メイド長への手紙 エピローグ
幻が消滅し……。
サーヤとミクリは綺麗な夕焼け空に照らされます。
いつの間にか雨はすっかり止んでいました。
ミクリは横たわるサーヤの隣で、空を見上げるように仰向けに寝転がると。
「ねえ、メイド長。もう起きているんでしょう?」
「あ、バレました?」
サーヤは天を仰いでテヘっと笑みを浮かべます。
「よく言うよ。あんなにド派手な洗脳魔法を披露しといて……」
あの時、方向転換された蘇生弾は運よくサーヤの損傷部分に着弾しました。
お陰でサーヤは意識を取り戻していたのです。
「今更ですけど……。あそこで寝ている彼女、目ん玉えぐっちゃって良かったんですか?」
ミクリは少女に視線を向けます。
彼女はサーヤの妹ではありませんでした。
サクマという男に魅入られて、その身も心も捧げてしまった哀れな存在……。
ウィザードいう幻想にまで手を出して……。
結果、サーヤとミクリによって報復を受けました。
それでも彼女はウィザードの効力により、すぐに死ぬことは無いでしょう。
しかし、完全に消滅した部位は魔法でも復活させることはできません。
彼女はこの先……。
一生、失明したままなのです。
サーヤは懐から手紙が入った封筒を取り出すと。
「ええ。問題ありません」
真っ二つに破ります。
「ところでメイド長?」
「なんでしょう?」
「クノンって誰ですか?」
「そうか……。貴方には話していませんでしたね」
サーヤは四葉のクローバーを天に掲げて見つめます。
「私には年の離れた妹がいるんです。とっても大切な妹が。今はどこにいるのか分かりませんが……」
そして遠き日の思い出を語り始めるのでした。
いつか本当の再開ができることを信じて……。
◇ ◇ ◇
あの日――。
サーヤの両親が殺害されたあの時。
「うええええん! お姉ちゃーん!」
戸棚に隠れて泣き続けるクノン。
「うええええん!」
周囲に煙が立ち込めて、身体もどんどん熱を帯びていきます。
「助けてー! お姉ちゃん!!」
この時、クノンの頭の中に声が聞こえました。
――いで……。
「え?」
泣かないで……。
貴方もお姉さんも必ず助けてあげる……。
クノンの意識は途絶えます。
そして――。
!?
クノンはまだ生きていました。
「あれ……?」
「あっ! 起きた?」
若い女性がほほ笑みます。
ワンピースの上に花柄のエプロンを身に着けた可愛らしい人。
「あなたはだあれ?」
「私はこの施設でボランティアをしているモクレンっていうの。あなたのお名前は?」
「……?」
クノンは思い出そうとしますが、何も思い出せません。
そう……何もかも、自分の名前すらも分からないのです。
それを悟ったモクレンはクノンの手をぎゅっと握りしめます。
「きっと大丈夫……」
その手はとても温かくて、不安だったクノンの心はなんだか軽くなっていく様でした。
でも、モクレンは少し困り顔を見せます。
「せめてあなたのお名前だけでも分かったら良いのだけれど……」
クノンが身に着けていた物を調べるモクレン。
「あっ、これって……」
フェルト生地で紺色の帽子、おそらく幼稚園帽です。
その裏に……。
『■■ミ クノ■』
「ミ……クノ?」
所々が
「うーん……。あ! そうだ!」
モクレンは閃いたようにパンと両手を合わせます。
「ミクリ! あなたの名前はミクリにしましょう」
「みくり……?」
「そうよ。ミクリっていうのはお花の名前なの」
「おはな?」
「とても儚くて……でも神秘的なお花。あなたにピッタリだと思うのだけど……どうかな?」
すると……。
「うん! わたしミクリ!」
その女の子はニッと笑うのでした。
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