第3話「絶体絶命と機転」


 ドダダダダダダダダダダダダダダダッッ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼


「おいおいおいおい、これはどうすればいいんだぁ⁉」


「きゃあああああ!!!! そ、そそそそそs、そんなの知らないわよぉ!!」


 凄まじい地響きと咆哮をそこら中にまき散らしながら、砂埃をあげて謎の生き物は俺と椎奈に走りかかってきた。さすがの迫力で一瞬だけ小便がちびった気がするが生憎とそれは俺だけではなかった。


「っ——かぁぁ!! もう、おしっこしたかったのに‼‼」


「お前まさかもらs————っ⁉」


「しばき殺すわよ?」


 こちらも同じように凄まじい形相で横を並走しながらギロっとした視線を向ける。ひぃ――と学年、いや学校の最強の美人さんに睨まれて怯まれそうになったがそれどころでもない」


「って——そんなことで怒ってる場合か!! 椎名よりも先にあのカマキリに芝かれるわ!!」


「芝くからね、後でしっかり!!」


「そう、もう、いいから分かったからっ——早く逃げるっ⁉」


 ジャキジャキジャキッ。

 肉眼でバット見ただけだが後ろを向くとその生物の距離はさっきよりも近くなっていた。それに涎をまき散らしながらイボイボの付いた謎の鎌の様なものを振り回している。


 やばい、あの感じからして俺たちを食うつもりだ。


 あれじゃあ何をやってもさすがに勝てない気がする。


「ぐあああああああああああああああ‼‼‼」


 そんなこんなで悩みながら走っていると横にいた椎奈が女の子らしからぬ悲鳴を上げて俺に飛びついた。


 カマキリ(仮)。めんどくさいから今からカマキリと名付けさせてもらうわ!! とカマキリ(仮)から放たれた大きな方向によってそこら中に散らばっていたのかは定かではないが、それでも数匹のカマキリがうじゃうじゃと連隊を組みながらこちらへ疾走を始めていた。


「ねぇねぇっ‼‼‼ これはもうヤバいんじゃないのかしら!?」


「おい、さっきまでの威勢はどこに行ったんだよ‼‼」


「威勢は置いてきたわ!!」


 おっとこれは我らが学校のアイドルはプライドというものを知らないらしい。とはいえ、確かに状況はやばかった。一秒と時間が進むごとに寿命が削られている気がしてならない。


 加えて、横から大きな胸を押しつけてくる白髪巨乳美少女こと吹雪の姫がいるおかげで頭の中では逃げるか揉むかで変な話し合いも行われている。


 道長千歳A「お前が揉みたいというのならやればいいんじゃないか?」

 道長千歳B「状況くらい考えやがれってんだ!! 今は変な生き物に追われている最中だぞっ!」

 道長千歳C「どうせ死ぬなら揉んでもいいんじゃない?」

 道長千歳D「いいからささッと逃げようぜ。俺たちもヤバいんだが!?」


「——くっそ、うるせええ!」


「どうにかしてよぉ!!」


「どうにも出来ねって、意味わからんし、マジでおかしい!!」


 ビュン――ッ!!


「ひゃ――」

「っく――」



 鎌が頭上から一振り、決死の飛び込みで回避したが状況は依然変わらない。角度の浅い河川敷の差かをぐるぐると転がり、干上がった川の中で止まる。


「うぅ……」


 声が遠い。

 唸る声が聞こえたが意識が朦朧として、さすがにヤバいと思った俺はバシッと頬を叩き、悲鳴を上げる体中を起こしながら椎奈の方へ視線を送る。


 ギガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!


 目の前には咆哮するカマキリ。

 絶体絶命の光景。

 あの惨劇のような一撃を浴び、何度か生き残ったのが凄かったのか――そんなどうでもいいような考えが浮かんでくる。


 その迫力に身体が硬直し、俺はその場で唖然としているだけだった。


「————き、きゃああああああああああ‼‼」


 その姿に気づく椎奈。

 響く悲鳴。


 もう駄目だ。


 そんな終わりを悟った瞬間だった。

 

「銃?」


 一瞬の好機。

 なぜこんなところに銃が落ちているのか? なんて野暮なことは考えなかった。数年前、一度フィリピンに旅行に行ったときに撃ったことがある思い出に頼りながら俺は手元に置かれていたリボルバーの引き金に手をかけ、二発。


 ——ヒュン。


 乾いた音がなり直後、カマキリの頭が青色の液体をまき散らしながら飛散。

 爆発音をあげるかのように銃弾がカマキリの頭で爆発し、辺りに汚い花火がまきちる。


 そんな、あまりにも無残な残骸に周りにいたはずのカマキリたちは一瞬で体をくねらせて、反対方向へ逃げていく。


 そうして俺たちはその瞬間を生き延びたのだった。









 

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