アリアの過ち 5

 そんな思いで仕掛けた心の罠を……未だ私は解けずにいる……。




 現在。


「そう、これが私の三つ目の過ち。私が始めから余計な事さえしなければ、きっとサーヤと貴方は仲の良い姉妹に戻っていたかもしれない……」


 …………。


 離れた位置で黙ったままこちらに背を向けているミクリ。


「全て私の軽率で身勝手で一方的な判断が招いたこと……」


 …………。


「私は心に仕掛けた罠を解除して、消えるつもりです」


 そう告げたアリア。


 ようやくミクリが重い口を開きました。


「消える……?」


「ええ。死ぬことができるのかは分かりませんが……もう貴方と関わる事がないよう深い場所で眠るつもりです」


「それはアリアの本心なの?」


「……はい」


 すると。


「だとしたら一方的過ぎるよ……」


 振り返るミクリ。


 その目には大きな涙。


「あんな話を聞かされちゃったら、貴方を責める事なんて……できないじゃない」


 駆け寄って来るミクリ。


 そのままアリアの頬にそっと優しく片手を添えて。



「ねえ、アリア。貴方は一つ勘違いをしている。私はね、あの時家族・・に会いに行こうとしたんだよ」



「え……?」



「アリア、貴方の家族に……」



 なんとミクリはあの日の事を……。


 探検に出かける直前の事を覚えていました。


「実は私がミクリになったその日から貴方の存在には気付いていたの。本当は貴方とお友達になりたいと思っていた。でも貴方はいつも泣いていた」


 アリアは心の奥底で「今すぐにでも坊ちゃんに会いにいきたい」という願いを秘めていました。


 ミクリにはそれがすすり泣くような声となって届いていたのです。


 それだけではありません。


 知らない人の名前が次から次へと出てきて。


 その全てを心配しているようだった。


「私は思ったんだよ。きっとこのアリアっていう存在は、家族に会いたがっているんだって」



「――ッ!!」



 言葉にならない思いがアリアの心の奥底から込み上げてきます。


「でも私は貴方のおうちを知らなかった。でも行動せずにはいられなかった。……その先の事は覚えていない。きっと迷惑かけちゃったんだよね」


 ミクリは涙を堪えながら再びこちらに背を向ける。


「ねえ、カレンお嬢様を取り返して色々落ち着いたらサーヤさんに打ち明けようよ。私がクノンだって事。サーヤさんはきっと戸惑うと思うし、私もきっと気まずくなっちゃう。でも私達にとってはそれが最善」


 溢れそうな涙を両手で拭う。


「さっき私とアリアは違うって言ったけど……撤回する。やっぱり私と貴方は似た者同士で一心同体」


 そう言って振り返ったその顔は……。



「ね、そうでしょう?」



 二ッと笑っていたのです。




 それはアリアにとってこの上ない救いでした。


 気付いた時には膝から崩れ落ちていて。


 アリアは泣き叫びました。


 大きな声をあげてわんわんと……。

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