サーヤの因縁
ミクリの放った蘇生弾によって一命は取り留めたものの……。
しばらくの間、入院が必要との判断になりました。
さて、病室のベッドで横たわるサーヤの元へアキが訪ねてきました。
「調子はどう?」
「お姉様、そんな気を遣って頂かなくても……」
身体を起こそうとするサーヤ。
アキはすぐにそれを制止します。
「そのままでいいわ。貴方はいつもそうやって頑張ろうとするんだから」
「申し訳ありません」
「それで? 貴方の事だから当然、敵の情報は掴んでいるのでしょう?」
アキが言う
サーヤは天井に視線を向けたまま口を開きました。
「やはりサクマが絡んでいました」
「あちゃ~。じゃあ、予感的中かー」
アキは残念そうに額へ手を当てます。
少し過去の話をしましょう。
サーヤの家系『ミカミ』は代々、魔力から薬を精製する技術を有していて……。
「ミカミの薬は万能薬」
そう言われていた時代がありました。
全盛期にはおよそ八千人の社員を抱えていた程……。
まさにミカミ製薬は誰もが知る大企業だったのです。
そんなミカミ製薬には優秀な幹部がいました。
その人物の名はサクマ。
サーヤの父親とは古い中で、薬を大量生産させる技術を得意としていました。
ある日を境に、サクマは暴走するようになります。
当時開発中だった新薬……。
その実験台に生身の人間を使っていたのです。
始めは身寄りのないホームレス。
次に家出中の未成年。
それから終末期患者。
さらに社内であまり目立たない独り身の社員。
最後には自身の妻にまで手をかけて……。
その事実が公になった頃には既に多くの犠牲者が出ていて。
彼の実験台になった人物は例外なく皆この世を去りました。
死因はどれも血液逆流による心臓麻痺だったそうです。
この時、サクマは逮捕と同時に解雇処分される事となり。
サーヤの両親も責任をとってミカミ製薬を去る決断を取りました。
しかし――。
送検中だったサクマは未知の魔法を使って逃亡。
サーヤの両親を殺害し、まんまと逃げおおせたのです。
これがサーヤとサクマの因縁の始まりです。
その後、サーヤはアキの家であるアリスガワの養子となって。
そして嫁いだアキに付いてくる形でカグラザカへやってきました。
以来、旦那様|(カグラザカ)の力も借りてサクマの行方を追っているのです――。
さて、話を現在に戻しましょう。
天井を見つめたままのサーヤ。
「ウィザードはサクマが……いえ、発端はミカミが生み出したものです。私は……」
少なくともウィザードにはミカミの技術が使われている。
その事実は既に分かっていました。
責任感の強いサーヤにとって、自身の身体に流られる血筋が……。
自身の両親が死してなお、人殺しや犯罪と結びついている事が許せないでいるのです。
アキはそんな思いをくみ取って、ある事実を述べます。
「そう言えば先日、あの人が貴方に渡した物があったじゃない?」
「蘇生弾のことですか……?」
「そうそれ! なかなか重宝してくれているそうじゃない。まあ、使っているのはミクリなんでしょうけど」
「ええ、まあ。まさか私自身が直接あれの恩恵を受けるとは思ってもみませんでした」
まだ若干の痛みは残るものの、塞がった自身の傷口へ手を当てます。
「実はあれね……。貴方のご両親の形見なのよ」
「………え!? ――痛ッ!!」
サーヤは驚きのあまり傷口へ負担をかけてしまいました。
「ちょっと、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。そんな事より一体どういう事ですか? 蘇生弾は旦那様が下請けの研究施設に作らせた物だって言ってましたよね」
「そうね。でもあくまでそれは形にしたってだけの話。製造方法に関するデータは貴方のお父様の遺品に紛れていたUSBメモリから拝借した物なのよ」
「ちょっと、待って下さい! 何故、旦那様が父の遺品なんて持って……ま、まさか!?」
サーヤは勘付きます。
「はいストップ!」
アキはすぐさまサーヤの唇に人差し指を当てました。
それを払いのけるサーヤ。
「お姉様は知ってるんですね!? クノンの居場所を!」
「ええ、知ってるわ。でも教えない」
「何故!?」
食い入るように顔を近づけるサーヤ。
「ちょ、近い近い。だって、今の貴方にそれを教えてもあまり意味が無いというか……。クノンちゃんの為にならないというか……」
これ以上は埒が明かないと感じたサーヤ。
アキの頭の中を覗こうと集中します。
すると透かさずデコピンを食らいました。
「こら、そうやってすぐ答えにたどり着こうとするのは貴方の悪い癖よ」
「私には時折お姉さまの考えていることが分かりません……」
「まあ、そう言わないで。それで? サクマの居所は分かっているの?」
「怪しい場所がひとつ」
サーヤは魔法を使ってアキの脳内へその時の記憶を流し込みます。
「ああ、前に口頭で報告してくれたやつね。なるほど、確かにここはかなり怪しいわね」
うんうんと頷くアキ。
続けて口を開きます。
「それにしても、貴方とミクリは本当に息がぴったりね」
「私とミクリが?」
「あら、なんだか不満そうね」
「ええ、不満です。あの子はメイドとしての自覚が足りていないのです。いつも私の足を引っ張ってばかりで……」
「でも、今回は助けられたのでしょう?」
「そ、それは……。まあ」
「ミクリにお礼はしたの? いくら貴方が上司だと言っても助けてもらったのなら、きちんと部下にお礼はするべきよ」
「……いえ、まだです」
ボソッと答えるサーヤ。
その言葉を聞いてアキは両手をパチンと合わせます。
「じゃあ決まり! 貴方はこれから治療に専念しながらミクリへのお礼を考えること。決めたら適当な部下を使ってそれを手配して良いわよ」
サーヤは溜息を吐きます。
透かさずアキはビシッと指を差しました。
「いま貴方、面倒くさいって思ったでしょう!? これは貴方の為なのよ! それから条件を2つ付ける!」
それは次の通りです。
・ミクリにはサプライズでプレゼントをする。
・必ずサーヤが直接ミクリへ手渡しをする。
「分かった?」
一見簡単そうに思えますが、サーヤは中々首を縦に振りません。
かつてミクリが優秀な諜報員だったことを知っているからです。
現に、
今度はしびれを切らせたアキが溜息を吐きます。
「まったく、貴方の完璧主義はたまに度を越しているのよね。まあ、いいわ。負けるのが恐いのならやらくても……」
「負ける? この私が? でしたらこの勝負、受けて立ちましょう」
なにやらサーヤの負けず嫌いなスイッチが入ってしまったようです。
「そうこなくっちゃ! じゃあ、こっちの件は私が預かるから……貴方はしっかり養生しなさいね」
アキは人差し指で自身の額を指差します。
それは先程サーヤから流れ込んできた記憶……敵の手掛かりを指しています。
「分かりました」
サーヤはそれだけ言うと、部屋を後にするアキを黙って見送りました。
本当は私事に巻き込みたくは無いのですが、分かっているのです。
そんなの言うだけ野暮なのだと……。
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