メイド長への手紙 1

 カレンは廊下の窓から外を見つめてつまらなそうに頬を膨らませていました。


「ぶー! つまんなーい!」


 ザーザーと降り続ける雨はその勢いをどんどん強めているようでした。


 時折ピカっと光ると凄まじい轟音が響きます。


 その度にビクッとしては、左右の耳を塞ぐように手を当てます。


 そんな様子を見てふふっと笑うミクリ。


「こんなお天気の日はおうちでじっとしているのが一番ですよ。さあ! カレンお嬢様、私とお昼寝の時間にしましょう」


 手を差し伸べます。


 でもカレンは冷ややかな目でミクリを睨みました。


「眠くないもん」


「でもお昼寝の時間は大事ですよ」


「たしかにお昼寝の時間は大事。わたしだってレディだもの。それは分かっているの。でも……」


「でも?」


「まだ朝の9時だからね! 朝! さっき起きたばかりよ! それなのになんですぐ寝いといけないの!?」


「う……。そ、それは……」


 5才児に正論を叩きこまれるミクリ。


 思わずたじろぎます。


「もう……。どうせまた夜ふかしをしたのでしょう?」


「なぜそれを!?」


「ん!」


 カレンは最近覚えた手品で瞬時に手鏡を出現させると。


 それをミクリの目元に向けました。


「うわ、これまた大きなクマさんが一匹、二匹」


 ミクリは鏡に映った自身の顔と対面し、今更ながら寝不足感まるだしだった事に気が付きました。


「ふあぁ」


 思わずあくびも出てくる始末。


「もう! ミクリったら、真面目にやってよね!」


「ごめんなさい。ところでお嬢様」


「なに?」


「いま手鏡を出したやつ、腕を上げましたね」


「もー、わたしはとても怒っているのだけど。こんなタイミングでほめられたってべつに嬉しくないんだから!」


 そう言いながらもカレンの表情はとても嬉しそうです。




 ミクリは両手をパンっと合わせます。


「そうだ! こういう時は紙ひこうきでも作りましょう」


「うん! やる!」


 賛同するカレン。


 ミクリは折り紙を手渡します。


「お嬢様、せっかくなのでどちらがより遠くに飛ぶか競争しましょう」


「いいよ! でもミクリ?」


「なんですか?」


「ミクリが持ってるのはなあに?」


「これですか? 壁掛けカレンダーの先月分を破ったやつです」


 ミクリは平然と答えました。


 カレンは自身が持っている折り紙とミクリが持っているカレンダー(先月のやつ)を見比べます。


「ずるい! なんでわたしは小さい紙でミクリは大きい紙なの? そっちの方がいっぱい飛ぶ気がする!」


「お嬢様、紙ひこうきに大きいも小さいもありませんよ。大事なのは作り手の愛情と技術力です」


「だったらそっちがいい! わたしは愛情と……ぎじゅちゅりょく? をそっちにするって決めたの!」


 カレンは技術力・・・と上手く発音できないようです。


 ミクリは思わず……。



 やだ、この5才児かわいい!



 と感じましたが、声に出すとムキになって怒りそうなので心の中だけに留めました。


「ええー、でも私のは先月のやつですよ。雑紙ざつがみですよ」


「いいの! 交換して!」


「お嬢様ってなかなかの負けず嫌いですよね」


 ミクリはとうとう圧に押し負けて、互いの紙を交換することにしました。

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