第2話 契約
「契約……ですか? 」
小首を傾げながら、カノン様が問いかけてくる。
「はい。契約です」
契約。それはただの口約束とは違い、ある者同士がお互いの同意の上で行われ、そこには細かい条件や期限などを記すことができる。もちろん無条件で結ぶこともできるし、契約違反をした場合には罰を下すこともできる。
今回の場合であれば、俺が条件をいくつか提示しそれを成すことが出来れば、人間界へ行くことができる契約。
カノン様は、すぐに理解したのだろう。こちらを見る目がさっきとは明らかに違う。
「それを結べば人間界に行くことが出来るのですか?」
「すぐに……とまではいきませんが、条件を満たすことができれば」
「……わかりました。なら、契約を結びましょう」
カノン様が契約を了承したところで、俺は手をつきだして手のひらをカノン様に向けた。
不気味な音とともに、手のひらの前には円の中に複雑な模様が描かれた魔法陣が現れた。
これが契約を結ぶために必要なもの。この魔法陣に書かれたことを契約を結ぶもの同士が同意すれば、契約完了となる。
「では、まず魔王様が人間界へ行くための条件を提示します。」
「……はい。」
契約を始める俺の一言で、周りの空気が一気に緊張が張り詰めたものになる。
ふわふわしていた空気はもうどこにも存在しない。
「では、まず一つ目。魔界の均衡が保たれ、この世界の存在が安定している場合にのみ、人間界へ行くことを許可します」
これは、カノン様が人間界へ行くための最低条件。
そもそも魔王がいる現在ですら、やっと世界を維持できているというのに、安定もせずに魔王がいなくなるでもしたら、この魔界は破滅する。
「二つ目。人間界に行く際は、護衛と案内含めても最低三人は連れていくこと。」
人間界に魔王が行くなんて、ほとんどないからな。騒がれた時の対処としてこれも必須条件の一つ。
「そして最後。契約内容は、お互いの合意にのみ変更可能とする。期限は無期限です」
まぁ、これに至っては使わないかもしれないがもし不満があったら、すぐに変えられるようにといった配慮で作った条件だ。
「もし、以下の条件に不満が無ければここに契約が交わされます」
「異論ありません。」
「今ここに、私と魔王様の契約が結ばれる」
その一言を放った瞬間魔法陣が光り輝いた。
これが契約完了の証。さっきので二人の同意が確認されたことがわかったので魔法陣が輝いたのだ。
「ふぅ……これで契約は終わりです。何かまたあればその時に変更の方を致しますので、なんなりと」
魔法陣が消えると、俺は気の抜けた声で話しかけた。
「私としては、むしろ条件を緩くしすぎだと思うのですが……」
カノン様は、苦笑しつつこちらを見てくる。
そこまで条件を緩くしただろうか? 自分でもう一度思い出してみるがそこまで緩くはないと思う。
むしろ、護衛三人とか完全に過保護の域のため、どちらかと言えば緩くはないだろう。
「えぇ……そうでしょうか……私としてはそこまで緩くした覚えはないのですが……」
「いえ、緩いというかほとんど最低条件じゃないですか? あれ。その上に何かしら付け加えると思ってたんですよ……」
どうやらこの位は覚悟していたらしい……
予想が外れたカノン様は、張り詰めた顔を少し和らげていつもの優しい表情に戻っていった。
「まぁ、その前にこの世界があとどのくらいしたら安定するんでしょうね……」
俺はカノン様にぎりぎり聞こえるくらいの声量で言った。
「それは、私達の頑張り次第ですね。」
「ええ」
やる気を見せるカノン様の頭を優しく撫でてゆっくりとその考えに頷いた。
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