メイド長への手紙 プロローグ
少女は驚愕しました。
学校から帰宅すると、居間には血まみれで倒れ伏す男性。
その姿を視界に捉えた少女はすぐに駆け寄ります。
「お父さん! ねえ! お父さん! お父さん!!」
何度その身体を揺すっても、少女の父親は返事も無ければピクリとも動きません。
全身をズタズタに切り刻まれ、既に生き息絶えていたのです。
周囲を見渡す少女。
「お、お母さん!?」
今度はすぐ側に倒れ伏す女性に気付いて駆け寄ります。
「起きてお母さん! お母さん! お母さん!!」
少女の母親も全身が引き裂かれ、もう息はありません。
「どうして! どうしてこんな事に!!」
次の瞬間、少女の背中に激痛が走ります。
「!?」
背中に突き刺さっているのは一本のナイフ。
全身の力が抜け落ち倒れ伏す少女。
意識がもうろうとする中……ふと誰かの泣き声が聞こえました。
「うええええん! お姉ちゃーん!」
良かった……。あの子は無事みたいだ。
少女の周囲は轟轟と燃える炎で包まれます。
誰かが少女の家に火を放ったのです。
あの子が泣いている……。行かなきゃ……。
「うええええん!」
身体が動かない……。
あの子だけでも助けなきゃいけないのに……。
「助けてー! お姉ちゃん!!」
一人にしてごめんね……苦しいよね……熱いよね……。
今お姉ちゃんが助けてあげるからね……。
私の身体、動いて……動け……動け動け動け動け動け!!
少女は必死に心の中で叫びます。
だけど身体は動いてくれません。
手足の感覚はもう無くて……。
どんどん寒さが増していきます。
周囲は炎と煙が立ち込めているというのに……。
本当は熱いはずなのに……。
まるで心と身体が離れてしまったかのよう。
少女の目からは涙が流れます。
ごめんね……。ごめんね……。不甲斐ないお姉ちゃんでごめんね。
ずっと大好きだよ。
私の大切な妹…………クノン。
――。
――――。
――――――ッ!?
目が覚めるとそこはベッドの上でした。
「夢……?」
サーヤは額からじんわり溢れる汗を手の甲で拭います。
彼女はカグラザカという名家のメイド長を務めています。
普段から夢はあまり見ない方なのですが……よりにもよって見た夢は苦い過去を思い出すものでした。
カーテンの隙間から差し込んだ月明りがベッドのサイドテーブルを照らします。
そこには一つのロケットペンダント。
サーヤはそれを手に取り蓋を開けると中身の写真を見つめます。
とても切なく、何だか悲しそうな眼差しで――。
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