その名はオブリビオン(後編) 2
2時間前――。
カレンを掻っ攫ったライダーはバックミラー越しにシンドウ達の様子を確認します。
彼らの車はまるで重力が逆転したかのように昇天。
「良かった。まだ起動している。急がなくては」
そんな事を呟くとバイクを一旦停止させ、手元に分厚い手帳を出現させます。
それをパラパラとめくる。
「あった、これだ。それからこれ!」
更に設計図らしき紙を出現させると……。
「オブジェクト変更!」
設計図は消滅し、一人乗り用だったバイクがサイドカー付きに変形。
正面に抱えていたカレンをサイドカーへ移します。
ふと、バックミラー越しでとんでもない光景が見えました。
なんとシンドウ達の車からワイヤーらしき物が生えていて、それを標識に巻き付かせてその場で踏みとどまっているのです。
「嘘でしょう!?」
ライダーは思わず目視。
すぐに目線を戻してバイクを発進させるのでした。
その行先は箱根方面です。
◇ ◇ ◇
バイクはしばらく走り続けます。
今まで睡眠の魔法で眠らされていたカレン。
実は目を覚ましていて、寝たふりをしています。
先程の呪文……「オブジェクト変更!」で目が覚めたのです。
それは自分が今、最も会いたいと思っている人物……。
その人が多用する得意魔法だったのだから……。
でもこの人はミクリじゃない。
フルフェイスヘルメットを被っていて顔は分からないけど、声が違った。
それに雰囲気も全然違う。
この人はわたしの知らない人だ。
誰なのか知らないけど、わたしは未だ誘拐され続けているんだ。
そんな不安から目をパッチリと開けられずにいるのです。
すると。
「安心して欲しい。貴方をお家に帰してあげる」
そう聞こえたのです。
思わず目を開けてそちらに顔を向けると。
「良かった。目が覚めたんだね」
ライダーはシールドを開けて、一瞬だけニコリと目線を合わせました。
凛々しくも柔らかな優しい眼差し。
どことなく
この人はきっと悪い人じゃない。
そう確信するのでした。
◇ ◇ ◇
芦ノ湖の
ライダーはヘルメットを脱ぐと。
やはりその容姿はやはりアキとそっくり。
正確には彼女より一回り程若く見えます。
思わずその姿をじーっと凝視するカレン。
アキとそっくりな少女は気恥ずかしそうに。
「えーっと……。どうかした?」
そう尋ねてきたので。
「あなたはだあれ?」
まず真っ先に知りたかった事を口にします。
「あ、そうか。まだ名乗っていなかったね。私は……」
何故か言葉を詰まらせる少女。
「……?」
カレンが首を傾げると。
「レイ…………」
「レイ……?」
「あ、ああ、そうだ! レイだ! レイにしよう。私はレイだ」
「そっか! わたしはカレンっていうの。よろしくね。レイちゃん!」
「ああ。こちらこそ」
レイはカレンをサイドカーから降ろすと。
「ここにしばらく隠れよう」
そう言って手元に分厚い手帳と杖を出現させます。
「あ! それわたしもできるんだよ! ほら!」
カレンも手元に手帳を出現させます。
ミクリが魔法の授業で教えてくれた出現マジックです。
手帳は未だ真新しさが際立つピカピカなカバー、表紙には四葉のクローバーの絵。
その下には「おなまえ カグラザカ カレン」と書かれています。
まだ5ページ程しかない薄い本。
対してレイが持つそれは何百ページにも及ぶ分厚い本。
更にカバーは茶色く変色しています。
でも、表紙に四つ葉のクローバーがプリントされているのがチラリと見えました。
「あ! わたしとおそろいだね。わたしのはねー、ミクリにもらったんだよ! さいごのページにおえかきしたら魔法でページがふえるんだよ!」
「へ、へー、そ、そうなんだ~。あははは……」
なぜかレイは嬉しそうではありません。
以前、ミクリがお部屋の花瓶を落として割ってしまった事を隠していた時の笑い方と似ています。
「もしかしてわたしとおそろいはイヤ?」
「え、あ、イヤじゃないよ。私も嬉しいよ、うん。と、とにかく今は一旦隠れよう。……レイテント!」
手帳を片手に杖を振るレイ。
辺りの空気がもやもや~ってなって、いつの間にか薄暗い空間にワープしました。
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