カレンのサプライズ大作戦! 下
あれやこれやとしているうちに……。
「できたー!」
カレンの手作りブローチが完成しました。
それはビーズで作った四葉のクローバー。
自身の手に乗せじーっと見つめるカレン。
お手本に比べると少しだけ
「お疲れ様です。……そうだ! せっかくのプレゼントなのでラッピングもこだわりましょう」
「うん!」
可愛いチェックの袋に入れて、可愛いリボンで封をして……たくさんの可愛いが詰まったプレゼント。
「どう?」
「バッチリ!」
アズサは親指を立てました。
あとはこれをミクリに渡すだけです。
工房室のお片づけを済ませて離れを出ると、丁度お屋敷の門をくぐって帰って来たミクリの姿が見えました。
「あっ! ミクリー!」
カレンは背中にプレゼントを隠しながら駆け寄っていきます。
その姿に微笑むミクリ。
「お嬢様、今日一日お利口にしていましたか?」
「うん! ミクリの方こそちゃんとお利口さんにしてた?」
「私は常にお利口さんですよ。あっ、そうだ! お嬢様にお渡ししたい物があるんです」
そう言って懐から取り出したのは手のひらサイズの髪留めでした。
それを受け取ったカレン。
「これは……?」
キョトンとします。
本当は自分がプレゼントを渡すつもりだったのに……。
予想外の出来事にカレンは困惑します。
「私からのプレゼントです。実は今日、ガラス工房に行ってたんです。そこで好きな物を作って良いと言われて……頑張って作ってみました」
二人の様子を傍から見守っていたアズサ。
あちゃ~。
と言わんばかりに自身の額に手を当てます。
それもそのはず。
だってその髪留めに施された装飾は……宝石のように光り輝くガラスでできた四葉のクローバーだったのだから。
「…………」
カレンは思わず口を
それはあまりにも美しすぎるプレゼント。
対して自分が手に持つこれは、歪で不格好な子供の手作り。
ミクリはこんな物貰っても喜んでくれないのではないか……?
「ありがとうミクリこれ大事にするね」
それだけ言ってカレンは走っていってしまいます。
とうとうカレンはプレゼントを渡すことができませんでした。
どうやら気後れしてしまったようなのです。
一方でミクリは相手の反応が期待よりも薄くて困惑します。
「お嬢様? どうしちゃったんですか!?」
一部始終を見ていたアズサは思わずミクリへ説教です。
「ミクリ~、あんた空気を読みなさいよ!」
「へ? なに? どうしたの?」
「馬鹿! 鈍感!」
そう言ってアズサはカレンを追いかけて行きました。
ミクリだって良かれと思ってやった事。
互いが互いにサプライズプレゼントを計画していたなんて……。
ましてやプレゼントの内容が被っているなんて知る由もありません。
彼女の立場で考えれば少々理不尽な気もしますが……。
先ほどカレンが可愛いラッピングを手に持っていたのはミクリの目からも丸わかりでした。
それにカレンがソワソワしていた様子も気にするべきで……。
やはりミクリが全面的に悪いということでこの場は治めてもらいましょう。
◇ ◇ ◇
すっかり日も落ちて、薄暗い工房室の隅に座り込んで落ち込むカレン。
大好きなミクリから貰ったプレゼント。
本当はとっても嬉しいはずなのに……。
それに、せっかくアズサが手伝ってくれたプレゼントもミクリへ渡せなかった。
そこへ白猫がやって来て、カレンの懐へ飛び込みます。
「みゃあ」
「ねえクロ……わたしね……アズサとミクリに失礼なことしちゃった」
カレンは先ほどミクリから受け取った髪飾りを目の前に置きます。
それから持っていたラッピングの封を開けて、中身のブローチを隣に置きました。
一方は光り輝く美しいガラス細工。
かたや不格好なビーズの飾り。
同じ四葉のクローバーのはずなのに……。
きっとわたしが作った方は不幸せのクローバーだ。
二つのクローバーを見比べて……カレンの心のモヤモヤはますます募っていくばかり。
その理由も分からなくて……。
モヤモヤはもっとモヤモヤになってしまいます。
「クロ……わたしどうしちゃったのかなあ……ねえ……わたし……どうしたらいい?」
すると。
「みゃあ!」
白猫はカレンが作ったブローチを咥えて駆けていきます。
「あ! 待ってー!」
カレンは髪飾りを拾ってすぐにクロを追いかけます。
離れから飛び出すと、目の前にはミクリの姿。
「あ、ミクリ……」
思わずカレンは目を逸らしてしまいます。
「お嬢様……」
ミクリはその場で屈むとカレンの片手をそっと包み込むように、自身の両手で握ります。
「これ、お嬢様の大切な物でしょう?」
カレンの手にはビーズのブローチ。
つい先ほどクロが咥えていってしまった物です。
「どうしてミクリが持っていたの?」
「さっきクロが走って来て、私の目の前で落としていったんですよ」
「そうなんだ……」
「そのブローチ、どうされたんですか? とっても可愛いので私も欲しいなあって思って……」
「可愛い?」
「ええ、とても」
それを聞いたカレン。
なんだか嬉しくなって。
「じゃあこれ! ミクリにあげる!」
「え? いいんですか!?」
「うん! だってこれ、わたしがミクリにプレゼントしたくて作ったの!」
「お嬢様……」
「なに?」
感動のあまりミクリの目からは大粒の涙が溢れます。
「うわあああん! お゛嬢゛様゛~! ありがどうございまずー!!」
心の底から大喜びするミクリの姿に、カレンの表情がぱあっと笑顔に変わります。
「……うん! わたしの方こそ! ミクリ、大好き!!」
カレンはミクリの胸に飛び込みます。
少し離れた所でアズサはその様子を見守っていました。
「お嬢様、プレゼント喜んでもらえて良かったですね」
そこへ白猫がやって来て、彼女の足へ頬を摺り寄せます。
「みゃあ」
「クロ! あんたに言いたいことがある」
「みゃあ?」
「グッジョブ!」
アズサは親指を立てました。
「みゃあ! みゃあ!」
白猫はアズサの足へバシバシと猫パンチを繰り出します。
「何? 報酬が欲しいって言いたいわけ?」
「みゃあ!」
「よし、じゃあ今日はとっておきの高級キャットフードを出しちゃう! 私についてきなさい」
「みゃあ!」
食糧庫へ向かうアズサの後をトコトコついていきます。
白い毛並みの雄猫、クロ。
彼はアズサの良き相棒です。
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