カレンの願い エピローグ

 間も無く、ミクリ達がいる倉庫へカグラザカ後始末隊がぞろぞろやって来ました。


 因みに全員がメイド長の部下達です。


「これは、また派手にやってくれたものだなミクリ」


 声を掛けてきた女性は隊のリーダー、トウコです。


「でも見て! この人達みんな、生きてるんですよ」


 腰に手を当て、エッヘンと言わんばかりのミクリ。


「おっ、いいねえ。助かるよ、隠ぺい工作だって楽じゃあないからね」


 上機嫌にミクリへ賛辞を送りました。


 今回は現場状況を極力そのままに警察へ通報し、容疑者の身柄を引き渡す方針を取るようです。


 因みに隊の中には洗脳魔法に長けた者もいて……。


 カタギリが使った蜘蛛の洗脳陣は跡形もなく消し去られました。


 (もちろん八百屋のおじさんの元にも後始末隊が赴いて、洗脳は無事に解除されました)



 因みにカタギリについては……。


 逃げられないようしっかり拘束した上で、うなじと胸、それから手足に刻印を押しました。


 これで彼は今後一切、国の許可無しで魔法を使えなくなります。


 それを見届けたミクリ。


「さあ、お嬢様! 帰りましょう」


 手を差し伸べます。


「うん!」


 カレンはその手を受け取ると。


「あ、そうだミクリ! ちょっとしゃがんで?」


「どうしたんですか?」


「いいからいいから」


 言われるがまま、カレンの前でしゃがみ込みます。


 すると……。


「ミクリ、今回はよくできました。ちゅっ♡」


 カレンはミクリの頬にキスをするのでした。



 ◇ ◇ ◇



 後日。


 メイド長はカグラザカ当主から呼び出しを受けました。


「なあ、サーヤ? 私がお前に求めるものは何か分かっているか?」


「はい旦那様。カグラザカ一族に仇なす存在、及びリスクを徹底的に排除することです」


 当主の前で、淡々と答えるメイド長。


「ああそうだ。だがくだんについてはその相手を始末しなかったそうだな。それはお前の指示か?」



 本当の事を言ってしまえば……。


 あなたの愛娘、カレンお嬢様からの希望があったから。


 そう答えたいのがメイド長の本音です。



 しかし、この場でそれを伝えるのは果たして正解なのか……?


 メイド長は答えに窮してしまいます。


「どうした? 私はお前の指示かと聞いているんだ? 至極単純な二択のはずだが?」


「それは……」


 その時、部屋の扉が勢いよくバーンと開きます。



「あなた! 私の可愛い可愛いサーヤに説教を垂れるなんて一体どういう了見ですか!?」


 やって来たのは奥方でした。


 因みに彼女は学生時代、メイド長と姉妹の契りを交わした間柄です。


 当主はあまりにも凄まじい妻の剣幕に取り乱します。


「ちょ、アキちゃん! ダメだって今入って来ちゃ! 今はほら、ね? シリアスなシーンだからさ」


「それが何? シリアスだかシリアルだか知らないけど、少々宜しいですか? 今回の件は全て私が指示を出したの!」


 机にバンっと両手を突いて、自身の顔をぐわっと夫の顔へ近づけます。


「ええ!? アキちゃんが?」


「そうですよ! あなたの執行はいつも極端なの! だから今回は死人が出ないように私が仕向けたの!」


「………」


 黙り込む夫をよそに、妻のアキは畳みかけるように話を続けます。


「いま私達はウィザードの撲滅に向けて少しでも情報を得なければいけない状況です! それなのに情報源を自ら潰そうだなんて一体全体何をお考えになっていらっしゃるの?」


 さらに畳みかけます。


「それに何かあればすぐ始末だの殺せだの……そんな独裁的な事をいつまでもやっていたらいつか身を滅ぼしますよ! 何より、カレンの教育に悪いわ! あなた? 私の言っている事、なにか間違っていますか?」


 バンッと両手で机を叩いた所でようやくターンエンドです。



 そして自ターンが回ってきた夫。


 黙ったまま、顔をブンブン横に振って妻の発言を全肯定します。


「よろしい。では今後の方針は決まったも同然ですね?」


 それに対して今度は首を縦に振る夫。


 アキは満足げに振り返ると、義妹に声を掛けます。


「さあ、行きましょうサーヤ」


「よ、宜しいのですか?」


 困惑するサーヤ。


「あー、いいのいいの。高級な茶葉が手に入ったのよ。今から一緒に頂きましょう」


 そんなやり取りをしながら部屋を後にしようとする二人を当主は呼び止めます。


「ちょっと待ってくれ」


「まだ何か?」


 不機嫌そうに振り返るアキ。


「いや、本当はね。これを渡そうと思って呼んだんだ」


 当主はアタッシュケースを机に置くと、その中身を取り出します。


「「!?」」


 驚く二人。


 更にその説明を聞くとすぐに感心します。


「流石あなた! それならそうと早く仰ってくれたら良かったのに……。回りくどいったらありません」


「面目ない……」


 さて、アキとサーヤが感心したその中身が一体何だったのか……?


 それはまた次のお話。



 ◇ ◇ ◇



 そしてある日の早朝、ミクリの部屋。


「もう! 朝だよ! ミクリ早く起きなさーい!」


 時間になっても全くベッドから降りようとしないミクリの身体を揺さぶるカレン。


「うーん……。あと五分………zzz」


「寝るなー! もう! わたしは本気よ! 本気であなたを起こしているの! わたしの本気のお願いは全て叶えてくれるんじゃなかったの!?」


「zZZZ……」


 あと五分と言っておきながら、深い眠りにつくミクリ。


「もう! ミクリは本当に困ったさんなんだから!」


 ご令嬢の悩みは尽きません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る