第二章 『管理者』
「ははははは。これぞ、呪いの獣。『ディケファトス』だ! 消えぬ呪いに苦しんで死んじまえ!」
だ!じゃないが。なんて危ないもんを呼び出してるんだよ!?
「この呪いは目に見えない! つまりテメェは気づいたら死んじまってるってわけだァ!」
「視えない、ね。それはどうかな」
「あ?」
今も俺にはしっかりと “視え” ている。アホ面を晒している盗賊の横で大口を開け、呪いの瘴気らしきモヤを吐こうとしている怪物の姿が。
「遅いんだよそれも!」
「ひぃっ」
速度を落とさずに取り巻きを殴り飛ばし、ボウガンを奪って撃つ―――わけではなく思いっきりぶん投げた。狙ったのはボスが持つ小箱。剛速球が直撃、たまらず放り出された箱が落下するところ目掛けて、拳を振り抜く。
パリィン!と甲高い音を立てて砕け散った小箱の影響だろうか、双頭の鷲は断末魔を上げて消滅した。この事態に戦意を喪失したのか、盗賊たちは我先にと逃げ出してしまった。ったく、まだ殴り足りないぞ。
「暴れすぎですって、兄さん。はいハンカチです。汗をぬぐってください」
「ありがと、真耶。さすが天使みたいに優しいな」
「だから、そういうのはいいですって……あれ?」
「どうしたんだ?」
俺に渡したハンカチを見て真耶が、可愛い仕草で首をひねっている。
「また変なこと考えてますね…? あ、いえ、そんなハンカチ持ってたかなぁって…」
「ん?」
言われみれば、
『それこそが、貴女の能力だよ。遠岸真耶くん』
「「!?」」
天の声と言わんばかりのエコーが掛かっただみ声が響き渡る。同時に、ローブを着た小柄な人物がどこからともなく姿を見せた。
「その声…、俺たちに世界を救えって言ったのはお前だよな。何が目的なんだよ」
「そもそもあなたは誰ですか。怪しさ全開です。顔を見せてください。それに私の能力ってなんのことですか?」
「質問が多いねぇ。まぁ無理もないか…。名乗れる名前などは持っていないから、今はこう呼んでくれ。—――『管理者』と」
それはそれで胡散臭い肩書きが飛び出してきたな。一体なにを管理するんだよ。そう言われて思い浮かぶ存在は…。
「まさか神さま?」
「ははっ。当たらずとも遠からずといったところかな。勘がいいね遠岸蓮くん。それとも視えているのかい、僕の正体も?」
「…! どうして俺の眼のこと知ってるんだよ」
「なんでだろうねぇ。君のその身体能力と眼はそれぞれ、『
愉快そうに笑う『管理者』。
そんなことを言われても、元々この力は生まれつき持ってしまった病気のような物でスキルとは違う気がする。日常生活では邪魔でしかなかった。というか、いちいち発言がメタっぽいな、この『管理者』様は。
「ふふふ。真耶くんの先程の力は『
「なるほど…。真耶は頭がいいから、使いこなすと凄そうだな…」
「過大評価はやめてくださいね兄さん。それと、そんな強い力を渡してなにをさせようと言うのですか、『管理者』さん」
「いい質問だ!」
ローブをくるりと翻し、『管理者』を称するその人物は、次にこともなげに言い放った。
「君たちは世界を救いたまえ」
「はぁ?」
さっきも聞いた話だ。そんなあっさり言われても、どういう状況で、どうやって救えばいいのかさっぱり過ぎる。
「まあ落ち着いてくれたまえ。順を追って話そうじゃないか」
『管理者』が地面に図を描きながら説明した内容によると、どうやらこういうことらしい。
たくさん存在する並行世界が可能性のあやふやさから崩壊しかけていて、その橋渡しを蓮にやって欲しい。方法は各世界から集められた、あるいは流れ着いた人間と絆を繋ぎなおすか更新する事。だそうだ。
説明を聞かされてなお曖昧模糊としたその話に、正直なところ家に帰りたい以外の感想は出てこなかった。
「まあ、そんな顔をしないで。それに君たちが帰る家はないのだから。慌てることはないさ」
「は? どういうことだよ…?」
「そのままの意味さ。言ったろう、全ての世界が不安定になっていると。つまり、このどこでもない世界〈イグニア〉以外は全て、ほぼ消滅しているというわけだね。だから、君たちの元居た地球も、今は戻ることなどできないのだよ」
なんてこった。俺と真耶の家も、通い慣れた学校も、全て無くなってしまったのか。正確にはこのままだとそうなるって感じだろうけど。
「…仕方ないか。やってやるよ」
「兄さん。私も同じ意見です。やりましょう、帰るために」
ああ。一人なら諦めていたかもしれない。だけど真耶と一緒なら。妹を無事に家に帰すためならば、俺はなんだってやってやるさ。
「では話はまとまったね。君たちにはひとまず好きに動いてもらおうかな。また時を見て、わからないことは伝えていくとしよう」
「待ってくれ。最後に一つ教えてほしい。世界があやふやになっているって言ってたけど、原因はわかってるのか?」
「……ふふ。まぁ、それもおいおいね。それじゃあ二人とも、また会おう」
そう意味深に言い残すと、『管理者』は現れた時のように虚空に消えていった。
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