メイド長への手紙 6
話しは現在に戻ります。
手紙に書かれていた『あの時一緒に暮らした場所』とはおそらくサーヤの実家だった場所を指しているのでしょう。
カグラザカのお屋敷からは南西へ30km程度下ったY市に位置しています。
とても立派な和風建築の豪邸でした。
もちろん過去の話です。
そこはかつて火事によって全焼。
現在は更地となっています……。
そのはずなのですが……。
「お客さん、到着しましたよ」
「ありがとうございます。……え? どうして……!?」
目的地へ到着したサーヤは驚きます。
タクシーの窓ガラス越しに見えたその光景はかつて自身が住んでいた豪邸そのもの。
今は無きはずの実家が確かに存在していたからです。
サーヤは運転手へ料金を支払うと、表に出ながら傘を差します。
未だ降り続ける雨。
ザーザーと周囲の音を全てかき消すほどの強い轟音。
でもサーヤの心臓の高鳴りはそれすらもかき消す程でした。
きっとここにクノンがいる……。
私がずっと……ずっとずっとずっと会いたかった妹がここにいる!
もはや心の中には実家がかつてのまま存在していることに対する疑問は薄れていました。
インターホンを押すと、しばらくして玄関の扉が開きました。
「お姉ちゃん……?」
出てきたのは一人の少女。
白のシャツに淡い桃色のロングスカートを身に着けて……。
清楚感あふれるその人物は、まさにサーヤがイメージしていた通りの人物でした。
「クノン……? 貴方、クノンなのね!?」
尋ねるサーヤに対して、少女は笑みを浮かべながらコクリと頷きます。
「クノン! クノン……ずっと、会いたかった!」
サーヤは駆け寄ると、最愛の妹を強く抱きしめるのでした。
◇ ◇ ◇
感動の再開を果たしたサーヤとクノン。
姉妹は紅茶を啜りながら居間で談笑をしていました。
「それにしてもあんなに小さかった子が立派になって……」
サーヤは懐から取り出したロケットペンダントの蓋を開いて中身の写真とクノンを交互に見比べます。
「ちょっと、お姉ちゃんこれで何度目?」
写真の中の女の子は四葉のクローバーを大事そうに手に持って、無垢な笑顔を向けています。
「あはは……ごめんなさい、つい。ところでクノンは魔法の腕は上達した?」
「え? 魔法……? うーん、まあまあかな」
「へー、そっかそっか。そういえば昔、お姉ちゃんみたいになりたいって言ってくれたっけ……。あの時は嬉しかったなあ」
「そうそう、あの頃のお姉ちゃんは何でも魔法でちゃちゃっと解決して、私の憧れだったんだよ」
と、クノンは笑顔で返答しました。
ですが……。
この言葉にサーヤは少し違和感を覚えました。
あれ? 私ってクノンの前でそんなに魔法を多用してたっけ……?
「どうしたのお姉ちゃん?」
「へ? あ、いえ、ごめんなさい。ところでクノン、貴方いまも四葉のクローバーは好き?」
「うん、もちろん好きだよ」
よかった……。やっぱり私の思い過ごしだった。
「昔、クノンがくれた四葉のクローバー、実はまだ持っているの」
「え! あれまだ持ってるの? でも嬉しい! あれ探すの苦労したんだよ。ほら、クローバーって三つ葉は沢山あるけど四葉って滅多に見つからないでしょう?」
!?
なんだか自身の記憶と嚙み合わず、サーヤは困惑します。
「クノン……。貴方何を言って……?」
「え? 何? お姉ちゃんこそどうしたの?」
「どうしたもこうしたも、貴方が私にくれた四葉のクローバーはこれでしょう?」
サーヤが懐から取り出したのは折り紙で作られた四葉のクローバー。
「…………」
黙り込むクノン。
途端にサーヤは我に返ったようにゾッとする恐怖を覚えます。
「ねえ、この場所は一体なに? 私達が住んでいた家はあの日、燃えたはず……。それがどうして無傷のまま存在しているの?」
「…………」
黙ったままのクノン。
サーヤは遂に考えたくなかった質問を投げかけます。
「貴方は……本当にクノン……なの?」
それを聞くなりクノン? は両目をカッと見開くと冷たい声で言い放ちます。
「あーあ、もうばれちゃったよ。流石はカグラザカの犬だな」
「貴方いったい……」
「だが、もう遅い!」
ザシュッッッ!!!!
――ッ!?
突如サーヤの腹の中から包丁が突き破って出てきます。
「ガハアアアッ!!」
吐血と共に床に膝を付くサーヤ。
「ど、どう……して……? あなた……は……クノン……では……ない……の?」
「はあ? お前まだそんなこと言ってるの? 脳みそお花畑なんじゃねーの? キャハハハハ!」
先程までクノンを名乗っていた少女はふと足元を見ます。
「あ?」
視界に入ったのは折り紙で作られたクローバ……。
そう、サーヤの宝物である四葉のクローバーです。
「あ、そうそう。一つ訂正しておくけど……実は私この世で一番! これが嫌いなのよね!!」
少女は
「幸せ? くだらない! 私はこういのを見ると虫唾が走る! 私はね……他人の不幸が……だーい好きなの♡」
少女は包丁を拾い上げると……。
屈んだままの状態でサーヤの髪を鷲掴み、頭を引っ張り上げます。
互いの目と目が合った時――。
サーヤは勘づきました。
「サクマぁああああああ!!」
怒声を放ちます。
自身が瀕死の状態である事も忘れて。
「ゴホおおおお!!」
そして大量に吐血。
そんなサーヤを見つめながら少女は笑みを浮かべます。
「ふっ、そうか気付きましたか! ああそうだ! 今この女を操っているのは
今この少女の中に潜んでいるのは、サクマという人物。
そう、サーヤがずっと追っていた
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