プロローグ3

「何……これっ————?」


 世界とは残酷だ。

 そう言う風に出来ている。


 よく、持続可能な社会だとか、未来の世代にも幸せと! なんていうがあまりにも唯我独尊的だ。まるで地球を我が物顔のように、この星は我々が作ったんだと言うように扱ってきた。戦争し、ここは私の土地だ。などと、まず誰もの物でもないものを言ってきた。


 きっと、これがその報いだ。


 我々が生きているのならば地球も生きているのだろう。

 つまり、これが地球に住む全生物への報いだ。


 この大きな嵐と地震と津波と、隕石は……地球が終わることを意味しているのだと————俺は考える。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 30分前。




 俺はと言うと、またしても半ば強引にロングテーブルに座らされていた。


「いってぇ……」


「男なら我慢しなさい」


「……そういう理論もってるじゃねぇか」


「あら、なんのことかしら?」


「そうかよ……」


 吹雪の姫こと椎奈雪姫。俺にとって可憐で儚くも綺麗に映っていたはずの彼女が一気に崩れた気がする。この強引さ、そして人使いの粗さ。きっと家でもメイドやら使用人やらにいろんなことを押し付けているのに違いない。


 少々イラっと来たがまぁ、言ってもしらばっくれるようなので無視することにした。


とはいえ……。


「っていうか、どうしてここなんだよ。ふぶk……じゃなくて椎奈ってもしかして、図書委員か何かなのか?」


「え、あぁ、そうね。一応そんなところかしら」


「そんなところ?」


「そう、そんなところね。詳しくは言わないわ」


「はぁ。何か、そういう事情でもあるのか?」


「別に」


 俺の疑問に意味もなく、すかして言い返す我らが冷たいお姫さん。ほんと、何もしていなければ綺麗なんだがなぁ……って俺は椎奈の幼馴染か何かかよ。


「——じゃあ、言えよ」


「嫌よ」


「はぁ? なんで?」


 断固として言わないと自らの意思を貫く姿勢。

 中々だ。


 とはいえ、俺も引くものかと我ながらつまらない話にがっついていくと。

 バサッと音を立てて、小さな図書準備室の大きなロングテーブルの向かい側の席から立ちあがる。


「——なんでもよ?」


 机越し、壁越しならぬ机越しで身を寄せた。


「っお――え、な、何」


 我ながら情けない声を出してしまったがさすがに弁明させてほしい。この苦節17年ほどの人生で初めて女の子に言い寄られたんだ。大体、こんな風に女の子と何の気がいなく話せていること自体が凄いことだって思うんだよ。


 だから、とどのつまりは——俺は陰キャラボッチ童貞ってわけだ。


 出典:「陰キャラ童貞の理論#1」著 ふぁなお  ふぁなお出版(そんな本はありません)。


「——あら、さっきはあんなにも強気だったのに急に弱気になったわね」


「わ、悪いかよ」


 そら、おっぱいがクソでけえからな。

 巨乳、冷徹、そして爆乳ときた。


 冷たいがデカいおっぱい。そのギャップにきゅんと来るパターンだ。最近はやった人差し指と親指で作るあれだ。童貞なら顔が赤くなってもおかしくない。


「悪いわね、威勢が良くない」


「何に関係する……」


「するわね。無論、私が今日呼んだ理由にね」


「……」


「あら、分からないかしら?」


 今日、俺を呼んだ理由。

 今日、俺をここに呼んだ理由。


 今日、この部屋に呼んだ理由。



 朝、パンツを教えた情景。


 あ?


「顔が赤くなってるわよ?」


「っ⁉ そ、それはさっきのおpp……な、なんでもない」


「あら、気になるのだけど? その【おpp】ってやつ」


「復唱するな!! ま、間違えただけだ!! と、というかだ。呼んだ理由、あれだろ。今日の朝のやつ」


「そうね。そう、朝のやつ」


「それが何だよ。もう殴ったからいいだろ?」


 さすがに怖い。

 この手の話、それに案外こうやって絡んでくる性格の椎奈なら賠償金とかを……。



「——今朝のは、その、ありがとう」


 グッと拳を握り締め、背筋を正し身構える俺。

 しかし、その一瞬を模った言葉に固まった体が「え」と疑問符をあげた。


「あれは全面的に私のミス。殴ってしまってごめんなさい」


「え、あぁ」


 正直、何か要求されるのかと思っていたのだがどうやら本人が言おうとしていたこととは違ったようだ。


 呆気に取られていると、彼女がさらに身を乗り上げる。


「——何、呆気に取られているのよ?」


「い、いや……別に」


「もしかして、何か要求されるとでも思った? 生憎と私はそんなゲスな女じゃないわ」


 お見通しってことか。

 椎奈雪姫。どんだけの童貞を相手にしているのか、正直、このためだけに呼ばれた俺もちょっとだけ可能性を感じていたが無理だったようだな。


「そ、そうか」


「まぁ、いいけど。というわけで、謝りたかっただけよ。本当にそれだけね」


「……うん」


 急に改まった椎奈に対して、俺もどこか子供っぽいところで争ってしまったなと反省だな。


 とはいえ、我ながら面白い縁だ。どこかの神様に祝福でもされているのだろうか。そんな風に思ってしまうくらいには面白い。


「ねぇ、あれ」


 そんなこんなで、俺が俯きながら物思いに更けていると——椎奈がハッとした声で言っていた。


「ん、どうしたn——」



 そこで、俺もハッとした。

 いや、ハッとしたわけではない。


 固まった。

 地面に足がくっついたかのように、まるでメデューサにでも睨まれたみたいに、何故か体が動かなかった。


「……あれって」


「おい、まじか」


 動く口を必死に動かして、動く瞳を必死に合わして、見つめ合う。


 見えたのは——瞳に反射する真黒な何か。超高速でこちら側に近づいてくる何かだった。


 何かが来ている。

 何が起こっている。


 何かが何かをしている。


 そして、そして、そして。



「何……これって————t⁉」


「椎奈——っ」








 そうして、この日。

 世界は滅亡した。


 

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