第1章
第1話「世界の滅亡」
2021年7月9日午後1時03分。
この日、世界は滅亡した。
現代科学では説明不可能の地震、隕石、そして気象変動に人類の人口の99%は死亡した。これは終末戦争でも、意図的な破滅でもない。人類が持つ核兵器を使えば、地球を終わらせることも出来なくはないがそれが使われたわけでもない。
無論、今年で20歳になる俺が知っているわけもない。
あの日、あの場所、あの時間にすべては消え失せ、たった一人と始めった物語は遂に終局を迎えるのかもしれない。
「千歳っ——」
「そうか、これが……あの時の」
とりあえずはあの時のもがきに目を向けてもらいたい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……ぅ」
気が付けば俺は倒れていた。
瞳を開くとおぼろげな視界。薄汚れた地面が見える。
なんだ、これ。
俺は唐突にそう思った。目の前には柔らかい何か。
とくんとくん……と脈打つ音が右耳に伝わってくる。
ムニュリ、むにゅり、むにゅっ。
擬音語で表すのが容易なくらい柔らかく、温かい。ぬくもりと言うか、優しさと言うか何やら皆目見当もつかなかったが胸がポカポカするような気持ちに襲われる。
そっか、これは夢で、あの真黒な何かは頭が生み出した創造物で変なシチュエーションで俺が優しさを感じたかった――的な願望だと。
そうなのだ、と。
思いこむことでその時の俺はいっぱいいっぱいだった。
しかし、現実はいつも残酷で非情だった。
「……んぁ……っぐげっ!! ゲホッゲホッッ!?」
顔を埋めていた柔らかいものが咳き込む音と同時に上下に揺れる。たぷんたぷんと揺れる感じではなく、何か苦しそうな感じでドタバタと揺れていた。
ハッとして、痛む腰を土埃だらけの両腕持ち上げる。
「んがっ……」
「ゲホッゲホッゲホッ――――っ⁉ はっはっん……んん……はぁはぁはぁ……」
「——え」
ゆっくりと自らの体に異常がないことを確かめながら恐る恐る目を下に向けるとそこにいたのは柔らかい何かの現況、我らが【吹雪の姫】椎奈雪姫だった。
それも、裸。
オブラートに包むなら一糸纏わぬ生まれたままの姿。
そう、噂通りの雪のような真っ白で透き通るように透明な肌が俺の目に突き刺さる。
土埃で汚れ、苦しそうな表情に俺はごくッと生唾を飲む。
「……ん」
初めて見る女性の裸。とは言っても制服がビリビリに破けているだけで完全なる裸と言うわけではなかったがどちらにせよ、恥ずかしい姿に変わりはない。先日の朝から初めて話し、そして一緒の教室でパンツを話してきた思い出しかない。
俺も男だ。そう言う気持ちがないわけではない。無論、今もなお、その考えは一秒一秒時間が進んでいけばいくほどその邪な思いは増えていく。
ただ、それは最低だ。
そう思って、俺は来ていたブレザーを彼女にかける。
「——っぁ……こ、ここは」
すると、上着を掛けたとほぼ同時に椎奈が目を覚ました。
「椎奈、大丈夫か」
「……ぇ、あぁっ……」
「なんか、ヤバいことに巻き込まれたみたいだ」
「……って、わ、私、服……」
「あぁ……その、ごめん。それ着てくれ」
俺がそう言うと、椎奈は恥ずかしそうに頬を赤らめた。
まぁ、そんなの言わずもがな。なぜなら俺は椎奈の胸、もとい、おっぱいを見てしまった。なんとなく彼女自身も気づいてしまったのだろう。
「ぅん……」
コクっと顔を隠すように頷くと、華奢で土埃で汚れた上半身にブレザーを纏わせた。
そうして、俺たちは手を取り立ち上がる。
何となく気付いていたが改めて見ると絶景だった。
あたり一面の砂埃。
今まで建っていたはずの建物がほぼすべて半壊し、道端に生えていた緑は一つも残っていなかった。まして、俺と椎奈がついさっきまでいたはずの高校はぐちゃぐちゃの瓦礫だけになっている。
何より、俺が一番びっくりしたのは今起き上がったこの場所だった。
軌跡と言うか、悪夢と言うか、あの黒い何かを見た瞬間は死ぬと思っていたのに運よく崩れた図書準備室の一角だけが原型をとどめている。
いつの間にか1階に移動しているがそれ以外何も変わっていなかった。ちょっと汚いくらいだ。
そんなこんなで辺り一面の荒廃した様子に絶句している中。奇跡的に残ったテーブルに腰かけると、椎奈が話しかけてきた。
「……それで」
「あぁ」
「これは、何よ」
「——それを俺に訊くか」
無論、知らない。
大体、急なことだったんだ。とっさの判断で椎奈に抱き着いて守ろうとしたが結局この様。身体中擦り傷だらけで頭からも少しだけ血が流れている。
「というか、俺が訊きたいんだがな……」
皮肉交じりで呟くと手を組んだ椎奈が近づいて、
「はぁ……そうね、悪かったわね」
「んぁ、なんか妙に素直だな」
「えっ……いや、別にそう言うわけじゃないわ」
すかしてそう言う。
先程まで教室で仲良く言い合っていたとは思えなかったが、まぁ無理もない。
「それに、ほら……頭、血が出てるわ」
「……あ、ありがと」
すると、遠くを見るような笑っていない目でポケットからハンカチを取り出し、血の出た頭を拭く。拭ききるとぐるっと頭に一蹴させ、包帯のように頭に巻いた。
「これで、恩は返したわよ」
「……恩って椎奈、俺がそんなものにたかる男に見えるのか?」
「見えるわね」
「っ……容赦ねぇな」
「えぇ」
そうして、俺たち二人はくだらない話をだべりながら図書準備室の残骸から出ることにした。
<あとがき>
まじで遅れてしまいすみません。
カクコンの方を先に仕上げてから、こちらの方を毎日書いていくつもりなので気長に待っていてくれると嬉しいです!
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