安価だった。舌触りはそれほど滑らかではなく、歯ごたえもぷりっとした、あの牡蠣らしい感動は味わえなかったのだけれども、しかし雑然さが面白い。

僕らはここでよだれ鶏と軟骨の唐揚げを頼み、青島ビールで二度目の乾杯をした。青島は海外のビールだが、国産ビールの系統に近く飲みやすい。喉越しの類である。アメリカンIPAなどが好きな人には物足りなかろうが、暑い日に外で飲む分にはこういうものがいい。

さて、唇を潤してよだれ鶏にかかる。真っ赤なタレが柔肌にも思われる鶏から銀のトレイへと広がり、最後に軽くナッツが振りかけられている。辛さを覚悟して口に運んでみるが、唐辛子は控えめで、ちょうど良い辣油が食欲をそそり箸が進む。軟骨も半端な居酒屋よりよく揚がっていて歯ごたえがいい。店構えはせいぜい何畳だけれども、そういう店も捨てたものではないなと思わせられる。

飲みながら映画と創作談義に花が咲き、ふと話の途切れに見渡してみるとパイプを咥えている女性が見えた。ガラス管がつながっている。シーシャをやっているらしい。

そうか、と思い、煙草はいいか、とおざきさんに訊けばいやまったく構わないよと言ってくれるから、失敬、とマールボロを取り出して一服やった。アルコールに混じった酩酊感は筆舌に尽くしがたい。この前日に焼き鳥屋で一杯やった後にも吸ったが、これを飲みながら、しかも平日の昼にというのは贅沢なことだ。


煙をくゆらせながら、僕は確実に上野へ魅了されつつあるな、と思った。こういった人が見える街で飲むのもまた、面白いものだ。おざきさんはそういうことなら、と土地勘のある新宿・ゴールデン街の話をしてくれて、非常に興味をそそられた。次の東京征きではぜひ、足を運んでみたいものである。

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