その名はオブリビオン(後編) エピローグ

 二人の動きは常人のそれを遥かに超えている。


 残像が入り混じる程の速さに辺りの空気も擦り切れる――。


 それは互角であると思いきや、圧されているのはミクリの方。



 銃弾の如く目にも留まらぬ速さで飛んでくる拳――。


 刃の如く鋭い足技――。



 防戦一方、受け流すだけで精一杯のミクリ。


 身体を巡る魔力を筋力強化に集中させる。


 そうせざる負えない。



 シンドウの一挙一動、その全てがミクリの先手をっていく。


 動きが完全に予知よまれている。


 まるで未来を支配されているかのように――。


 得体の知れない相手……。


 想像を絶する恐怖がミクリを襲う。



 それはじわじわとミクリを追い詰め……。


 とうとう致命的な隙を見せる事になるのです。



 ゴツン!!



「ッ――!?」



 ミクリの脳天に痛みが走る。


 何か硬い物が降って来た。


 一体何が……?


 それは先程ミクリが天に向けて放ってしまった銃弾。


 なんとシンドウはそれが落下してくるポイントを予知し、ミクリの脳天へ着弾するよう誘導したのです。


 思わず痛みに気を取られてしまったミクリ。


 それは一瞬の出来事――。


 ミクリの人中じんちゅうに音を超えた速度の拳が直撃。


「――ッ!!」



 ドゴオッッッ!!!!



 空を切り裂く威力で殴り飛ばされたミクリ。


 間も無く気を失ってしまいます。



 …………。



 シンドウは息を切らせること無く平然とした様子でカレンを肩に担ぎあげると。


「悪く思うなよ。この子供は俺達にとって必要なんだ。彼女が秘める崩壊と再生オールリセットのオブリビオンが……」


 そう言い残し去っていきます。


 アズサは憂さを晴らすように、倒れ伏すミクリの脇腹に一発蹴りを入れる。


「オラあああ!!」



 ドゴッ!!



「あはははは! いい気味!」


 笑いながらシンドウの背中を追いかけていきました。



 ◇ ◇ ◇



 薄暗い空間に一人ぽつんと佇むカレンの姿が見えました。



「うわああああん! うわあああああん――!」



 カレンお嬢様が泣いている……。


 いかなきゃ!


 走る。


 走って走って走り続ける――。


 でも、お嬢様が遠ざかっていく……。


 どうして……?


 どうして近づけないの……?



 黒い影がお嬢様の背後に忍び寄る。



 !?



 大きな鎌がお嬢様の首をねた――。



 あああああ――。



 お嬢様が……お嬢様が……。



 うああぁぁぁぁぁああああああ――!!



 ――。


 ――――。


 ――――――。




「――ッ!!」




 目を覚ましたミクリ。



 アズサが心配そうに顔を覗かせています。


「あっ! ミクリ! 良かった~。心配したん――」


 その顔を見た途端、ミクリは激昂します。




「アズサああああああ!!」




 手元にナイフを出現させて切りかかります。


「うわあああ!? ちょ、何何々!? 落ち着け! 落ち着けって!!」


 アズサは咄嗟に近くにあった椅子をさすまた代わりにして逃げ回ります。


 しかしここは狭い病室。


 あっという間に逃げ場を失い部屋の角に追い詰められます。


 それに本物・・のアズサはただの普通の人。


 椅子もあっさり破壊され無防備状態。


 まさに絶対絶命の大ピンチです。



「うわああああ!!」



 悲鳴を上げながら目を瞑る。



 その時。



「スリープ!」



 バタッ!!



 という声や音が聞こえました。


 ゆっくり目をあけると……。


 目の前で倒れ伏しているミクリ。


「え、ちょ、どうした?」


 とりあえずナイフを奪って……。


 それから近くにあったテレビのリモコンを手に取る。


 できる限り目一杯の距離をとってリモコンでその頬をツンツン突いてみます。


 ミクリを心配しつつもあんな殺気を見せられては迂闊に近寄る訳にいきませんからね。



「…………」



 息はあるようですが、眠ったまま微動だにしないミクリ。


 アズサは困惑します。


 すると背後から。



「しばらくこのままにしておく事をお勧めします」



 !?



 振り返ると……。


 そこにはミクリと瓜二つの人物が立っていたのです。

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