メイド長への手紙 2

 二人の紙ひこうきが完成しました。


「お嬢様、せーので揃って投げますよ」


「うん!」


「「せーの!」」


 大小異なる紙ひこうきが同時に主の手を離れます。


 それは二つ仲良く並んで飛んで、まるで空気の上を泳いでるかのよう。


 改めて見ると、この長い廊下は紙ひこうきを飛ばすには最適な場所だと感じさせます。


 さて、片方だけが降下し始めました。


 カレンが作った大きな紙ひこうきです。


 間も無くぽとっと床に着地しました。


「ああ~! わたしのひこうきが落ちちゃった~!」


 一方、ミクリの紙ひこうきは降下しながらもまだまだ前進していき……。


 やがて突き当りの壁に当たって落下しました。


「私の勝ちですね」


「ずるい! ミクリ魔法使った!」


 カレンは悔しそうにミクリへ指を差します。


「使ってません」


「ぜったい使った! ずるい!」


 これでは売り言葉に買い言葉。


 ミクリはやれやれと溜息をつくと、パチンと指を鳴らして手のひらに折り鶴を出現させます。


「お嬢様、魔法を使うっていうのは……ふっ!」


 息を吹きかけると凄まじい勢いで飛んでいく折り鶴。


 バシッ!!


 すぐさま突き当りの壁まで到達しました。


「こういう事を言うんですよ」


 ミクリは得意顔を見せます。


「!?」


 目を大きくまん丸にするカレン。


 あまりに思い通りのリアクションだったので、ミクリはちょっぴり嬉しくなります。


「すごい! もう一回やって!」


 どうやら5才児のツボにばっちりハマったようです。


「仕方ないですね。もう一回だけですよ」


 こんな時、すぐ調子に乗ってしまうのはミクリの悪い癖です。


 再び折り鶴を出現させて息を吹きかけました。


 勢いよく発射する折り鶴。


 その時――!


 突き当りの曲がり角から人が現れました。


 サーヤです。


「あっ! 危ない!!」


 咄嗟にミクリが叫ぶも時すでに遅し――。


「へ?」



 バシッッッ!!



「痛っ!!」



 ドゴッ!!



「んがあああ!!」


 額に凄まじい威力の折り鶴を食らったメイド長、後頭部を壁に強打!


「あ゛あ゛あ゛あ゛~!!」


 頭を手で押さえながら、のたうち回ります。


「うわ、やべ!」


 青ざめた表情で頭を抱えるミクリ。


 どうしたらいいのか分からないカレン。


 思わず視線はミクリとサーヤを行ったり来たり……。


 サーヤは間も無く起き上がると……。


 ミクリを睨みます。


「ミ~ク~リ~!」


「ご、ごきげんようメイド長。よっ! さすが石頭いしあたま!」


「ミクリー!!」


 猛ダッシュしてくるサーヤ。


 あまりの剣幕に――。


「ひぃいいい! ごめんなさーい!!」


 ミクリは思わず逃げ出すのでした。



 ◇ ◇ ◇



 廊下をキョロキョロと見渡すサーヤ。


「まったく、ミクリのやつ~! 相変わらず逃げ足が速いんだから!」


 すると対面から部下のアズサが歩いて来ました。


「あ、メイド長!」


「アズサ、あなたミクリを見ませんでしたか?」


「え、ミクリですか? 見てないですね」


「そうですか……」


「あいつ、また何かやったんですね。……ところでメイド長に手紙が届いていますよ」


 アズサは一通の封筒を手渡します。


 それは花柄の可愛らしい封筒。


「手紙ですか……? 誰からでしょうか?」


 手にした封筒を裏返すと……。


「!?」


 サーヤは驚愕します。


 何故ならそこには……。


「なっ!? クノンですって!?」


 死に分かれたと思っていた妹の名前が書いてあったのですから――。

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