5/6 春過ぎて 夏来にけらし
春が一瞬で通り過ぎ、はやくも夏めいてきている。
まだ風は涼しいけれど、新緑からにおう初夏の香りで思い出されるのは持統天皇の詠んだ一首だ。
「春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山」
(新古今和歌集)
僕が覚えたのは百人一首なので、万葉集では「衣ほしたり」となっている。
そのあたりの背景については他の解説に譲るとして、この句を初めて見たか聞いたかしたときに、おそらくは幼稚園だったと記憶しているのだが、青空に映える、物干しに泳ぐ白いTシャツをイメージしていた。実にコモンである。白妙の衣をイメージできなかったので、自分のわかりやすいものに引き寄せて想像したらしい。
その後、白い衣は「早乙女の資格を得るためにおこもりをしている村娘たちの斎服である」という旨の解説を聞いて、ここでようやく正しくなったものだが、今でも何とはなしに思い出されるのは原初のイメージである。
万葉集は基本的にシンプルな感動をシンプルに詠んだという意識で解釈しなさいと教わったのだけれど、それにしても幼少のみぎりに体験した句が、しかもまったく時代も違うにもかかわらず身体に残っているというのは素晴らしいことではないか。
一過性ではない、真・善・美たる文芸をやっていきたいと思わせる、そんなことを涼風に思っていた。
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