メイド長への手紙 9

 頭から勢いよく血液を噴き出して……。


 少女は激しく床をのたうち回ります。


「ぎゃあああああ!!」


 被弾したのは蘇生弾。


 直撃しても死ぬことは無いのですが、少女は今なお意識を保っているのです。


 とっくに気を失ってもいいはずなのに……。


 しかも洗脳も解けていない様子。



 実は先ほど……。


 少女の額に着弾する瞬間。


「ベクトル変更!!」


 少女は咄嗟に魔法を使って銃弾の進行方向を変えていました。


 脳に到達することなくダメージを最小限に留めたのです――。



 さらに細胞再生が働いて……。


 少女の額の傷がみるみる塞がっていきます。


「ぎゃああああ……あ、あれ? 治った!」


 痛みも消えます。


「よく分かりませんが助かった……」


 少女はミクリの方を見ます。


 さっきの踵落としが余程効いたのか、未だに上手く立ち上がれない様子でフラフラしています。



 チャンス!



 そう思った少女は床に転がる包丁を拾いに行きます。


 ミクリにトドメを刺す為です。


 その時――。


「ベクトル変更」



 !?



 少女は驚愕します。


 何故なら……。


「な、なんだ今のは……!? 私の口が勝手に――ッ!?」


 そして――。


「ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更……」


 少女は何度も同じ言葉をリピートします。


 自分の意思とは関係なく。


 何度も何度も……。


 まるで壊れたラジカセの如く同じ呪文を何度も何度も……。



 それと連動するように包丁が空中でぶるぶると激しく振動します。



 少女は両手で必死に口を押えますが。


「ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更ウエイト変更ベクトル変更……」


 少女が放心寸前になった時、ようやく声が止まりました。


「な、なんだったんだ今のは…………!? スケール変更」


 またしても勝手に口が動きました。



 包丁が親指程のサイズまで小さくなります。



 さらに――。



「オブジェクト変更。……え? な、何!?」


 今度はミクリの口が勝手に動くと、包丁が2本に分裂します。



 最後にミクリと少女、2人の声が同時に響き渡ります。


「スピード変更!」

「ベクトル変更!」



 次の瞬間!



 ドシュッッッ!!



「ぎゃあああああああああ!!」




 えぐるような生々しい音と共に唐突に叫ぶ少女。


 必死に両目を押さえます。


「わ、私の目があああああああああ!!」


 その両目からは大量の血液が噴き出します。


 包丁は想像もつかない程のエネルギーを蓄えて……。


 光の速さで少女の両目を貫いたのです。


 ウィザードの影響もあってしばらく悶えていましたが。


 今度こそ少女は気を失いました。

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