パラレル∞ヒロインズ ーこれは世界《ヒロイン》を救う物語ー

藤平クレハル

第一章 目が覚めると異世界

 青い空。白い雲。


 こんな天気のいい日は、学校にも行かずにずっと日向ぼっこをしていたいとそう思える程の快晴。頬に触れてくるそよ風が心地いい。


 ん…学校…?


「遅刻だ!?」


 慌てて跳び起きた。確か自分は妹と一緒に学校に向かおうとしていたはず。それがどうしてこんなだだっ広い野原で寝こけているのか。


 よし。自分のことをまず思い出そう。


 俺の名前は遠岸蓮とおぎしれん。年齢は16。伊勢ヶ原いせがはら高校一年生、誕生日は4月7日。愛する妹・遠岸真耶とおぎしまやと今日も仲良く通学しようとしていた。よし、ちゃんと覚えている。


 そしてこれだけ意識がはっきりとしているということは。


「夢じゃない、か」

「兄さん…?」

「真耶!?」


 聞き間違えるはずのない少女の声。振り返ると、自分と同じように事態を飲み込めていない様子の真耶がへたり込んでいた。


「よかった無事だったんだな。真耶に何かあったら俺どうしようかと…」

「過保護なんですよ兄さんは。私も、もう中学二年生なんですからね」


 そう言われても俺にとっては、未だに可愛い小さな妹なのだ。自分が守り抜かなくちゃならない大切な家族だ。そこを譲る気はない。


「で、ここはどこなんでしょうね」

「さあな。どっかの田舎かもな…。見たこともない景色だから、やっぱり夢じゃないんだろうけど」

「なんだか変な声を聴きませんでしたか?」

「変な声…?」


 そういえばなにか聞いた気もする。女性の声ではあったけど、妙にノイズがかかったというか、だみ声というか…。そして、そんな声に言われた言葉があったことも思い出す。


「「世界を、救え……」」


 思わず真耶と顔を見合わせる。まるで意味が分からない。急に知らない場所にほっぽり出された挙句、謎の命令だけ押し付けられるなんて。誘拐されたと考える方が自然だろ。


「ひとまず、家に帰らないとだよな」

「そうですね。でも、道もないのにどこに行くんです…?」

「うーん…。ん?」


 どうしたものかと悩んでいると、不意に視線を感じた。


 気づけば周りには無数の影。


 剣や槍、ボウガンを持った無数の男と、唸り声を漏らす犬のような動物が幾匹も。どいつもこいつもニヤニヤと下卑た笑いを張り付けた顔でこちらを見ている。すぐ近くまで寄られているのにどうして気づかなかったんだ。


「なんだよ、お前ら」

「おうおう勇ましいねぇ。オイおまえら二人ぼっちかァ? 身ぐるみ剝いでやっから感謝しなあ!」

「まったくだぜアニキ。誰かに襲われる前に奪ってもらえるんだからな!!」

「ひゃひゃひゃひゃ!」


 うわぁ。ドン引きするほどありふれた展開が来てしまった。この流れからすると、もしや異世界転移というやつだろうか。初手イベントとしては圧倒的テンプレ感。装備とセリフ的にこいつら盗賊かなにかか。


「ほれほれ、そこの嬢ちゃんは高く売れそうだからなァ。できるだけ無傷で捕まえるとして…。男の方は別にいいや。痩せてて奴隷としても大して役に立ちゃしねえだろうからな~」

「違いねぇ! あひゃひゃひゃ!」


 あ? こいつら今なんつった。


「ちょ、兄さん落ち着いてください!」

「なんだァてめぇ。やる気かよ。女の前だからってカッコつけんnっげぼはぁああああああああああああああ!!?」


 最後まで発言する前に、俺の拳がロン毛の盗賊を彼方の空へ打ち上げていた。


「っ、なんだ!? なにしやがったテメェ」

「殴っただけで人が空飛んだ!?」

「お前ら…。俺の可愛い妹をどうするっつった…?」

「は、何言って」

「頭脳明晰文武両道黒髪ショートスレンダーパーフェクト美少女な俺の愛妹いもうと、遠岸真耶を捕まえてなにをどうしようってんだぁあああああああああ!!!」

「少し黙りましょうこのシスコン兄さんッッ!!」

「いたっ!?」


 魂の叫びを、猛ダッシュしてきた真耶のツッコミに邪魔される。何をするんだ妹よ。正当な主張だぞ。


「こ、こいつ頭おかしいんじゃねえのか!? もういい、畳んじまえ!」

「死んどけゴラァ!」


 盗賊どもが突撃を敢行してくる。数で押してさっさと終わらせるつもりなのだろう、雑でバラバラな攻撃。


 普通ならここで異世界に来た特典でもらったスキルとか使えるのだろうけど、そんな都合のいい力はない。もっとも、俺にはそんなの必要ないけどな。


「真耶、下がっててくれ」

「無茶しないでくださいよ、兄さん!」


 さてと。


 ひとまず先陣切ってきた男を見据え、突き出された槍を掴む。


「な」


 突撃の勢いを殺さず、右足を軸にしてそのまま腰をひねる。スピードを上乗せした全力スピンで一人目を吹き飛ばした。


 間髪入れずに駆け出し、後続の剣持ちに肉薄。武器を振らせる暇も与えずに拳を叩き込んだ。くの字に折れ曲がった人体を放り出し、さらに駆ける。


「ち、近づくな!」


 構えられたボウガンから放たれた矢も遅く感じる。全て見切りかわして、前へ。


「に、人間じゃねえぞ、このガキ!?」

「なんか魔法でも使ってんじゃねえのかよ! こうなったら、秘蔵のコイツで…!」


 後方に控えていたボスらしき人物が小さな箱状のアイテムを構えた。ルービックキューブのような見た目のソレを、両手で中心からひねることで内に閉じ込められた物を解放する。


【aaaaaaaaaaaaaaaaa!】

「!?」


 ドロッとした黒い闇が周囲を満たし、みるみると二つの頭を持った鷲が姿を現した。

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